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いつものカフェオレ
見えてるものを見落として
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ちゃんと見ていたつもりでも、見落としていることがあったのかも
大好きだった恋人に、突然別れを告げられた高校生の「私」は…
本作中の彼氏は恋愛のたたみ方が雑過ぎるというか、多分「私」が友人たちに顛末を話したら、「最低男」のレッテルを貼られるたぐいであろうと思い、この短編集に入れました。
***
2日前、星が見えなかったから曇り、20時ちょっと過ぎ、自宅すぐ近くの公園。
高校生の女の子が呼び出されて家を出ようとして、親から言われる言葉が「早く帰ってきなさいよ」程度で済むギリギリの線だ。
「ちょっと渡したいものがあるって言われて…友達に…」
歯切れ悪く言いながら出た。
カレとのおつき合いを家族に隠しているわけではないけれど、何か照れくさくて。
そのくせお気に入りのパフュームをシュッと吹いたりして(お風呂入る前だし)。
◇◇◇
その公園(っていうか、小さい緑地帯)は私の部屋の窓からも見えるから、彼が既に5分前には来ていたことを私は知っていた。
正確に言うと、あかりで照らされたベンチに腰掛ける人影が見えた、だけど。
彼は私が近づいていくと、ぱっと立ち上がり、ぐっと体を90度に折り曲げた。
「ごめん、別れよう。君より好きなコができたんだ」
それだけ言うと、私と目も合わさずに走って立ち去った。
パーカーのフードをかぶって、頭のあたりが寝袋に入っている人みたいに埋まって見えた。
下はジーンズたったかスウェットだったか覚えていないけど、そんな姿で走っていると、ロードワーク中のボクサーみたいだろうな。
私はあまりにも唐突な出来事が受け入れられず、どうでもいいことを考えて、しばらくベンチに腰掛けていたけれど、多分5分(体感1時間)くらいしてから立ち上がって、「ただいま」も言わずに家に入り、自分の部屋に戻ってから泣いた。
翌日は「頭痛と吐き気」を理由に学校を休んだ。
◇◇◇
翌々日は登校したけれど、別クラスにいるカレ改め元カレは、廊下で会っても私に声すらかけなかった。
ちょっとちょっと、挨拶は基本じゃないの?駄目だよ、「好きな人」に幻滅されるよ?
そんな私の考えてることなんて想像もしていないだろうけど、余計なお世話とばかりに、同じクラスの女子A(顔は知ってるけど名前の記憶が不完全)を、学校内で堂々と羽交い絞めにして、「ちょっとー、びっくりするじゃーん」「ゴメン☆」って調子でじゃれ合っていた。
つき合って半年の間、私にあんなふうに絡んできたことはなかったなあ。
◇◇◇
その夜は10時頃、お風呂に入って自分で髪を切った。
別に元カレへの当てこすりとか、失恋の儀式とか、そんなつもりはなくて、単なる衝動だった。
見られたもんじゃない仕上がりだろうから、すぐ美容院行かなきゃな。
思い切ったから、セミロングからショートボブぐらいの長さになった。20センチくらいイッちゃったかな?
長い部分だけまとめて、細かい毛はシャワーで流した。
まあ、そのために全裸でお風呂で切ったんだけど。
家族はもう寝ているか、リビングでテレビを見ているかだから、私のこの悲惨なショートボブを見るのは明朝だろう。
明朝、か。
そもそも今夜、眠れるかなあ。
◇◇◇
彼の率直で単純なところが好きだった。
言葉の裏を読まなくていいから、「好き」って言われれば信じられた。
その分それなりに傷つきもしたけれど、そんなことさえ大事な思い出になっちゃった。
ベッドに横たわってみるけど、やっぱり眠れない。
スマホでゲームとかしていると、知らずに寝落ちしてることが多いのに、今夜は駄目っぽい。
そんなふうにして、午前2時まで過ごした。
といっても「フミキリに大げさな荷物しょっていって」会う約束をしている相手もいないので、思いつきでコンビニに行った。
お気に入りのカフェオレが飲みたくなったのだ。
私は今、普通の精神状態じゃないので、こんな時間にコンビニに行って、それが家族にバレても、意味不明の笑顔を浮かべて小言を聞き流せるだろう。
◇◇◇
「袋はお使いですか?」
「そのままでいいです…」
120円払って、おつりもらって店を出た。
そしてその場でストローを挿して、少しずつ飲み始めた。
こんなに気分が落ちているときでも、やっぱりおいしいなあ。
吸い上げるとじじゅっと音がするようになった頃、家に着いたので、台所のごみ箱にパッケージを捨てようとして初めて気づいた。
「王月乳業 むちゃうまカフェオレ “カフェインレス”タイプ」
いつものノーマルタイプを手に取ったつもりなのに、カフェインレスの方を間違って買っちゃったようだ。
味は特に変わらなかった気がする。
手に取るとき間違えたのは、パッケージが似ているからか、(寝てなくて?)判断力が鈍っていたからか――両方かな。
眠れない夜にカフェインレスなんか買っちゃって。しかもあんまり意味がない感じ。
