短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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在五忌<Zaigoki> カンバン ニ イツワリ アリ

エロい同級生

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今はうちとけて、手づから飯匙取りて、笥子のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて行かずなりにけり。


◇◇◇

 同じクラスの保田美貴みきは、背が高くてスタイルがいい。
 いわゆるやせ巨乳という、こういったら何だが都合のいい体型だ。
 顔立ちは普通だけど、なんか色気がある。

 そういうのが災いしてか、同性にはちょっと敬遠されがちというか、あんまり好かれていない。
 しかし話してみると、頭がいいから会話が弾むし、結構いいヤツだなと思える面がある。
 女子で仲よさそうなのは、成績がよくて口が悪く、何となく周囲を見下している感のある高瀬たかせくらいかな。
 高瀬は正直感じ悪いから、ほかの女子(男子にも)好かれていないのは分かるんだが、保田はもっと女子に受け入れられてもいい気がする。

 まあ保田の場合、男にはお釣りが来るほどモテている。
 というか、興味持たれやすいっていうか、男同士の猥談になったとき、「お手合わせ願いたい」みたいな感じで名前が出てくる存在だ。
 同級生でありながら、知識も経験も豊富で手ほどきしてくれるお姉さまポジってところなんだろう。

◇◇◇

 俺はその日、たまたま用事があって職員室にいた。
 同じ頃、別件で保田も同じ場所にいて、たまたま教室に戻るタイミングが一緒だったので、何となく雑談しながら教室に戻った。
 ちょうど2年生になって同じクラスになったばかりで、お互いのことを噂程度にしか知らなかった。

「成平君って、2組の洞口ほらぐち(竹美のこと)さんとつき合ってるの?」

 今さらだが、俺のフルネームは「成平なりひらゆう」という。

「いや、だよ」
「あー、だから一緒に学校に来るんだ?」
「2人とも学校から近いしな。歩いて10分くらいだよ」
「ってことは、三中出身か」
「お、よく分かったな。そうそう」

 俺はなんと、つき合い始めて1年目の記念日を前に、竹美との関係についてうそをついていた。最低だな…。
 ちょっとした照れもあったんだけど、保田の少しけだるそうなアーモンドアイを向けられて、正直に言うのをためらったというか、まあそんな感じ?

 竹美が俺との関係を、周囲にどう話していたのかは分からないが、少なくとも自分から吹聴することはなかったろう。
 中学時代から仲がよかった連中は、俺たちのおさななじみの関係を知っていたので、今さら改めて「つき合ってる」とも言いにくかったから、俺たちの間が多少は進展しているということを、知っている人間は少ない――というかいない――かもしれない。

 保田は俺と同じクラスになる前から、俺のことを「ちょっといいな」と思っていたらしい。
 まあ俺と竹美がつき合っているのかな?と考える程度には、俺に興味があったのは確かなようだ。
 だから関係はあっという間に深まった。
 保田は「になっちゃったからって、成平君を縛る気は全くない」と言った。
 まるで妄想の産物みたいに男にとって都合のいい女だが、1人の異性に極端に肩入れしたがらない保田自身にも都合がいいのだろう。

 「ナイスバディの頭のいい雰囲気美女で、エッチ大好き」、保田を一言で(えげつなく)まとめると、こうだ。

 切ってしまうには惜しい。しかし竹美に誠実でいたい。
 俺はそんな気持ちで保田と距離を取ったが、彼女のことを全く気にせずにはいられなかった。

◇◇◇

 修学旅行の自由行動のとき、保田が問題行動を起こした。
 単に行動班を(一応断って)離れ、1人で行動していただけなのだが、どうやら大学生の彼氏とデートしていたらしい。
 自由行動とはいえ、班ごとにプランを学校を提出しなきゃいけないので、保田は班で行くことになっていた場所は避けていた。

 結果的に何事もなかったので、厳重注意だけで済んだものの、それが発覚したのは班の連中の密告チクリではなく、全く無関係の別のクラスの人間のタレコミだったらしい。

 多分、「保田さんが班を離れて勝手に行動していたようです」程度のことを教師に言い、それを保田が素直に認めたということらしい。
 大学生の彼氏云々というのは、生徒同士の話の中で出てきたもので、「大学生風の男にナンパされてついていった」という目撃情報とか、「私知ってる。あの人保田さんの彼氏だよ。バイト先で知り合った大学生らしいよ」というやたら具体的なものとか、いろいろ錯綜していた。

 実は俺自身は、とある観光施設で、保田がウワサの大学生としっかり腕を組み、クールな彼女にはあり得ないほどの笑顔を惜しみなく見せている現場を見ていた。
 保田は俺の視線に気づき、少し驚いた顔をしたものの、俺が告げ口する人間ではないと判断したらしく、くるっと背を見せながら裏ピースを見せて去っていった。

 あいつは多分、見つかってもいいや、程度で堂々と行動していたのではないだろうか。

(バカだな…時間までラブホで休憩でもしてりゃ、誰にも見つからないだろうに)

 そんな発想をできてしまったのは、俺が一時的とはいえ保田といたからかもしれない。

 あんな笑顔を保田が見せるのは、あの男だけなんだろう。
 嫉妬というより、ちょっとした失望のようなものを覚えた。

「高スペックのくせに、貧相で平凡なぱっとしない彼氏に夢中。エロは別腹か」

 俺の中の保田という人間像が、そんなふうに塗り替えられたからか。 
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