短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
14 / 82
お迎えです

妻【終】

しおりを挟む

 私が完璧な良き妻の仮面をなぜかぶり続けられるのか、この人は全く分かっていない。

 男性からの好意も愛も尊敬も、私は全部、調できているからよ。
 だからビジネスとしてあなたの良き妻を演じていられるだけ。
 あなたが私を愛していようがいまいが、どっちでもいいの。
 浮気三昧のクズだけど、隠そうという努力は認められるし、稼ぎは悪くないし。

 幸か不幸か、私たちには子供がいない。
 結果、外での仕事をしていない私には、時間がたっぷりできた。

「赤ちゃん、早く欲しいね」と言ったハネムーンの夜、「まだ要らないよ、そんな邪魔なもの」と言われたとき、私の気持ちは粉々になった。
 あなたは何も考えずに言った言葉だったかもしれないけれど、だからこそ胸に刺さった。

 私は子供が欲しかったが、誰の子供でもよかったわけではない。
 良き妻として尽くせば、彼の気が変わるかもと頑張ってみたが、よそよそしくなる一方だったし、浮気の証拠を隠すのも、笑ってしまうほど下手だった。

 結果、もっともらしい言い訳ばかりうまくなっちゃって。

 当然、私を愛していないという本心も隠せずにいる。
 立派な服とマントで覆い隠せていると思っているのは自分だけ。いわば「心が裸の王様」なのだ。

 今、私を「愛していない。別れてほしい」って言いたくて苦悩しているのよね?
 バカじゃないの?私は多分、あなたよりも「愛していない」のに。

 でも見ていていっそ愉快だから、もう少し遊ばせてもらうわね。

 2人のカップが空になった。

「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」

 店を出てから、ちらっと駅の方を見ながら、「ねえ、こんな時間に駅まで夫を迎えにくるなんて、何だか昭和のドラマみたいね」と言ってみた。

 そう言われた夫の反応かおは見えないが、笑顔ではないことは分かる。

【了】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件

石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」 隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。 紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。 「ねえ、もっと凄いことしようよ」 そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。 表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...