何だか少し可笑しくなって、ひとりで声を立てて笑った。
再びベッドに横になったら、今さら眠気が来た。
【『いつものカフェオレ』 了】
あとがきもどうぞ
大好きだった恋人に、突然別れを告げられた高校生の「私」は…
本作中の彼氏は恋愛のたたみ方が雑過ぎるというか、多分「私」が友人たちに顛末を話したら、「最低男」のレッテルを貼られるたぐいであろうと思い、この短編集に入れました。
***
2日前、星が見えなかったから曇り、20時ちょっと過ぎ、自宅すぐ近くの公園。
高校生の女の子が呼び出されて家を出ようとして、親から言われる言葉が「早く帰ってきなさいよ」程度で済むギリギリの線だ。
「ちょっと渡したいものがあるって言われて…友達に…」
歯切れ悪く言いながら出た。
カレとのおつき合いを家族に隠しているわけではないけれど、何か照れくさくて。
そのくせお気に入りのパフュームをシュッと吹いたりして(お風呂入る前だし)。
◇◇◇
その公園(っていうか、小さい緑地帯)は私の部屋の窓からも見えるから、彼が既に5分前には来ていたことを私は知っていた。
正確に言うと、あかりで照らされたベンチに腰掛ける人影が見えた、だけど。
彼は私が近づいていくと、ぱっと立ち上がり、ぐっと体を90度に折り曲げた。
「ごめん、別れよう。君より好きなコができたんだ」
それだけ言うと、私と目も合わさずに走って立ち去った。
パーカーのフードをかぶって、頭のあたりが寝袋に入っている人みたいに埋まって見えた。
下はジーンズたったかスウェットだったか覚えていないけど、そんな姿で走っていると、ロードワーク中のボクサーみたいだろうな。
私はあまりにも唐突な出来事が受け入れられず、どうでもいいことを考えて、しばらくベンチに腰掛けていたけれど、多分5分(体感1時間)くらいしてから立ち上がって、「ただいま」も言わずに家に入り、自分の部屋に戻ってから泣いた。
翌日は「頭痛と吐き気」を理由に学校を休んだ。
◇◇◇
翌々日は登校したけれど、別クラスにいるカレ改め元カレは、廊下で会っても私に声すらかけなかった。
ちょっとちょっと、挨拶は基本じゃないの?駄目だよ、「好きな人」に幻滅されるよ?
そんな私の考えてることなんて想像もしていないだろうけど、余計なお世話とばかりに、同じクラスの女子A(顔は知ってるけど名前の記憶が不完全)を、学校内で堂々と羽交い絞めにして、「ちょっとー、びっくりするじゃーん」「ゴメン☆」って調子でじゃれ合っていた。
つき合って半年の間、私にあんなふうに絡んできたことはなかったなあ。
◇◇◇
その夜は10時頃、お風呂に入って自分で髪を切った。
別に元カレへの当てこすりとか、失恋の儀式とか、そんなつもりはなくて、単なる衝動だった。
見られたもんじゃない仕上がりだろうから、すぐ美容院行かなきゃな。
思い切ったから、セミロングからショートボブぐらいの長さになった。20センチくらいイッちゃったかな?
長い部分だけまとめて、細かい毛はシャワーで流した。
まあ、そのために全裸でお風呂で切ったんだけど。
家族はもう寝ているか、リビングでテレビを見ているかだから、私のこの悲惨なショートボブを見るのは明朝だろう。
明朝、か。
そもそも今夜、眠れるかなあ。
◇◇◇
彼の率直で単純なところが好きだった。
言葉の裏を読まなくていいから、「好き」って言われれば信じられた。
その分それなりに傷つきもしたけれど、そんなことさえ大事な思い出になっちゃった。
ベッドに横たわってみるけど、やっぱり眠れない。
スマホでゲームとかしていると、知らずに寝落ちしてることが多いのに、今夜は駄目っぽい。
そんなふうにして、午前2時まで過ごした。
といっても「フミキリに大げさな荷物しょっていって」会う約束をしている相手もいないので、思いつきでコンビニに行った。
お気に入りのカフェオレが飲みたくなったのだ。
私は今、普通の精神状態じゃないので、こんな時間にコンビニに行って、それが家族にバレても、意味不明の笑顔を浮かべて小言を聞き流せるだろう。
◇◇◇
「袋はお使いですか?」
「そのままでいいです…」
120円払って、おつりもらって店を出た。
そしてその場でストローを挿して、少しずつ飲み始めた。
こんなに気分が落ちているときでも、やっぱりおいしいなあ。
吸い上げるとじじゅっと音がするようになった頃、家に着いたので、台所のごみ箱にパッケージを捨てようとして初めて気づいた。
「王月乳業 むちゃうまカフェオレ “カフェインレス”タイプ」
いつものノーマルタイプを手に取ったつもりなのに、カフェインレスの方を間違って買っちゃったようだ。
味は特に変わらなかった気がする。
手に取るとき間違えたのは、パッケージが似ているからか、(寝てなくて?)判断力が鈍っていたからか――両方かな。
眠れない夜にカフェインレスなんか買っちゃって。しかもあんまり意味がない感じ。
何だか少し可笑しくなって、ひとりで声を立てて笑った。
再びベッドに横になったら、今さら眠気が来た。
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