短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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夢見るマリーゴールド 

ああ言えば、こう勘繰る

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 大学に入ってすぐ、声をかけてくれた人がいた。
 容姿は普通だし、特におしゃれではないけれど、清潔感があって好感が持てる。
 本が好きなおとなしそうな人だ。

 「お付き合い」とか区切って考えないで、一緒にお茶を飲んだり、ご飯を食べたりしながら、いろいろな話して楽しく過ごそうと思っていた。
 そのうち「付き合ってください」と言われて、彼とならうまくいくかもという期待値込みで、「はい」と答えていた。

 彼は優しくて、私の嫌がることはしない。
 一度、人気ひとけのないところで急にキスされたことがあったけれど、私がびっくりして何も言えずにいたら、「ごめん」と謝った。
 その申し訳なさそうな顔にほだされて、「別に…嫌じゃないよ…」と言ったら、その日のうちに彼の部屋に誘われた。

 彼の態度が急に変わったのは、その翌日からだった。

◇◇◇

 今まで私たちは、手をつなぐことすらほぼなかったが、接触の密度が高くなったというか、キャンパス内でも平気で肩を抱き寄せたりする。
 「人前ではちょっと…」と難色を示すと、「今さら何だよ。僕と君の仲なのに」と言われた。

 そうなった理由は分かっている。
 初めて彼とセックスしたとき、私が処女じゃないと分かったからだ。

「君くらいきれいな子だったら…その…男性経験ぐらい普通…だよね」
「あの…誤解しないでね。僕は別に処女厨ってわけじゃないからね?」

 などと言っていたので、特に気にしなかったのだけれど、翌朝私と顔を合わせるまでの間に誰かに何か吹き込まれたのか知らないが、妙に馴れ馴れしい感じになってきたし、もっとお付き合いが進むと、ちょっとしたケンカのたびにビッチ扱いされるようになった。

 某コミックの主人公みたいに、内心では「やれやれ…」と思ったものの、それさえなければ悪い人ではない。
 
◇◇◇

 けれど、その彼とも結局は会話や話題がきっかけで破局した。
 私が少し目新しい話題を出したり、彼の知らない話を振ったりすると、「その話、どこの男に聞いたの?元カレとか?」などと言う。
 ネットで見つけたとか、本で読んだといっても、「女の子がそんなにネット記事を熱心に読むわけないでしょ。見え透いてる」とか「で、その本を勧めたのはどんな男?」と言われる。

 私は彼と取り留めもない話をするのが好きだったし、正式にお付き合い――というか、セックスする前の彼だったら、「君って話題が豊富ですてきだね」と言ってくれた。

 でも、オトコガー、モトカレガーと言われて、自分からネタを提供することを控えて居たら、彼のさほど新味のない話にうなずいたり、オウム返しをしたりするばかりになっていた。
 さらには「何だか最近、君といても退屈だな」と言われるようになっていた。

 「ごめんなさい。私はあなたが望むような女の子にはなれません」と言ってお別れしたら、「クソビッチに振られた」と吹聴された。
 私はもともと同性とのお付き合いが下手だったので、学校ではすっかり孤立してしまった。
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