上 下
77 / 82
ヒロインの条件

【終】お似合いのカップル(あとがきあり)

しおりを挟む

 多分、話がしっかり聞こえるのは、本当に近くの席の人だけだろうけど、幸いそこは空席だった。
 でも、ミーちゃんは結構大柄で華やかな子だし、エイゴくんは1年生にして校内では有名人だし、同じ学校の人も少しいる公衆の面前で、そんな2人そろって頭を下げるようなパフォーマンスをしているのを見たら、みんな「ただごとではなさそう」くらいに思うだろう。

 周囲は三角関係のもつれか何かみたいに見るかもしれない。
 そういうのは無縁で平穏に生活しているというのに、勘弁してほしい。

「あのね、どうしてそんな誤解があったか分からないけど、私エイゴくんのこと、別に何とも思ってなくて…」
「何とも、って?」

 そこで、「かわいい」と評判のエイゴくんの顔が、少し悲しそうにゆがんだ。

「あ、そういう意味じゃなくて、水泳すごいし、みんなに好かれててすごいなって思うけど……(それだけっていうか……)」

 さっきのエイゴくんの表情から察するに、()内は省略した方がいいと思って言葉を飲み込んだが、それがまずかったようだ。

「ほら、やっぱりあんたも好きだったんじゃない!」
「(え、えー……)」

 面倒くさいが、ここはどうやら、「そういう」ことにしておいた方が話が早そうだ。

「そ、だね。でも2人お似合いだし、邪魔する気は全然ないよ?」

 私はそこで苦手な笑顔をつくったが、多分ミーちゃんたちは、「断腸の思いで親友の恋を祝福するけなげなモブ子」みたいな気持ちでその表情を見たことだろう。
 申し訳なさそうな態度に、嬉しさがにじんでいる(ような気がした)。

 さて、私の恋心を踏みにじって罪悪感たっぷりのカップルは、肩の荷が降りた。
 私が食べていたカニグラタンパイもカルピスも、残りわずか。
 となると、お邪魔虫はさっさと帰るべきなのだろう。

「じゃ、私は先に行くね。ごゆっくり」

◇◇

 その夜、エイゴくんからSMSが来た。
 クラスメートってことで、念のために電話番号を取り交わしたことはあったけれど、私はチャットツールを使っていないので、エイゴくんに限らず時々あることだ。

「今日は本当にごめん。実はミーから告白されたとき一番最初に頭に浮かんだのはキミの顔だったんだ。キミがオレのこと好きなのは知ってたけど、キミたち」
「は仲良さそうだし、OKするかどうかほんとに迷ったもしキミが先に告白してきてたら、オレだって・・・本当ごめん」

 みたいな感じで、適当なこところで2分割されてきた。
 ……いろんな意味でだるい。

 このSMS、よっぽどミーちゃんにそのまま転送しようかとも思ったけれど、それはやめておいた。
 「武士の情け」的なあれではなく、ただただひたすら、これ以上巻き込まれることが面倒くさいからだ。

 少し遅れてミーちゃんから電話が来た。改めての謝罪と、「言い忘れてたけど」という付け加え。

『今日のシャザイって、エイゴくんが提案したんだよ』
「そうなの?」
『あんたがエイゴくんのことじっと見てたりして、気持ちは知ってたから、ちゃんとけじめつけておきたいって』
「……そうか。いいカレシだね。本当にだと思う」
『ありがと!お休み』
「うん、またあしたね」

◇◇

 私は部屋の電気を落とし、ベッドに入ってスマホで小説のアプリを開いた。
 最近気に入っている高校生の恋愛ものの続き。

 ヒロインがものすごく気が強くて自分勝手で、リアルにいたら付き合いたくないタイプなんだけど、話にメリハリがあるし、台詞が面白い。
 『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラみたいな?(古いか……)
 こんな言い方はナンだけど、この人が主人公だったら、多分恋愛モノでなくても面白かったろうなと思う。

 多少自分勝手じゃないと、ヒロインはサマにならないってことか……。

 もうすぐ日付が変わる。

 私はモブらしく、「ふわわ~」という工夫のないあくびを一つして、アイマスクを目の上にしっかりつけ、本格的に寝ることにした。

 「暗闇でも、アイマスクした方が眠りに集中できるんだって」って話をミーちゃんにしたとき、「あ、そ」と興味なさそうだったのに、他の子としゃべっているとき、自分発信の蘊蓄うんちくとして披露しているのを見かけたっけなあ、なんて思い出しながら。

【『ヒロインの条件』了】


◆あとがき◆

『ヒロインの条件』へのアクセス、まことにありがとうございます。

 今回の内容は、多少の小ネタは経験談から絞り出したものですが、最近感じていたモヤモヤを言語化したものです。
 つまり、自分にしか興味がない人ほど、他人にやたら関わってくるよなあ…みたいな感じといったらいいでしょうか。

 世界の狭いおばちゃんである私は、他人とそうそうディープな話をする機会も少なくなりましたが、Twitterの「隙あらば自分語り」な方を見かけると、いつもそれを思います。
 自分語りといっても、その場に合う軽いリプライや引用程度だったら、それはそれでケーススタディーとしての役割を果たすでしょうが、人に絡んだ上に、自己リプを幾つも重ねてああでもない、こうでもないとしゃべり倒している人を見ると、「あ、この人迷宮に入っちゃったな」と感じます。書いているうちに、最初のとっかかりを忘れている感のある人もよくお見掛けします。

 自分の人生の中では、当然人生が主人公です。
 その際、昔のシャフトやブレインズベースあたりのアニメみたいに、周囲モブを「人生ゲーム」の棒人間みたいなので表し、台詞の一言もしゃべらないという演出をする人と、周囲にも必ず何らかの役を振り、台詞をしゃべらせる人がいるのではないでしょうか。

 まさに企画・イベントが大好きなタイプの人がよく使う「周囲を巻き込んで」という状態です。

 長いこと地味にひっそり生きてきた人間の1人として、いわゆる「蚊帳の外」に置かれることにはあまり不安も不満もないのですが(自分に無関係なことなら、ですよ)、どうも仲間外れをつくるのをよしとしない人というのがいて、入ってこいやと手招きをされる――こういうのだりぃよなあと思っていたので、最初のタイトルは「蚊帳の外」でした。
 が、一応最後まで書いてみると、何となくピンと来なかったので、『ヒロインの条件』と改題しました。
 また蛇足ですが、作中のキャラクターの名前について。
 「ミー」はミーイズム【meism】、エイゴは「エゴイズム【egoism】」から取りました。
 読んでいただければ分かりますが、自分大好きなよくいる高校生、程度なので、ここまできついネーミングでなくてもよかったかなと少し反省しています。
 「私」は「モブ主人公」という立ち位置のため「並みナミちゃん」。
 ほかの友達の名前は単なる思いつきです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...