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ほれ薬かもしれない
ほんの2粒
しおりを挟むある日の業間休みのこと。
啓は教室の片隅で憂鬱そうな顔をしていた。
風邪や発熱ではないのだが、何となく頭が重く、少しチクチク感じる痛みがあった。
「中林君、どうしたの?元気ないね?」
「あ――沢田…」
「勉強のし過ぎなんじゃない?」
麻里奈にからかうように話しかけられ、なぜか少しイライラして、啓は「違う。頭痛がするだけだよ」とつっけんどんに答えてしまった。
「そうか…じゃあ――これあげる」
麻里奈はデニム地でできたペンケースのポケットから、2錠の薬を取り出してきた。
「これ…」
「サブデュリンだよ。“PJ”だけどね」
「PJ?」
「男の子はあんまり知らないよね。でも頭痛に効くはずだから。飲んでみて」
「うん…」
サブデュリンは、「半分が人を思いやる心でできている」でおなじみの鎮痛剤だ。
PはperiodのP。Jはjuniorの略である。「若年者の頭痛や生理の痛みに」ということで、パステルカラーのパッケージも女子中高生に人気の商品である。
「朝飯食ってから大分経ってるけど、大丈夫かな?」
「ああ、とりあえず水飲んだ後に飲んだら大丈夫らしいよ?」
「へえ…」
「それか、水を多目にして薬を飲むとかね」
◇◇◇
「どう?大丈夫そう?」
3時間目が終わった段階で、麻里奈は啓に近づいてきて尋ねた。
「ああ、もうすっかり大丈夫。あれ効くんだな」
「よかった…」
もしも由梨花だったら、「よーかったぁー、心配したんだよぉー」などと、一つ一つの表現がもっとメリハリがあるかもしれない。時には「わざとらしい」と思うほどの反応をすることもある。
麻里奈はごく控え目な表情変化だが、自分を心配してくれていたことや、「治ってよかったね」という思いがじわじわ伝わるようなさりげなさが感じられた。
(やっぱいい子だな、沢田って)
「ほんと助かった。ありがとな。いつも持ち歩いてるの?」
「うん。結構「あってよかった」って思うことが多いから」
「そうか――女子って大変なんだな」
啓は薬を飲む前に、サブデュリンPのテレビCMを思い出し、(あ、男の子は知らないってそういうことか…)と気づいていたので、ついつい「女子って…」と口をついて出てしまった。
そして、それに対して麻里奈が少し照れたような反応を見せたのを見逃さなかった。
「あ、なんかごめん――デリカシーないっていうか、余計なお世話だよな…」
麻里奈はそれを聞いて今度はぷっと噴き出した。
「中林君ってヘンな人だね」
「そうかな」
◇◇◇
啓にとって、由梨花と出かけて映画を見たり、スイーツを食べたり、塾の休憩時間に話したりするのは間違いなく楽しかった。
ただ、最初は「何もかもが新鮮で」という要素が大きかったのだと思う。
付き合いが進んでいくと、あまりにも素直過ぎる振る舞いに、あまり好感を持てないことも多くなってきた。
もちろん嫌いになったわけではないが、そんなところへ持ってきて、麻里奈に薬をもらったのはまずかった。
(だいたい俺って、もともと沢田のこと気になってたんだよな…)
そうなると、麻里奈の長所と由梨花の短所を並べて比べるという、非常にアンフェアなことをするようになり、徐々に麻里奈に気持ちが傾いていった。
そんな啓の気持ちは、由梨花と過ごすときの態度にも、少しにじんでしまったのかもしれない。
啓が意を決して「同じ学校に岡本さんより好きな子ができた」と別れを切り出すと、「やっぱりね。そんな気がしてたよ」と、涙をこらえるような声で由梨花は答えた。
「ちゃんと顔を見て言ってくれたから許してあげる」
「今までありがとう」
「ケイくんといると楽しかった」
「カノジョさんとお幸せに」
別れを告げた日、啓のスマホにそんなメッセージがぽつ、ぽつと届いた。
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