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夢見るマリーゴールド
カフェ「アカネ」
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学校から駅に向かう途中の道で、小さなカフェを見つけた。
小ぢんまりとして感じのいい外観で、几帳面そうな手書き文字の「スタッフ募集」の張り紙があった。
いっそ授業以外の時間はバイトに精を出すのも悪くない。
時間帯も、うまく調整すれば入れそう――と思って足元を見たら、お店の前のプランターにマリーゴールドが咲いていた。
園芸好きのおばあちゃんが、「この花は虫よけになるんだよ。かわいくって役に立って、すごいね」って教えてくれたことを思い出した。
ピンクのベゴニアとの寄せ植えで、とてもかわいらしい。
こんな話をしても、高校時代の彼なら右から左に流していたろうし、別れたばかりの彼は「ふうん。園芸好きの男か」ってところかな。
◇◇◇
店の前のブラックボードを書き直すために出てきた男性が、「ひょっとして面接の人?」と声をかけてきた。
背が高くて30歳くらい?で、モスグリーンのエプロンをしている。
クールな雰囲気の切れ長の目で端正な顔立ち、さっぱりとした切りっぱなしの髪。全体的に細長い。
ちょっとすてきだけど、ひょっとして冷たい人なのでは…という印象なのに、目が離せなくなった。
「え?あの…」
「あ、違った?ごめんなさいね。約束の時間から30分も経ってるんだけど」
面接ということは、アルバイトのかな。
「あのっ、まだバイトの方決まっていないんですか?」
「え?ああ――そうね。今日の人がいい感じだったらと思っていたけど、連絡も来なくてドタキャンぽいしなあ…」
「私、面接していただけませんか?」
「え?」
「履歴書とかはないんですけど、そこの北城大学の学生で、カフェの経験はあります」
私はそのとき、どんな顔をしていたのか、さすがに自分では分からない。
でも少なくとも、「ふざけて言っているわけではありませんよ」を顔全体で表現していた自信はある。
男性(店長)は少し驚いた顔をした後、表情を和らげてこう言ってくれた。
「そう?じゃ、ちょっとお話ししようか」
◇◇◇
男性経験は今まで2人。
でも、今まで自分から人を好きになったことはありません。
あなたに一目ぼれしました――なんて言ったら、即「帰れ!」かな。
バイトの面接だと割とあることだけれど、志望動機などは特に聞かれなかった。
まずは「どれくらいの時間入れるか」とという確認とか、「時給はこのくらいだから、たくさん稼ぎたいなら向かないかも」的な内情説明。多分、何よりも質問に答える態度を見ているのだと思う。
「君はとても感じがいいと思うけど、若い子にはちょっと退屈な仕事かもしれないな」
「あの――お花がきれいだったので」
「花?」
「プランターのマリーゴールドとか」
のっぽ店長はそれを聞いて、控え目に笑って言った。
「君、なんだか面白いね。うちの店に向いているかも」
私はその翌々日からそのカフェ「アカネ」で働くことになった。
名前の由来はコーヒーノキがアカネ科だからだそうだ。
私が少し興味を示したのに気をよくして(だと思う)、コーヒーについての蘊蓄を語り始めた。
素直に面白いと思って、ちょっとずつ質問をしながら聞いていたら、中年女性の2人組のお客さんが入ってきた。
時計を見ると、店長と私はどうやら40分くらい話していたみたいだ。
「ああ、何だか時間取っちゃってごめんね」
「いえ、あの、では履歴書は明後日にでも…」
「ああ、急がなくていいよ。でも、よろしくね」
小ぢんまりとして感じのいい外観で、几帳面そうな手書き文字の「スタッフ募集」の張り紙があった。
いっそ授業以外の時間はバイトに精を出すのも悪くない。
時間帯も、うまく調整すれば入れそう――と思って足元を見たら、お店の前のプランターにマリーゴールドが咲いていた。
園芸好きのおばあちゃんが、「この花は虫よけになるんだよ。かわいくって役に立って、すごいね」って教えてくれたことを思い出した。
ピンクのベゴニアとの寄せ植えで、とてもかわいらしい。
こんな話をしても、高校時代の彼なら右から左に流していたろうし、別れたばかりの彼は「ふうん。園芸好きの男か」ってところかな。
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店の前のブラックボードを書き直すために出てきた男性が、「ひょっとして面接の人?」と声をかけてきた。
背が高くて30歳くらい?で、モスグリーンのエプロンをしている。
クールな雰囲気の切れ長の目で端正な顔立ち、さっぱりとした切りっぱなしの髪。全体的に細長い。
ちょっとすてきだけど、ひょっとして冷たい人なのでは…という印象なのに、目が離せなくなった。
「え?あの…」
「あ、違った?ごめんなさいね。約束の時間から30分も経ってるんだけど」
面接ということは、アルバイトのかな。
「あのっ、まだバイトの方決まっていないんですか?」
「え?ああ――そうね。今日の人がいい感じだったらと思っていたけど、連絡も来なくてドタキャンぽいしなあ…」
「私、面接していただけませんか?」
「え?」
「履歴書とかはないんですけど、そこの北城大学の学生で、カフェの経験はあります」
私はそのとき、どんな顔をしていたのか、さすがに自分では分からない。
でも少なくとも、「ふざけて言っているわけではありませんよ」を顔全体で表現していた自信はある。
男性(店長)は少し驚いた顔をした後、表情を和らげてこう言ってくれた。
「そう?じゃ、ちょっとお話ししようか」
◇◇◇
男性経験は今まで2人。
でも、今まで自分から人を好きになったことはありません。
あなたに一目ぼれしました――なんて言ったら、即「帰れ!」かな。
バイトの面接だと割とあることだけれど、志望動機などは特に聞かれなかった。
まずは「どれくらいの時間入れるか」とという確認とか、「時給はこのくらいだから、たくさん稼ぎたいなら向かないかも」的な内情説明。多分、何よりも質問に答える態度を見ているのだと思う。
「君はとても感じがいいと思うけど、若い子にはちょっと退屈な仕事かもしれないな」
「あの――お花がきれいだったので」
「花?」
「プランターのマリーゴールドとか」
のっぽ店長はそれを聞いて、控え目に笑って言った。
「君、なんだか面白いね。うちの店に向いているかも」
私はその翌々日からそのカフェ「アカネ」で働くことになった。
名前の由来はコーヒーノキがアカネ科だからだそうだ。
私が少し興味を示したのに気をよくして(だと思う)、コーヒーについての蘊蓄を語り始めた。
素直に面白いと思って、ちょっとずつ質問をしながら聞いていたら、中年女性の2人組のお客さんが入ってきた。
時計を見ると、店長と私はどうやら40分くらい話していたみたいだ。
「ああ、何だか時間取っちゃってごめんね」
「いえ、あの、では履歴書は明後日にでも…」
「ああ、急がなくていいよ。でも、よろしくね」
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