短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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お面をはずして

欲しいもの

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 いつもは自炊だが、バイト代が入った後はファミレスで食事をするのが月一回の楽しみだった。

 家から歩いて10分の店で、のぼりに「ハンバーグセット 800円(税抜き)」と書いてあった。
 2人ともハンバーグが大好きだったので、でシズル感たっぷりのおいしそうな写真を使っていたのに騙された。
 注文してみるとびっくりするほど小さくて、つけ合わせも粗末だった。

 ただし、スープバーがつく上に、種類が豊富で味がいい。2人ともドリンクバーには目もくれず、スープばかり3杯はお代わりした。
 ユウナはニンジン、カズサはコーンが嫌いだったので、お互いの付け合わせを交換して食べた。
 3回も行くと、ハンバーグの小ささにも不満を持たなくなった。

 ▽▽

 ファミレスの隣に中くらいの大きさのドラッグストアがあって、その前にはずらっとガチャの機械が並んでいる。
 アニメキャラものからジョークグッズのようなものまで、種類はさまざまだ。
 そんな中で、カズサはあるものに目をつけた。

「こんこん花模様 1回400円」

 ほかのものより値段は高いが、白と黒のキツネのマスコットに、それぞれイメージカラーとイメージしている花があって、それをデザインしたお面がついているという、とても凝ったつくりだった。

「これ、かわいくね?」
「あ、かわいー。でもちょっと高いねえ…」
 カズサが財布の中を確認したら、100円玉が6枚あった。
「ねえ、ユウナ。お前100円何枚持ってる?」
「ええとね――3枚、かな」
「じゃ、200円貸して。すぐ返すから」
「いいけど…?」

 カズサは自分の手持ちの600円と合わせ、合計800円使って2回「コンコン花模様」を回した。
 一つ目が、白くて耳が赤く染まったキツネのマスコットに白いお面がついていて、ツバキの赤い花がお面のおでこあたりに描いてあった。
 もう一つは黒いキツネに黒いお面。花は赤いマンジュシャゲだった。
 全部で8種類あるらしいが、その中でも、キツネの表情もお面のデザインも、どちらかというと大人っぽい感じのもののようだ。

 カズサはユウナにどっちがいいか尋ね、ツバキの方を渡し、自分はマンジュシャゲのを机の上に飾った。
 カプセルの中に、全種類のマスコットの写真が入った紙が入っていたので、カズサはそれをマジマジと見つめた。
「ふうん…」
「どうかした?」
「よく見ると、キツネの顔も少しずつ違うんだな」
「え?あ、本当だ!口とか目とかちょっとずつ違うね。でもみんなかわいー」
「この笑ってるのとかいいよな」
「あたしはこっちがいいな。お面の花もスミレだし」
 ユウナはそう言って、耳が紫に染まった白いキツネを指さした。
「でも、全部いいね。全部欲しいかも」
「全部、か…」
「あ、でも今日のツバキのもかわいいし!」

 ユウナはいやな予感がしてそうつけ加えた。
 カズサは昔からユウナよりもガチャをよく回す方だったが、全種類コンプリートしたいといって、欲しくもないものを集めるくせがあったからだ。

「ああいうの、もうやめなよね」
「わかってるよ…」

 カズサはそう答えたが、ユウナは「…」という変なタメを感じて気が気ではなかった。

▽▽

 次の日カズサは「ティッシュ買ってくる」と言ってドラッグストアに出かけたが、ティッシュのストックはまだ2セットもあった。
 そして、「♪今日の戦利品♪」と言いつつ、耳がピンクの白いキツネのマスコットをユウナに渡した。おでこ全体に桜の花が散ったデザインで、細めた目元にピンクのアイラインが入ったようなデザインのお面がついているが、本体のキツネの方は、にっこりあどけなく笑っている顔があいらしい。

 ユウナは、ドラッグストアに行ったんだから、回しただけだろうと、そのときは気にしないようにした。

 翌日はカズサだけアルバイトだったが、帰りにこの間と同じツバキのお面のキツネを連れて帰ってきた。
「たまたま財布に400円あったから」と言う。
 ガチャはよく景品がかぶることもあるし、これもあまり気にしないようにした。

 しかし、その翌日、「洗濯の洗剤買ってくる」とドラッグストアに行こうとして、「100円玉何枚ある?」と聞いてきたときは、さすがに考えてしまった。
「今使ってる洗剤コンビニのだから、ドラッグストアに行く必要ないよ」
「ドラッグストアの方が安いだろう?」
「違うよ、コンビニのプライベートブランドだから安いの」
「そうか――で、100円持ってない?」
「ない!」
 いつもはおっとりしたユウナが大きな声を出したので、カズサは少し驚いた顔をした。

 ここであきらめるかと思ったが、少し上目づかいで考えた後、「じゃさ、シャンプー。ストック買ってくる」と、ユウナの制止もきかないで出ていってしまった。シャンプーのストックもまだある。

 カズサ、また悪い癖が出ちゃったな…と、ユウナはため息をついた。
 パチンコばかりしている人の奥さんって、こんな気持ちかな、などと思った。
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