短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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帰り道

ヒサヤの…

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 ナオの水着、すごく似合っててチョーかわいかった。
 何でもないときに「水着写真撮らせて」って、なんかヘンタイっぽくて言いづらいし、プールは絶好のチャンスだと思ってたんだけどな。胸ないとか言って怒らせたのがまずかったか?
 迷惑行為とかいろいろうるさいらしいから、俺も軽率っちゃ軽率だったけど、あのオヤジの言い方がムカついたんだよね、「常識のねえクソガキが来るな!」とか言って。
 ナオなら分かってくれるかと思ったら、「いい加減にしなよ」って、ひどくね?

 俺はそんなことを考えながらも、ナオにちゃんと謝んなきゃってのも考えてた。
 まず形だけでも謝らないと――というと取り繕ってるみたいだけど、俺の本当の気持ちを話しても聞いてもらえなさそだし。

 家に帰るラストスパートのところが結構な急坂で、いつもなら勢いで登っちゃうけど(暗いし人いないから、調子に乗って「ピークスパイダーとは俺のことっショ!」(CV森久保祥太郎)とか言って、体揺らしたりできる)、泳いでて結構疲れたし、気落ちしてたから、俺は自転車を下りて家まで押すことにした。

 したら、近所にいつも人気ひとけのない家(一応住んでる)があるんだけど、そこの家の前にうずくまって、ごそごそ何かやってる人影が見えた。
 たしかおばあちゃんのひとり暮らしって聞いてたのに、人影はそうっぽくない。何だろって思って足を止めて見てたら、そいつの手元(?)がぼっと明るくなった。マッチを擦ってたらしい。
 ちなみに、ばあちゃんちの前には結構目立つ場所に、青くて大きなポリバケツがある。

(え、まさか…)
 俺は何でか嫌な予感がして、つい気になって聞いちまった。
「あの…何やってるんですか?」
「あ゛!?」
 怒ったような下品な声を出し、振り返ったのは、若い?男?だった。
  暗闇だから服装はよくわかんないけど、夏なのに長袖。ニット帽かぶってて、立ち上がった身長は俺(172センチ)と同じくらい。

 男は俺に体当たりした。
「うっ!」
 すげえ激痛が走って、立っていられなくなった。
「待て…よ」
 男に声をかけようにも、力が入らない。

 朦朧とした頭で、俺はどうやら刃物で刺されたらしいことを認識した。

 こういうのって抜いちゃ駄目なんだっけ…とか、夏でも放火魔?っているんだなあとか(冬とかはよく同報無線で注意してるけど)、このまま這って家まで帰ったら、母ちゃん腰抜かすかなあとか、ナオに連絡しなきゃとか、いろんなことが頭に浮かぶが――体も頭もうまく働かなくて、どうなるんだ、俺。
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