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母ふたり
しおりを挟むその日の夜、レイコはイスズに、「ユズちゃんのことが好きか?」と尋ねた。
一も二もなく「もちろん大好き!」というイスズに、「どんなところが?」とさらに聞くと、こう返ってきた。
「かわいくて、明るくて、おしゃれで…みんな大好きだよ、ユズちゃんのことは」
「そう…」
「でも一番好きなのは、何時間でもお話していられるところかな」
「そうなの?」
「うん。キョーツーの話題なら誰だって盛り上がるけど、私が知ってるコトをばーっとしゃべるだけでも、いろいろ質問してきたりして、ニコニコして聞いてくれるんだもん」
「なるほどね」
レイコは幼少期から現在に至るまで、どんな女が人気者か、どんな女が嫌われるかを思い描いた。
人の話をニコニコして聞く人は、調子がいいなどと言われて意外と不評なことが多く、人の悪口で盛り上がれる人の方が、友達付き合いが上手いタイプが多かった。
とはいえ結局、単に人の批判や否定ばかりの人は嫌われたので、悪口が決め手というわけではなさそうだ。
決め手は「あ、この人は私の話に“本当にノッてる”」と感じさせる何かかもしれない。
ナチュラルにその空気が出ている人なら、とても心地よく話せるのは当然だし、演技で出せているなら、それはそれで興味深い人ではある。
「そういえばね、ユズちゃんも小さい頃、変な絵を描いて男の子にいろいろ言われたりしたんだけど、ママが励ましてくれたんだって」
「え?」
「「変だって思うのはその人の自由だけど、そのせいでバカにされて「ほっとけ」って思うのはユズちゃんの自由だから、好きにやりなさい」って」
「そう…」
レイコは、親子教室が一段落してゆとりが出たら、自分から千堂さんをお茶に誘ってみようかな、などと考えた。
その独特の個性を目の当たりにすると、いろいろ「思うところ」のある女性だけれど、それ以前に「話していて、とても楽しい人」だと分かったからだ。
さらには、(自分も千堂さんも、PTAでそう前に出る方ではないけれど、きっと千堂さんがうまくリードしてくれるだろうから、私がサポートして…)などという建設的?なことまで考えていた。
+++
青田家から帰る途中、アイはユズに、「親子教室の話だけにしては遅くなかった?何話してたの?」などと生意気に突っ込まれ、「昔好きだったテレビや漫画の話。盛り上がったよー」と答えて、「えー?大人なのに?」と少し呆れられた。
そもそも最近の子は、テレビよりもネット動画の方が好きだとよく言われる。
また、ヒット作や話題作はあるにはあるものの、小説などの活字離れどころか、漫画離れ現象さえささやかれるところだ。
「だって昔のテレビは面白かったんだよ」
「そうなの?」
「それにテレビや漫画くらいしか娯楽がなかったからね。あなたたちとは事情が違うよ」
「ふうん…」
アイがレイコに「少しお話ししたい」と提案したのは、深い意味はなく、単に「レイコという人間を知りたかったから」に他ならない。
アイはSNSで「昭和生まれ平成育ちbot」とか「昭和末期生まれのツボ」的なアカウントをフォローしており、そこで得る情報やリプライを読むのが好きだった。
同世代と思しき人が、幼少期に自分と同じものが好きだったとしても、記憶に残っているポイントが全く違っていたりするのが面白い。逆に自分で何気なく書き込んだものに、「そういうのよく覚えていますね。目のつけどころの違いは性差とかもあるのかな」みたいなリプが「同性から」ついたりすることもある。
ネカマ、ネナベなどと、実際の性別を偽る行為は侮蔑的に言われるが、勝手な根拠で相手の性別を決め付けるのもまた、よくあるネット上の風景だし、間違いに気付いて「てっきり男(女)性かと!すみません」と素直にわびたりする光景も、時には微笑ましかったする。
少なくともネット上で顔の見えない他人と穏健に話し合いたいと考えている人が、必要以上に攻撃的になることはない。単に懐かしい雑談で情報や意見の交換をしたいという人々は、そんな空気感を好むのだろう。
しかしこれがリアルだと、程度の差はあるにせよ、まずは相手への(性別を含む)先入観はぬぐえない。
また、実際興味がないのに相手に合わせる流れになったり、相手が何となくそれに感づいたりするのも避けられない。
そういう時は無理に関わらない方がお互いのためだが、少なくとも今日の青田さんは会話を楽しんでくれていた――と、アイは楽天的に考えた。
「絵付けを親子教室でできないかって提案することになったの」
「ほんと?アレを学校でみんなでできるの?」
「うん。簡単だし、そんなにお金かからなそうだし、いいかなと思って」
「賛成!決まるといいなあ」
「だね」
「イズちゃんもきっと喜ぶよ」
「そうなの?」
「うん。やりたいことがあったんだけど、いろいろ言われているうちに混乱したんだって。でも、楽しいは楽しかったってさ」
「そうか。ならよかった」
作業中の眉間のしわは真剣さの証。これもまたよくあることか。
大人に自分の理想を押し付けられて、頭がぐるぐるして…ということが、確かに子供にはよくある。
またそれとは別に、のめり込むあまり、険しい表情で遊んだり作業したりしていて、「楽しくないならやめてもいいのよ」なんて言われることもある。
ユズが遠い昔、ふくれっ面に近い顔で手持ち花火をしているのを見て、「どうした?ソレじゃない方がいいか?」と懸念するカズオミに、「(多分あれ、彼女なりに楽しいのよ。私もああいうところがあったもん)」とこっそり耳打ちで教えたことを、アイは思い出していた。
花火が燃え尽きると、ユズはその顔のまま、「もっとー!」と言っていた。
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