短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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彼女はギンモクセイ

ミズキとナツコの彼氏

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 キンモクセイとギンモクセイ、そしてそのどちらもきれいだなと思って見ているだけの私は、そろって同じ中学、高校に進学した。

 高校生ともなると、名前を呼び捨てにすることも多いが、ミズキちゃんだけは、私たちを「ナッちゃん」「チイちゃん(チアキという名前なので)」とちゃん付だった。
 私は2人とも呼び捨てだから、ここから先は呼び捨てで話したいと思う。

+++

 小学生のときのまま、ナツコは強気で華やか、ミズキはおっとりして人に気を遣う性格のまま。
 二人とも男の子には結構人気があって、特にミズキのよさに気づき始めた――というか、好意を隠さなくなった男子が昔より多いように見える。

 ミズキは大学の文化祭で知り合った3つ年上の彼氏ができて、ナツコはそれを祝福しつつ、「付き合い悪くなった」と愚痴っていた。
 自分からのろけるような子ではないが、やっぱり自慢の彼氏について話したいことはあるのだろう。いろいろ質問したら、うれしそうに話してくれた。

「お母さんがお料理好きだから、
 ひとり暮らしのアンノさん(彼氏)をうちに呼んでいろいろ食べてもらうの。
 あとは私の部屋でDVDを見たり、近所の公園を散歩したりかな」
「あんまり出かけないってこと?」
「たまには映画とかも行くけど、私もそんなにお小遣いないし、彼にあんまりお金使わせるのも申しわけないし」

 正直、20歳やそこらの大学生が、それに甘んじているのを不思議に思ったが、それこそ人それぞれだ。
 2人がそういう低刺激の関係を望んでいるなら、他人が口を出すこともないし、何よりもミズキらしいなと思える話でもある。

+++

 時を同じくして、ナツコから気になる話を聞いた。
 「あんたの知らない子だけど」と前置きした上で、「デート中の子にLINE送りまくったり電話したりして、妨害するのが楽しい」的な趣旨だった。

「それはさすがによくないんじゃない?何がしたいの?」
「だって男の方が私を振ったヤツなんだよ。
 ぶち壊してやりたいって思うよ、普通」
 振られ方にもよるだろうけど、私にはない発想だなと思って聞いていたら、こうも言った。
「まあ本当はあんなやつ、もうどうでもいいんだけどさ。私を無視する男がいるっていうのが許せないだけ。やめるよ」

 どういう状態になったら「気が済む」のか分からないけれど、シャレにならない状態になる前に終わるといいな、と漠然と考えた。

+++

 ミズキはアンノさんとクリスマス前にお別れし、ナツコには大学生の彼氏ができた。
 このとき初めて線がつながったが、ナツコの言った「あんたの知らない子」は、実はミズキにほかならなかったのだ。はっきり言えば、ナツコがアンノさんを寝取ったということらしい。
 ミズキに聞いても、「好きな人ができたから別れたい」としか言われなかったらしいし、彼女本人がそれ以上しつこく追及はしていないようだ。

 何にせよ、アンノさんという人は、セックスというエサをぶら下げられて、ふらふら浮気するような男だったわけだが、真相を知らないミズキはしばらく元気がなかった。
 おかげで、と言ったらあれだが、私はミズキと一緒に過ごす時間が増え、一層彼女の美点を見つけられた。
 こんないい子なんだから、きっと私なんかが心配しなくても、すてきなお相手が見つかるだろう。

+++

 一方ナツコは、アンノさんとバレンタインまでもたなかった。
 正直興味もなかったので、自分からは聞こうと思わなかったが、「あんな見る目のないやつ」と言っているところを見ると、どうやら振られたようだ。
 その後、アンノさんからミズキに対して復縁を迫る連絡が来たものの、「今はそういう気持ちになれなくて…」と断ったという。

 そしてさらに、実はそれ以外にも、ナツコが結構いろいろなカップル相手にやらかしているという情報が耳に入ってきた。

ケースA。
「デート中に偶然会ったんだけど、急にカレシの腕に絡みついて、
 『両手に花~♪』とか言ってさ。
 カレシはカレシでちょっとデレっとしているから、
 ムカついてケンカになっちゃった」

ケースB。
「好きな人がいるけれど、その人には付き合ってる人がいて
 …という相談を、私のカレシにしてきた。
 もう最後まで聞かなくても分かるよね?
 『好きな人って、あなただよ』ってオチ。
 バッカみたい。それでカレシが本気で悩んでるの見て冷めた」

 ほぼこの2パターンのバリエーションみたいな話だが、(アンノさんも含めて)みんなそれでナツコになびくような程度の男だったという言い方もできるし、いろいろ褒められたもんじゃない。

 それはそれとして、ナツコと何も知らないミズキは仲のいい親友同士だったし、私はそれぞれを何となく観察しているうちに、高校卒業の運びとなった
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