短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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タマゴな彼女

カレの入院

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 昨日まで全く知らなかった。
 彼に胃潰瘍と十二指腸潰瘍の持病があったなんて。

 いや、知ったところで私が治せるわけでもないんだけど。

◇◇◇

 私は高校生で、彼はちょっとだけ大人である――年だけね、年だけ。

 駄菓子とアニメとゲームが大好きな24歳児。
 いや、そんなの今の時代、全く珍しくもないだろうけれど、私のママはそれを知って、「…へえ…」と、絶対に感心したわけではないことが分かるような返しをした。

 でも、そこそこいい大学を(自称)優秀な成績で卒業し、4月からは、堅いところにお勤めが決まっている。
 その職場の研修が3月中旬から始まるので、「それまでには退院できればいいんだけど」っていう時期に、突如入院が決まった。

 今までは薬をのんで、あとは定期的に診察してもらっていたらしいけど…。

「何か黒いウンコ出ちゃってさ。念のために検査とかすることになって」

 と、食事中に言いやがった。

「やめてよ、こんなトコで」
「だって事実だもん。難しい言葉使って説明しても、どうせわかんないでしょ?」
「それはそうだけど…」

 アナタだってよく理解しないで聞いてるくせに。

「だから見舞いは食い物以外で頼むわ」
「あ、期末テスト中だからちょっと…勉強もしたいし」

 私の言葉選びが悪かったのは認める。
 だから「あんまりいっぱいは行けないけど、行けるだけ行く」という意味で言ったつもりだった。
 でも彼は、そうは取らなかった。

「何だよ、俺と期末、どっちが大事なんだよ」

 え、そういうの本当に言う人いるんだ…。
 でも、もう構ってちゃんに構っていられない。

「期末テストに決まってるでしょ」
「はあ?そこはうそでも「俺」って言えよ。それかちょっとは迷えよ」
「知らないよ。私もう門限だし帰る」
「まだ7時じゃん」
「またね」
「ちょっ…」

 私はテーブルに自分の分、600円だけ置いて店を出た。
 おごってもらうことも多かったけど、今回は額も額だし、意地もあった。
 彼はまだデザートが来ていないから、多分そこに留まるだろう。

 あなただって、どうせ私よりメリンガータの方が大事なんでしょ!

◇◇◇

 私たちは、こんなしょーもないことでしょっちゅう喧嘩している。
 だから仲直りはお手のものだ。
 今回は、 私の帰宅を見計らったらしい彼から連絡があった。

『ごめん。テスト終わってからでいいから来てよ。君の顔見たいんだ』

 と言われ、自転車で家に帰るまでの間に少し冷えた頭で「私こそ」って謝った。
 愉快じゃないこと(排泄物とか、俺と期末とか)が続いて嫌になっただけで、彼を嫌いになったわけではない。

「お見舞い何持っていったらいいかな?漫画とか暇つぶしできるもの?」

『そういうのはタブレットあるからいいよ。来てくれるだけでうれしい』

「うん。気を付けて…頑張って…?健闘を祈る?こういうときって何て言ったらいいの?」

 そこで彼の明るい笑い声が聞えた。

『手術するわけでもないし、「お大事に」でいいんじゃないか?』

「そだね。お大事に」

◇◇◇

 彼が入院した翌日から、私の期末テストが始まった。
 
 テストが終わるたび、出来栄えとか手応えとかをチャットツールで送ったら、「やったじゃん」「さすが」「残念だったな」と短い返事が来た。

 やっぱり会いたいなあ。
 まだ大した日数経っていないはずなのに、何だか長い間会っていないような寂しさを感じた。

 私は春から高校3年生になる。
 卒業後は地元の短大に進んで、卒業したら彼と――いや、いっそ学生結婚もありかな?
 そんなことを、特にビジョンもないまま想像して、ちょっとにやけてしまう程度には、彼のことが好きだ。
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