短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
41 / 82
お大事に(笑)

【終】ムスコさん

しおりを挟む


 男は浮気するでもなく、仕事をサボるでもなく、ごく普通の善良な夫だったが、善良なだった。
 女は家を出た時点では強い離婚の意思はなかったものの、今後のお互いの挙動次第では、どうなるか分からない――とは思っていたし、「それならそれで」という思いもなくはなかった。

 女に甘える、頼るまではいいとして、少し調子が出てくると、心無い言葉で悪気なくからかったりする。
 それで女が不機嫌な様子を見せればおろおろするだけ。
 要するに男は、その辺の小学生男子と変わらないメンタリティーだった。

◇◇◇

 女が家を出ると、男は困惑のあまり、まず自分の実家に相談をした。
 すると、日ごろから明らかによめに言いたいことがたっぷりありそうだった男の母は、「こんな言い方は何だけど…わたしは前から思っていたのよ。ひょっとして子供がいつまでもできないのは…」となど意味ありげに言い、ご丁寧に「知人の妙齢のお嬢さん」とやらまで男に引き合わせていた。

 こうなると、女の方も男にしがみつく理由もない。
 それなりの金額を提示され、あまりごねずに離婚に応じた。

 確かに「いろいろどうでもよくなっていた」女ではあったが、それでもこの扱いはあまりにもあまりにもだ。
 女はぜひ一矢報いたいと思った。

「2年間ありがとうございました。、使い物になるといいですね」

 女は久々に一目ぼれして買ったばかりの紺色のワンピースを着て、表情が柔らかに見えるメイクをしていた。
 その少しかしこまったいでたちで、自分より少し若い女に甘えるように腕を取られてデレっとしている男に対して、満面の笑みでそう告げた。

 真顔になる男、ひきつった表情を浮かべる若い女。

「お大事に」

 末永くお幸せに――の代わりに選んだ、最高のはなむけ。


 人はまあ、こんな(しょーもない)理由でも離婚まで至ったりしますよという、そんなお話。

【『お大事に(笑)』 了】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件

石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」 隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。 紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。 「ねえ、もっと凄いことしようよ」 そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。 表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

女難の男、アメリカを行く

灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。 幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。 過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。 背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。 取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。 実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。 大学名に特別な意図は、ございません。 扉絵はAI画像サイトで作成したものです。

ある雪の日に…

こひな
ライト文芸
あの日……貴方がいなくなったあの日に、私は自分の道を歩き始めたのかもしれない…

夜を開ける…

野風
ライト文芸
夜明け前の束の間の景色、あなたはそこに何を思いますか…

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

処理中です...