短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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入院

2日目、手術

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 あーくんが小学校に入った頃、シュヨーってのが見つかって、手術入院することになった――って話はもうしたか。
 お医者さんの話をきいても、正直ちんぷんかんぷんだったけど、「さほど難しい手術ではないので、お気を楽に」って言われて、腹の中で「切り刻んで殺してくれてもかまいませんよ?」って思いながら、黙ってうなずいた。

+++

 2日目の午後から手術だったので午前中から行ったけど、空腹でかなり不機嫌だったみたいで、「お前の気楽そうな顔見てると、本当に腹立つなあ」と、ベッドに横になった状態で、弱々しく言われた。
 こんな憎らしいやつのために、私は手術が終わるのを何時間も待たなくちゃいけないのだ。
 しかも「家族控室」では、スマホ使っちゃだめらしい。

 雑誌も好みじゃないのばっかだし、テレビも退屈。寝てようかな…。

+++

 手術が終わった後、家族控室の隣の「病理室」という小さな部屋に呼ばれて、液体に浮かんだ白い小さなひらひらした欠片を見せられた。

(うわっ、こんなの見たら、しばらく鶏皮食べたくなくなる…)

「詳しく調べないと分かりませんが、多分悪性ではないと思われます」と言われて、腹の中で舌打ちした。
 でも悪性だったら、よくわかんないけど多分もっと面倒なことになって、また私がいろいろ面倒くさいことしなきゃいけないんだよなと思ったら、「よかった…」って言葉が自然に出てきた。
 緑の服を着て、銀色のめがねをかけた40歳くらいのお医者さんが「奥さんもお疲れさまでした。旦那さん、もうすぐ麻酔が覚めるので、お話しできますよ」って、優しく笑って言った。

 こういう人の奥さんって、きっときれいで上品で教養があって、絶対「ダンナ死ね」なんて思わないんだろうなって、何となく思った。

 +++

 麻酔は覚めているはずだけど、ダンナはぼーっと寝ているんだか起きているんだか分かんない状態で、私が「そろそろ帰るね。また明日来るよ」って言っても、「…ん…」って力なく言っただけだった。

 +++

 その夜は風が強かったせいもあって、何だかちょっと怖かった。
 風の音が怖いっていうのもあるけど、とっても不安な気持ちが、アパートのそばににある大きな木の葉っぱみたいに、強い風に揺すられているみたいなかんじ。気持ちがガサガサ、ザワザワしてる。

 「たまにはいいでしょ」って言ってあーくんと一緒にお風呂に入っても、ご飯を食べていても、ベッドに入っても、とても不安な気持ちになった。

 しかもこんなふうに思っちゃったんだ。
「ダンナ…あのまま死んじゃったら、私はどうしたらいいんだろう?」
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