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ヒロインの条件
【終】お似合いのカップル(あとがきあり)
しおりを挟む多分、話がしっかり聞こえるのは、本当に近くの席の人だけだろうけど、幸いそこは空席だった。
でも、ミーちゃんは結構大柄で華やかな子だし、エイゴくんは1年生にして校内では有名人だし、同じ学校の人も少しいる公衆の面前で、そんな2人そろって頭を下げるようなパフォーマンスをしているのを見たら、みんな「ただごとではなさそう」くらいに思うだろう。
周囲は三角関係のもつれか何かみたいに見るかもしれない。
そういうのは無縁で平穏に生活しているというのに、勘弁してほしい。
「あのね、どうしてそんな誤解があったか分からないけど、私エイゴくんのこと、別に何とも思ってなくて…」
「何とも、って?」
そこで、「かわいい」と評判のエイゴくんの顔が、少し悲しそうにゆがんだ。
「あ、そういう意味じゃなくて、水泳すごいし、みんなに好かれててすごいなって思うけど……(それだけっていうか……)」
さっきのエイゴくんの表情から察するに、()内は省略した方がいいと思って言葉を飲み込んだが、それがまずかったようだ。
「ほら、やっぱりあんたも好きだったんじゃない!」
「(え、えー……)」
面倒くさいが、ここはどうやら、「そういう」ことにしておいた方が話が早そうだ。
「そ、だね。でも2人お似合いだし、邪魔する気は全然ないよ?」
私はそこで苦手な笑顔をつくったが、多分ミーちゃんたちは、「断腸の思いで親友の恋を祝福するけなげなモブ子」みたいな気持ちでその表情を見たことだろう。
申し訳なさそうな態度に、嬉しさがにじんでいる(ような気がした)。
さて、私の恋心を踏みにじって罪悪感たっぷりのカップルは、肩の荷が降りた。
私が食べていたカニグラタンパイもカルピスも、残りわずか。
となると、お邪魔虫はさっさと帰るべきなのだろう。
「じゃ、私は先に行くね。ごゆっくり」
◇◇
その夜、エイゴくんからSMSが来た。
クラスメートってことで、念のために電話番号を取り交わしたことはあったけれど、私はチャットツールを使っていないので、エイゴくんに限らず時々あることだ。
「今日は本当にごめん。実はミーから告白されたとき一番最初に頭に浮かんだのはキミの顔だったんだ。キミがオレのこと好きなのは知ってたけど、キミたち」
「は仲良さそうだし、OKするかどうかほんとに迷ったもしキミが先に告白してきてたら、オレだって・・・本当ごめん」
みたいな感じで、適当なこところで2分割されてきた。
……いろんな意味で怠い。
このSMS、よっぽどミーちゃんにそのまま転送しようかとも思ったけれど、それはやめておいた。
「武士の情け」的なあれではなく、ただただひたすら、これ以上巻き込まれることが面倒くさいからだ。
少し遅れてミーちゃんから電話が来た。改めての謝罪と、「言い忘れてたけど」という付け加え。
『今日のシャザイって、エイゴくんが提案したんだよ』
「そうなの?」
『あんたがエイゴくんのことじっと見てたりして、気持ちは知ってたから、ちゃんとけじめつけておきたいって』
「……そうか。いいカレシだね。本当にお似合いだと思う」
『ありがと!お休み』
「うん、またあしたね」
◇◇
私は部屋の電気を落とし、ベッドに入ってスマホで小説のアプリを開いた。
最近気に入っている高校生の恋愛ものの続き。
ヒロインがものすごく気が強くて自分勝手で、リアルにいたら付き合いたくないタイプなんだけど、話にメリハリがあるし、台詞が面白い。
『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラみたいな?(古いか……)
こんな言い方はナンだけど、この人が主人公だったら、多分恋愛モノでなくても面白かったろうなと思う。
多少自分勝手じゃないと、ヒロインは様にならないってことか……。
もうすぐ日付が変わる。
私はモブらしく、「ふわわ~」という工夫のないあくびを一つして、アイマスクを目の上にしっかりつけ、本格的に寝ることにした。
「暗闇でも、アイマスクした方が眠りに集中できるんだって」って話をミーちゃんにしたとき、「あ、そ」と興味なさそうだったのに、他の子としゃべっているとき、自分発信の蘊蓄として披露しているのを見かけたっけなあ、なんて思い出しながら。
【『ヒロインの条件』了】
◆あとがき◆
『ヒロインの条件』へのアクセス、まことにありがとうございます。
今回の内容は、多少の小ネタは経験談から絞り出したものですが、最近感じていたモヤモヤを言語化したものです。
つまり、自分にしか興味がない人ほど、他人にやたら関わってくるよなあ…みたいな感じといったらいいでしょうか。
世界の狭いおばちゃんである私は、他人とそうそうディープな話をする機会も少なくなりましたが、Twitterの「隙あらば自分語り」な方を見かけると、いつもそれを思います。
自分語りといっても、その場に合う軽いリプライや引用程度だったら、それはそれでケーススタディーとしての役割を果たすでしょうが、人に絡んだ上に、自己リプを幾つも重ねてああでもない、こうでもないとしゃべり倒している人を見ると、「あ、この人迷宮に入っちゃったな」と感じます。書いているうちに、最初のとっかかりを忘れている感のある人もよくお見掛けします。
自分の人生の中では、当然人生が主人公です。
その際、昔のシャフトやブレインズベースあたりのアニメみたいに、周囲を「人生ゲーム」の棒人間みたいなので表し、台詞の一言もしゃべらないという演出をする人と、周囲にも必ず何らかの役を振り、台詞をしゃべらせる人がいるのではないでしょうか。
まさに企画・イベントが大好きなタイプの人がよく使う「周囲を巻き込んで」という状態です。
長いこと地味にひっそり生きてきた人間の1人として、いわゆる「蚊帳の外」に置かれることにはあまり不安も不満もないのですが(自分に本当に無関係なことなら、ですよ)、どうも仲間外れをつくるのをよしとしない人というのがいて、入ってこいやと手招きをされる――こういうのだりぃよなあと思っていたので、最初のタイトルは「蚊帳の外」でした。
が、一応最後まで書いてみると、何となくピンと来なかったので、『ヒロインの条件』と改題しました。
また蛇足ですが、作中のキャラクターの名前について。
「ミー」はミーイズム【meism】、エイゴは「エゴイズム【egoism】」から取りました。
読んでいただければ分かりますが、自分大好きなよくいる高校生、程度なので、ここまできついネーミングでなくてもよかったかなと少し反省しています。
「私」は「モブ主人公」という立ち位置のため「並みちゃん」。
ほかの友達の名前は単なる思いつきです。
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