短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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アネモネ TRICOLOR+「三者三様 それぞれ身勝手」

赤――男「君を愛す」

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「ねえ、覚えてる?私のこと」

 正直なところ、多分あまり目立たなかった彼女のことは、よく覚えていない。
 ただ、出先で偶然会って、「私、中3のとき同じクラスだった…」と言ってきたその女性を、はっきり言えばまあまあタイプだと思ったので、話をすり合わせながら、何とか当時の顔と名前を思い出した。
 当時のというのは、どうやら結婚して今は姓が変わったようだから。

「せっかくだから、お茶でもどう?」ということになり、人妻相手にお茶くらい飲んだところで罰せられはしないだろうと、軽い気持ちで付き合うことにした。

◇◇◇

 ああ…そういえば、セーラー襟の後ろから白いスカーフがほとんど見えていなかったのって、この子じゃなかったかな。
 女性はほかの男が気づかないようなことに気づく男に弱いものだ。これは使えるかも。

「もちろん覚えているよ」と、スカーフの話や、ニキビの話を例に挙げてみた。

 ニキビが出ると分かっていても、お菓子を我慢できないのが女子中学生ってもんだから、彼女だって例外ではないだろう。

 具体的に言われた方が信憑性が増すというものだ。

 彼女の「そう。何だか恥ずかしいな…」という表情は、大人の妖艶さの中にいじらしい幼さがあって、ちょっとイケナイ気持ちになった。
 人妻とベッドを共にするのも、なかなか刺激的だ。

◇◇◇

 彼女はダンナに不満たらたら。
 まあ、ちょっと誘ったらすぐ乗ってくる時点で、「夫婦仲は円満です」と言われても、全く説得力ないけどね。

 詳しくは言わないが、「自分をちっとも見てくれない」のが不満だと言うから、浮氣でもしているのかな?
 寝てみて分かったけれど、こんな魅力的な奥様を放っておくなんてね。

◇◇◇

 セックスだけじゃない。会話もずいぶんお粗末そうだ。
 だから、彼女がかつて言ったことを万一覚えていなくても、「ああ、そういえば言ってたね」とか言うと、少し晴れやかな顔になる。
 逆に世間のダンナって、このくらいのことすらしていないのか?
 結婚する気なんてさらさらないけど、夫婦円満って意外とちょろいんじゃないの、なんて思ってしまう。

 だから調子に乗って言っちゃったんだ、「俺なら…」とか「本気にしてよ」とかさ。

 そしてベッドを3度、4度と共にすれば、「好きだ、愛してる」くらいのことは簡単に言う。
 どうせ彼女は、そのうち俺との関係に飽きて、目が覚めて、不満だらけのダンナのところに戻るだろう。
 それまで夢を見てもらって、自分もまあまあいい思いができるなら悪くない。

◇◇◇

 このところ例の人妻ちゃんから連絡がない。
「ダンナに不満たらたら期」を過ぎたのかな。結構なことだ。

 そんなことを考えつつ、誰か部屋に呼ぼうかなどと考えていたら、

「ねえ、あなたの家って〇〇駅のそばって言ってたよね?迎えにきてくれない?」

 と人妻ちゃんから電話が来たんだが――え?このタイミングでいったい何の用だよ…
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