短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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王様のペペロンチーノ

ハルとの時間

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 私は今夜もハルの部屋で、ごはんをつくっていた。

 ピーマンが1個、玉ねぎが2分の1個、ホールトマト缶のストックに、1.7ミリのスパゲティ乾麺が200グラム弱。
 となれば…のある太目のウインナーか鶏肉を買い足して、具沢山のパスタ料理かな?

 ツナ缶のストックならあるし、付き合い始めの頃、料理にツナ缶を使ったとき、おいしいって食べてくれたけれど、その後どうしてつくらなくなったんだっけ?

 ああ、「ツナがくさくて食えたもんじゃない!」と怒り出して、お皿をひっくり返されたんだっけ。

「これ腐ってんじゃないのか?こんなもの出すなよ!」
「昨日買ったばっかりだよ?」

 そもそも缶詰が「腐る」って何だろう。
 極小穴ピンホールみたいなのが開いていて、そこから空気に触れて傷むっていうのは聞いたことがあるような気がするけれど、まさかね。

「じゃ、その店にクレームだな」
「やめてよ!すぐ別なの出すから、それはやめて!」
「何だその言葉遣いは!ずいぶん生意気だな?」

 彼はいつもはこんな態度というわけではない。
 職場で嫌なことがあったとか、そんな感じだったのだろう。
 「いつもこんなじゃない」からこそ、私は対応しかねたし、この出来事があまりにも印象的だったせいか、もう二度と出さないようにしようと肝に銘じたんだっけ。

 パスタ料理だと喜ぶ日と、「何だよ、手抜きだな」と嫌そうな顔で言われる日がある。
 ただ、「パスタかよ」って言われると、さすがに戸惑ってしまう。
 前のときから2週間はブランクがあるんだけどな。
 どの程度の頻度なら、「また」って言われないで済むんだろう?

◇◇◇

 そんなわけで、本日は「ごろごろウィンナートマトパスタ」だ。
 彼はお肉が大好きなので、魚メインの日でも、「肉ないの?ハムかソーセージでもいいんだけど」というくらいなので、きっと喜んでくれるだろう。

 彼は9時頃帰ってきた。

 彼がお風呂に入っている間、乾麺を茹でて調理をすれば、風呂上がりにすぐ出せる――と思う。
 「こういう料理にはビールだな」といつも言うので、ビールは買っておいた。
 粉チーズとタバスコも十分ある。
 今日はかな。

◇◇◇

 風呂上がり、ダイニングテーブルに着いた彼は、缶ビールを小さなコップに注いで、くいっと飲み干した。
 時間が時間だし、かなり疲れてそう。

 そして私が差し出した皿を見て、軽く顔をしかめたが、「いただきます」と言って一口食べた後言った。

「あのさあ…次からはパスタはペペロンがいいな」
「ペペロン…チーノ?」
「そうそう。ああいうシンプルなのが一番だよ」

 ペペロンチーノは実は難しい。少なくとも私は苦手だ。
 チューブ入りのニンニクと一味唐辛子、サラダ油とありものの調味料で何とかつくったとき、結構気に入ってくれたみたいなので、あの程度でいいのかもしれないけれど。

「いいけど、それで足りる?」
「もちろんほかの料理添えてよ。チキンとかでいいから」
「あ、うん」
「大体パスタがメインってのがおかしいんだよ。本場ではさあ…」

 彼はいろいろ言っていたが、ごはんのメニューにいろいろ文句を言うときに比べたら優しい。
 私は決心できたのかもしれない。

「ごめん。今日はそれ食べて」
「もちろん食うけどさ…どうせこれしかないんだろう?」

 私は、のろのろとフォークを動かす彼に尋ねた。

「…おいしい?」
「まあまあかなあ。今日の体調にはくどいけど」

(よし、だ)
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