短編集『サイテー彼氏』

あおみなみ

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夢見るマリーゴールド 

退屈な女

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 お金を持っていたわけではなく、バイト代の使い道が彼とのデートだっただけだった。
 しかも私は結構バイト戦士タイプだったのだが、私が労働している「空いた時間」が彼を浮気に走らせる。

 会ってもセックスできないと機嫌が悪いし、ひどいときは「20分だけ会ってやる」と言って、私も知っているひとり暮らしの某友人(男)の家に連れ込まれ、本当にだけして終わりってこともあった。
 20分どころか15分で「俺はこのままここにいるから、先帰れ」と追い出された。
 わずかな空き時間で済ますとか、通信教育のテキストじゃないんだからさあ…。

 そういえばこういう言い方にも、「俺にジゾクりょくがないとでも言いたいのか!」とキレるだろう。
 こんな自分勝手な男性との“行為”が楽しかったり、喜びを感じられたりするわけもないので、私としては10分程度で終わってくれても全然OKだったんだけどね。

 私を追い出した後に別な女を呼び出したということは、その友人との間で話の辻褄が合わないので発覚したが、私は一言も彼を責めなかった。
 友人は私に同情的で、何なら口説いてこようとしたが、「バカ言わないでよ」と笑ってごまかした。
 私をどんなに粗末に扱おうと、私が別の男に走ったらキレ散らかすのは目に見えている。

 こうして書いてみると、本当に何がよくて付き合っていたんだろう?
 あ――外面か。
 付き合うまでは「他人」だったのだから、感じのいい人に見えても仕方なかったのかもしれない。
 少し強引に口説かれて、恋愛慣れしていない私は簡単になびいた。
 いろんなことに違和感を覚えても、もう少しお付き合いしないと分からないかもと思い、多少の不満や不安には目をつぶった。
 そうして半年間過ごして、楽しかったことがまるで思い出せない。

◇◇◇

 彼が「退屈だ」と言った私の話。

 「昨日、部屋から見えた雲がテディベアみたいだった」ってこと。
 バイト先にいつもコーヒーを買いにくる、背筋の伸びたおばあさんのかっこよさ。
 本で読んだ、文豪のこぼれ話。あと何だっけ?

 そもそも私と話をする気なんてないから、聞いてもいなかったのだろう。
 次に私なんかを選んでくれる人がいたら、そんな話をして興味を持ってくれたらうれしい。
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