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嗅ぐ女、匂わす女
ナオ
しおりを挟むやばっ。片方ない。落とした…?
部屋のどこかにあるか…?と、形だけ探してみるけど、やっぱりない。
落としたとしたら、多分あそこだよね、やっぱ。
昨日ちゃんと確認しとくんだった。
◇◇◇
ハルきゅんからもらった大事なワイヤレスイヤホン。
ハートのモチーフで、すごくかわいいやつ。
何色かあったけど、やっぱり着けたときにぱっと映えるから、レッドにした。
あんまりコレ系の色の服や小物持ってないから、差し色っぽい感じにもなってる。
薄いブルーのと迷って、やっぱあっちも欲しいなって思ってるから、自分で買うか、また誰かにねだるかって考えてたトコだった。
最近本命君は車買いたいらしくてバイトで忙しいので、あんまり会っていない。
退屈だからほかの子と遊んだりしてるけど、その1人がハヤトっていう人で、少し年上の社会人。
私が通ってる大学の近くのアパートでひとり暮らの人なんだけど、彼の部屋の合鍵持ってるから、たまーに平日の日中、彼がいない間に昼寝させてもらったりしてるw
ここんちの冷蔵庫って、いつもおかずとか冷凍ご飯とかあるから、ご飯代浮くし、急に休講とかになったり授業サボろうかなってときも、バイトとか約束の前の時間つぶしに使うのにぴったりなの。
たまにハヤトが家にいるときもあるけど、そういうときは「急に会いたくなっちゃって」とか甘えた声で言って、「…しよ?」とか言えばいい。
おかずはどれもおいしいし、冷蔵庫には、「おいしいご飯の解凍の仕方」なんてメモが貼ってあって大助かりだよ。
ハヤトのお母さんは料理上手みたいだから、比べられるのも嫌だし、私はあの部屋ではなーんにもしない。昼寝したり、ゲームしたり、映画見たりするくらいかな。
男の子と遊ぶの好きだけど、ほかの子とは外でデートっぽいことしなきゃならないから、ちょっと疲れるんだよね。
多分掃除もお母さんがしてくれてるんだと思う。いつもきちんと片付いてて居心地がいい。
だからハヤトの部屋は、私のオアシスだ。
大家さんがうるさいとか言って、合鍵を勝手に使って注意されたけど、「それじゃ合鍵の意味ないじゃん!」って少しキレたら、「…わかったよ」だって。
「母さんには、来るとき必ず連絡してくれって頼むから。母さんがくるときは俺から連絡する。そのときを避けてくれたらいつ来てもいいよ」ってことで話がついた。物分かりがよくて助かるぅ。
駅から大学までの間のルートにあって、何かと便利なんだから、いつでも寄れなきゃ意味ないじゃん。
本当言うと、お母さんがいたって別にいいんだけどね、私。結構年上受けいい方だし。
でも、「母さんがいるときは本当に来ないでくれ」って念押されたから、しぶしぶそれだけは聞くことにしてる。
◇◇◇
ハヤトに「ハートのイヤホンのL、部屋になかった?」って聞くために電話した。
最初は『ちょっと…今は困るよ。後でかけ直すから…』って言われたんだけど、無視して「イヤホン、イヤホン知らない?片方」って続けた。
「絶対そこだと思うんだよ。昨日つけたまま昼寝してて、ちょっと耳痛くなっちゃったらはずして、あとまっすぐ自分んちに帰ったから」
『いや、わかんないけど』
「どこにあるかわかんないから、探してみてよ」
『…って言われても…』
『わかった。じゃ、これからそっち行く。お母さんまだいる?』
『あ、その…ちょっと待って…』
◇◇◇
それまではドアが閉まる音とか、車の音とかうるさかったんだけど、その後、少し静かになった。
『ごめん。母さんが帰ったとこで。さっきまで部屋の外で話してたんだ』
「そうなんだ?」
別に「友達から」とか言っとけばいいのに、何コソコソしてんだろ。ま、いいか。
「じゃ、これから行くよ」
『分かった』
私の家(駅から4分のアパート)からハヤトの家までは、電車で15分くらいかな。駅までの徒歩とか考えると…。
「20分後ぐらいに駅まで迎えにきてよぉ」
『別に1人で来られるだろ?』
「やだよぉ。夜だよ。私のこと心配じゃないの?」
『…分かったよ』
「あと、こんばん泊まってもいいよね?」
『まあ、いいけどさ』
◇◇◇
彼の部屋に行くと、また冷蔵庫にいろいろ入ってた。
なんか野菜がいろいろ入った中華の炒め物みたいなやつ。
「こういうの好きじゃないなぁ…」
「文句言うなよ、俺の好物だからつくってもらったんだ」
「私、シチューとかグラタンとかのがいいな」
「ていうか、何でいつも勝手に食べるの?あれは俺の…」
「るっさいなぁ。ま、いいや。探さなきゃ」
◇◇◇
ハヤトの部屋はそんなに広くないから、探す場所はそんなに多くない。
寝たままつけてて、片方はずれたことに気付いてなかったのかもって思って、まずはベッド周辺を探したけど、落ちてなかった。
カーペットラグの下に入り込んで――ない。
それ以外のキッチンとかバスルームとかも念のため探したけど、やっぱりない。
「どうしよ。片方じゃ役に立たないよ」
「Rはあるんだろ?接続して何か大音量にして再生したら、Lも鳴るかもよ」
「多分電源切れてるよぉ」
「まず試してみなよ」
無駄だった…。
ああ、外したときちゃんとケースにしまっとけばよかった――って、ケース家に忘れたからポケットに入れたんだっけ。何で二つ一緒に入れなかったんだろう。
「困ったなぁ」
「諦めなよ。また買えばいいじゃん」
「あれけっこう高いんだよ!」
ていうか、ハルきゅんはカワイイ系だけど結構短気で怖いトコあるから、自分のプレゼントを私がなくしたなんて知ったら、すごいキレそう。
「そうだ。ハヤトくん、弁償してよ」
「え?」
「この部屋でなくした可能性高いんだから、半分はハヤトくんの責任もあるんじゃない?」
「そんな…」
「そうだ!なくしたのと同じものと、ついでにもう一つ色違い買ってくれたら許してあげる」
「なんだよ、それ…」
私はみんなにかわいいって言われてるし、ハヤトもいつもそう言ってる。
こんな私がわがまま言ったりするのは、男の人にとっては「ご褒美」なんだって言ってた人もいるし、じっさいハヤトも「仕方ないな」って言いながら、言うこと聞いてくれる。
片方なくしたって気付いたときはあせったけど、これは災い転じてナントカってやつかも。
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