短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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お大事に(笑)

チンク油

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どっちが悪いとかじゃなく、相性が悪いんだよ――ということにしておこう

「私たち、コレでユニット解散しました」ある夫婦のちょっと切ない裏事情

***

「ねえ、チンクって実は火傷には効かないらしいね」

 とある大病院の待合ロビーで、ついさっき診察を終えた男は、会計を持ちながら言った。

「…なんで今その話なの?」
「この間何か、そういう記事?見かけてさ…」
「だ・か・ら、塗ってないじゃん!冷やして…」

 男の妻らしき女が、声を潜めつつもヒステリックな口調で返し、そして途中でやめた。

「だって君が言ってたんじゃないか。7歳ぐらいの頃?」
「ああ、あの話か…」
「うん、めっちゃ印象に残っているんだけど」
「でもね、後で冷静になって考えると、大分おかしいのよ」
「…どういうこと?」

 女は小学生の頃、両足に熱湯をかぶって火傷を負ったが、家にたまたまあったチンク油を患部に塗り、翌日には学校遠足に参加した――そんな記憶があったのだ。
 男はその話の「火傷にチンク油」の部分だけが印象に残り、「チンク油半端ねぇな…」くらいに思っていたので、実は火傷に塗ってはいけませんという新常識に、かなり戸惑ったものと思われる。

「まず、一般家庭で熱湯かぶるシチュエーションって何よ」
「ストーブの上に…やかんか洗面器か何か置いて…みたいな?」
「遠足ってことは春か秋――多分秋だった。ストーブ焚く季節じゃないよ」
「ああ、そうか…」
「それに私、ストーブの周りで暴れるような分別のないガキじゃなかったもん」
「まあ、そうか…」

 そこで名前が呼ばれ、精算した。
 チンク油ではない塗り薬と飲み薬(痛み止め?化膿かのう止め?)が出たが、それにしても想定よりも高い金額を請求された。
 土曜日の深夜の当番医だから、まあまあ覚悟はしていたけれど、手痛い出費である。
 往復にタクシーも使ったので、合計で優に1万円は飛んでしまった。
 女が財布を開くたび、軽くため息をついているように思え、男はただただ恐縮していた。
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