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ヒロインの条件
待ち合わせのドーナツショップ
しおりを挟む私はある日の放課後、ミーちゃんに「話したいことがある」と言われ、ドーナツ屋さんに呼び出された。
私はミーちゃんとは小学校からの付き合いで、家も近いので、放課後遊んだり、一緒に帰ったりすることは、昔から割とあった。
社交的な彼女は高校入学以降、交際範囲が広がったせいか、むしろそういう頻度は落ちたけれど。
それにしても、「帰りにドーナツ食べていこう?」ではなく、呼び出しだったことに少し不審なものを覚えたけれど、「ん、わかった」と返事した。
◇◇
ぐるっと見回してみると、同じ高校の制服の子はいたものの、ミーちゃんらしき影は見当たらなかった。
適当にわかりやすそうな四人掛けの席に腰かけて待っていると、ミーちゃんが2、3分遅れてやってきた。
だたし、1人ではない。
身長181センチ、柔らかそうな短いくせ毛、下がった目じりと上がった口角――エイゴくんが、ミーちゃんの少し後ろについてきている。
「遅くなってごめんね」
「……でもないけど……エイゴくん?」
「あー、今日は部活の休息日だから」
「うん……?」
正直休息日だろうがサボりだろうが、そこはどうでもいい。
私はエイゴくんには全く興味はないし、私を呼び出したのはミーちゃんのはずなのに、なぜエイゴくんがいるの?という疑問が私の語尾を上げただけなんだけど、エイゴくんは(趣旨の捉え方はともかくとして)私の疑問に答えてくれたようだ。
「俺買ってくるよ。ミー、何がいい?」
「あ、じゃーね、アップルパイとカフェオレ欲しい」
「“いつもの”か」
「そういうこと」
「わかった。ちょっと待っててね」
「ありがと」
私の正面に座ったミーちゃんとエイゴくんは、それはそれは物慣れた調子で仲睦まじくやりとりをしている。
「ミーちゃん、エイゴくんと付き合っているんだ?」
私は特に意味もなくそう尋ねたが、ミーちゃんはいかにも意外そうな調子で、「どうして知ってるの?」と答えた。
「いや、知らなかったけど、今の見ててそうかなって」
私じゃなくても、何なら2人を全く知らない人もでもそう思うだろう。
「そっか、ごめんね……」
ん?ミーちゃんは一体何を謝っているんだろう?
◇◇
少し間があり、エイゴくんが自分のオールドファッションとブレンド、そしてミーちゃんのアップルパイとカフェオレが載ったトレイを持ってきて、ミーちゃんの隣に腰かけた。
すると、ミーちゃんは「……ほら」と言いながらエイゴくんの下腕に軽く触れ、エイゴくんは「ん……」と言いながら軽く首を縦に振り、そこで2人は目線を交わし合った。
そして、示し合わせたように「ごめん」と2人で頭を下げた」
「え、なに?」
私が炭酸が飲めないことを忘れ、ミーちゃんがコーラを勧めてきたことは、こんなふうにされるほど「ひどい」ことではなかったし、そもそもミーちゃんは既にあのとき謝っている。
というか、エイゴくんに至っては、会話すらまともにしたことがないのに。
「あんたの気持ち知ってるけど……でも、私もエイゴくんのこと好きで……」
「俺もミーのこと、その……前からいいなって思ってたから……」
おお、相思相愛、いい話じゃん。
エイゴガールズは少し騒ぐかもしれないけど、私は祝福するよ。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
「あの……“私の気持ち”ってどういう意味?」
「だってさ……エイゴくんのこと好きなんでしょ?」
「はい……?ええと、それって誰かと間違えてない?」
炭酸が飲めなくなった理由とはわけが違う。
まああの話も、先々私が「炭酸はちょっと」とか言うたびに持ち出されるんだろうなと思うと、多少はモヤるけれど、もうそういう次元ではない気がした。
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