48 / 82
嗅ぐ女、匂わす女
ナオ
しおりを挟むやばっ。片方ない。落とした…?
部屋のどこかにあるか…?と、形だけ探してみるけど、やっぱりない。
落としたとしたら、多分あそこだよね、やっぱ。
昨日ちゃんと確認しとくんだった。
◇◇◇
ハルきゅんからもらった大事なワイヤレスイヤホン。
ハートのモチーフで、すごくかわいいやつ。
何色かあったけど、やっぱり着けたときにぱっと映えるから、レッドにした。
あんまりコレ系の色の服や小物持ってないから、差し色っぽい感じにもなってる。
薄いブルーのと迷って、やっぱあっちも欲しいなって思ってるから、自分で買うか、また誰かにねだるかって考えてたトコだった。
最近本命君は車買いたいらしくてバイトで忙しいので、あんまり会っていない。
退屈だからほかの子と遊んだりしてるけど、その1人がハヤトっていう人で、少し年上の社会人。
私が通ってる大学の近くのアパートでひとり暮らの人なんだけど、彼の部屋の合鍵持ってるから、たまーに平日の日中、彼がいない間に昼寝させてもらったりしてるw
ここんちの冷蔵庫って、いつもおかずとか冷凍ご飯とかあるから、ご飯代浮くし、急に休講とかになったり授業サボろうかなってときも、バイトとか約束の前の時間つぶしに使うのにぴったりなの。
たまにハヤトが家にいるときもあるけど、そういうときは「急に会いたくなっちゃって」とか甘えた声で言って、「…しよ?」とか言えばいい。
おかずはどれもおいしいし、冷蔵庫には、「おいしいご飯の解凍の仕方」なんてメモが貼ってあって大助かりだよ。
ハヤトのお母さんは料理上手みたいだから、比べられるのも嫌だし、私はあの部屋ではなーんにもしない。昼寝したり、ゲームしたり、映画見たりするくらいかな。
男の子と遊ぶの好きだけど、ほかの子とは外でデートっぽいことしなきゃならないから、ちょっと疲れるんだよね。
多分掃除もお母さんがしてくれてるんだと思う。いつもきちんと片付いてて居心地がいい。
だからハヤトの部屋は、私のオアシスだ。
大家さんがうるさいとか言って、合鍵を勝手に使って注意されたけど、「それじゃ合鍵の意味ないじゃん!」って少しキレたら、「…わかったよ」だって。
「母さんには、来るとき必ず連絡してくれって頼むから。母さんがくるときは俺から連絡する。そのときを避けてくれたらいつ来てもいいよ」ってことで話がついた。物分かりがよくて助かるぅ。
駅から大学までの間のルートにあって、何かと便利なんだから、いつでも寄れなきゃ意味ないじゃん。
本当言うと、お母さんがいたって別にいいんだけどね、私。結構年上受けいい方だし。
でも、「母さんがいるときは本当に来ないでくれ」って念押されたから、しぶしぶそれだけは聞くことにしてる。
◇◇◇
ハヤトに「ハートのイヤホンのL、部屋になかった?」って聞くために電話した。
最初は『ちょっと…今は困るよ。後でかけ直すから…』って言われたんだけど、無視して「イヤホン、イヤホン知らない?片方」って続けた。
「絶対そこだと思うんだよ。昨日つけたまま昼寝してて、ちょっと耳痛くなっちゃったらはずして、あとまっすぐ自分んちに帰ったから」
『いや、わかんないけど』
「どこにあるかわかんないから、探してみてよ」
『…って言われても…』
『わかった。じゃ、これからそっち行く。お母さんまだいる?』
『あ、その…ちょっと待って…』
◇◇◇
それまではドアが閉まる音とか、車の音とかうるさかったんだけど、その後、少し静かになった。
『ごめん。母さんが帰ったとこで。さっきまで部屋の外で話してたんだ』
「そうなんだ?」
別に「友達から」とか言っとけばいいのに、何コソコソしてんだろ。ま、いいか。
「じゃ、これから行くよ」
『分かった』
私の家(駅から4分のアパート)からハヤトの家までは、電車で15分くらいかな。駅までの徒歩とか考えると…。
「20分後ぐらいに駅まで迎えにきてよぉ」
『別に1人で来られるだろ?』
「やだよぉ。夜だよ。私のこと心配じゃないの?」
『…分かったよ』
「あと、こんばん泊まってもいいよね?」
『まあ、いいけどさ』
◇◇◇
彼の部屋に行くと、また冷蔵庫にいろいろ入ってた。
なんか野菜がいろいろ入った中華の炒め物みたいなやつ。
「こういうの好きじゃないなぁ…」
「文句言うなよ、俺の好物だからつくってもらったんだ」
「私、シチューとかグラタンとかのがいいな」
「ていうか、何でいつも勝手に食べるの?あれは俺の…」
「るっさいなぁ。ま、いいや。探さなきゃ」
◇◇◇
ハヤトの部屋はそんなに広くないから、探す場所はそんなに多くない。
寝たままつけてて、片方はずれたことに気付いてなかったのかもって思って、まずはベッド周辺を探したけど、落ちてなかった。
カーペットラグの下に入り込んで――ない。
それ以外のキッチンとかバスルームとかも念のため探したけど、やっぱりない。
「どうしよ。片方じゃ役に立たないよ」
「Rはあるんだろ?接続して何か大音量にして再生したら、Lも鳴るかもよ」
「多分電源切れてるよぉ」
「まず試してみなよ」
無駄だった…。
ああ、外したときちゃんとケースにしまっとけばよかった――って、ケース家に忘れたからポケットに入れたんだっけ。何で二つ一緒に入れなかったんだろう。
「困ったなぁ」
「諦めなよ。また買えばいいじゃん」
「あれけっこう高いんだよ!」
ていうか、ハルきゅんはカワイイ系だけど結構短気で怖いトコあるから、自分のプレゼントを私がなくしたなんて知ったら、すごいキレそう。
「そうだ。ハヤトくん、弁償してよ」
「え?」
「この部屋でなくした可能性高いんだから、半分はハヤトくんの責任もあるんじゃない?」
「そんな…」
「そうだ!なくしたのと同じものと、ついでにもう一つ色違い買ってくれたら許してあげる」
「なんだよ、それ…」
私はみんなにかわいいって言われてるし、ハヤトもいつもそう言ってる。
こんな私がわがまま言ったりするのは、男の人にとっては「ご褒美」なんだって言ってた人もいるし、じっさいハヤトも「仕方ないな」って言いながら、言うこと聞いてくれる。
片方なくしたって気付いたときはあせったけど、これは災い転じてナントカってやつかも。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる