短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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じまんのボロネーズソース

「バスタつくって」

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 などと(半分冗談で)考えていたら、セイヤ君に声をかけられた。
 見た目は「3割引の吉沢亮」で、性格は超ライトだと言われているけど、結構なモテ男である。
 ほかの女子には「やったじゃん」とか「付き合うの?」とか言われたけど、まだ分かんないよ。

 セイヤ君は、私がテーブルの上の空き食器を端っこにまとめているところを見て、「気が利くね。結構なんだ?」って笑いかけてきた。
 いや、座ってる位置的に、私がそうするのが自然だったからやっただけで。

 あと会話の流れで、読書が趣味だということと、好きな作家の話をしたら、「すげえ。俺本とか読まないから、読書が趣味ってだけで尊敬ソンケーする。頭よさげ」って言われた。
 これ多分褒めているんだと思うけど、何かバカにされてる気もする。

 ただ、私にむやみにカワイイ、カワイイ言わないのが新鮮な気がして、その後もご飯一緒に行ったりするようにはなった。
 街やキャンパス内で見かけた面白いものとか、他愛もない話題で笑わせてくれて、特に得るところもないけど、気楽に笑い合えるのは悪くない。
 まだ彼氏彼女って間柄でもないけれど、付き合っている?っぽい雰囲気になった。

◇◇◇

 基本的に自炊しているって言ったら、「今度ご飯つくって。俺パスタ好き」って言われたので、部屋に遊びにいった。
 牛ひき肉が結構安かったので、ボロネーズソースにしようと思った。
 乾麺、ホールトマト缶とか野菜の残りとか調味料はウチから持ち出しなので、大したお金はかかんない。

 彼は「店で食うのとおんなじ味。すげえ。うまー」って大絶賛してくれてうれしかった。
 食器を洗っているとき、後ろから抱きしめられて、「今日は泊まっていけよ――朝飯もつくって」と言われた。
 私は怖くなって力いっぱい拒絶し、泡だらけの皿とフォークを置いたまま逃げ出した。

 ちょっと落ち着いてから、さすがにちょっと悪かったかなと連絡したら、ブロックされていた。
 学校内でも分かりやすく無視されてしまうし。

 それだけならまあ、「ああ、フラれた?か」で済むんだけど、その後衝撃の事実を知る。

「あんなおっぱいしてるんだから、絶対簡単にヤラせてくれると思ったのに、お高くとまりやがって」
「どうせレトルトあっためただけのくせに、ドヤ顔で自慢の料理出してきて草」

 などなど、セイヤ君は私についてなかなかの悪口を吹聴しているようだ。
 「キッチンに立つ女の子の後ろ姿っていいね」とか言っていたくせに、私が何十分もレトルトパウチ温めるために立っていたとでも思っていたのか、話を盛っているだけなのか。どっちにしても、ろくなものではない。

 そういうのは全部、割と仲のいい友達が教えてくれたけど、なぜかちょっとうれしそうに「ひどいよね」と言っていたのも気になる。

 ついでに、飲み会の場での褒め言葉たちは、「ああいう見た目だけの女は、中身褒めてやればイチコロ」という考えのもとに出てきたらしい。
 なるほどね。感心してる場合ではないけど。

 令和のモテ男、言ってることがひと昔前のおっさんと一緒かよ。
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