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お大事に(笑)
【終】ムスコさん
しおりを挟む男は浮気するでもなく、仕事をサボるでもなく、ごく普通の善良な夫だったが、善良なだけだった。
女は家を出た時点では強い離婚の意思はなかったものの、今後のお互いの挙動次第では、どうなるか分からない――とは思っていたし、「それならそれで」という思いもなくはなかった。
女に甘える、頼るまではいいとして、少し調子が出てくると、心無い言葉で悪気なくからかったりする。
それで女が不機嫌な様子を見せればおろおろするだけ。
要するに男は、その辺の小学生男子と変わらないメンタリティーだった。
◇◇◇
女が家を出ると、男は困惑のあまり、まず自分の実家に相談をした。
すると、日ごろから明らかに女に言いたいことがたっぷりありそうだった男の母は、「こんな言い方は何だけど…わたしは前から思っていたのよ。ひょっとして子供がいつまでもできないのは…」となど意味ありげに言い、ご丁寧に「知人の妙齢のお嬢さん」とやらまで男に引き合わせていた。
こうなると、女の方も男にしがみつく理由もない。
それなりの金額を提示され、あまりごねずに離婚に応じた。
確かに「いろいろどうでもよくなっていた」女ではあったが、それでもこの扱いはあまりにもあまりにもだ。
女はぜひ一矢報いたいと思った。
「2年間ありがとうございました。ムスコさん、使い物になるといいですね」
女は久々に一目ぼれして買ったばかりの紺色のワンピースを着て、表情が柔らかに見えるメイクをしていた。
その少しかしこまったいでたちで、自分より少し若い女に甘えるように腕を取られてデレっとしている男に対して、満面の笑みでそう告げた。
真顔になる男、ひきつった表情を浮かべる若い女。
「お大事に」
末永くお幸せに――の代わりに選んだ、最高のはなむけ。
人はまあ、こんな(しょーもない)理由でも離婚まで至ったりしますよという、そんなお話。
【『お大事に(笑)』 了】
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