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千堂さんはいつもおしゃれ
しおりを挟む女の子というのはおしなべて、男の子より早熟だと言われる。
小学校の高学年ともなると、友達同士で映画を見にいったり、雑貨店で小物を物色したり、軽食を食べたりするようになり、家族など全く顧みない。
それはみんな学校では奨励されていない――場合によっては夏休みや冬休みの「してはいけないこと」一覧にも載っていることなのだが、どこ吹く風である。
もしも出先で学校の教師や補導員のような人に会ったとしても、「お母さんと来ましたけど、今トイレ行ってて~」程度で逃げればいい、程度に考え、堂々としたものだ。
親は親で、いちおう門限を課し、「面倒ごとは起こすな」とだけ注意をし、特にとがめることもない。
正直なところ、言っても無駄だと諦めているし、陰でこっそり行かれるよりはマシだと思っている。
「猫なで声で寄り付いてくるのはお小遣いがほしいときだけだよね」
グループの中心人物的な田原さんが言い、周囲が「そうそう」「あるある」と同意した。
「それは男の子も似たようなもんよ」と、松尾さんが反論ともいえない意見を言ったが、田原さんには小2の息子もいるので、男児と女児の決定的な違いを述べた。
「女の子は加えて口が達者だからさあ。親と行動を共にするなんてイケてない、とか言うのよね…」
「ああ、そういやうちのボウズどもは、せいぜい「うるせえババア」程度だわ。十分腹は立つけどね」
そんな雑談をただ傍観していた千堂アイは、一人娘のユズのことを思い出していた。
確かにお小遣いが欲しいときなどは、「お父様、お母様~ん」という甘ったるい声を出すし、友達と遊びにいくことも多いが、一方では家族でお出かけというのを楽しみにしており、友達からは「妖怪おうちべったり」とからかわれることさえあるそうだ。
「ユズちゃんはいい子だから、そんなことなさそうだね」
双子の女の子の母で、家も近所の安田さんが話を振ってきた。
「あの子も結構生意気なのよ。ジャージを上着替わりにしてると、『それ外に出るときは、絶対脱いでよ!』なんて言うし」
「千堂さんはいつもおしゃれだから、ユズちゃんもチェック厳しいんじゃない?」
そこは市立高宮小学校中校舎2階西端にある、4年1組の教室だった。
PTAの学年委員になった保護者が集まり、秋の親子授業の出し物を決めるためのミーティングだったのだが、ただの雑談で終わりそうである。
形ばかり1時間程度話してから、いつも取りまとめをしている田原が、「じゃ、次のミーティングまでに、何か案を持ってきてください」と言ってお開きになった。
+++
ミーティングを終えたアイが廊下に出ると、ユズが立っていた。今まで図書室で本を読んでいたという。
「ママ、お話し合い終わったんでしょ?」
「あれ、ユズちゃん家鍵持ってなかったっけ?」
「持ってたけど、ママと帰りたかったから待ってたんだ」
「そうか…帰ろうか」
ユズは素直で真面目で朗らかで、千堂家自慢の娘だった。
周囲の子たちが好きなアイドルやファッションには、自分からはあまり興味を示さず、アイの手製のナチュラル系ブランド風の服を着ることが多い。
だからある意味、学校生活では浮きやすいところがあったが、マイペースながら人の話にはきちんと耳を傾けるタイプなので、友達は意外に多かった。
アイは先刻安田に言われた「千堂さんはいつもおしゃれ」という言葉を思い出していた。
アイもまた、いつも手製の服を着ている。今日はかぶらなかったが、ユズとおそろいになることも珍しくなかった。
安田が言った一言と、周囲の「うんうん」という反応の真意をアイは知っている。
あれは褒めたのでもお世辞を言ったのでもなく、「いじった」のだ。
ゆったりしたシルエットのリネンのワンピース、共布のエプロン、付け襟、バブーシュカ、グラニーバッグ――しかも全部手製――といったいでたちでスーパーで買い物をしていると、「いつもかわいいの着てるね」「絵本に出てきそう」とパート中の知人や近所の買い物客に言われることもあるが、一方で、「何あれ?それ系のモデル気取り?」「ハンドメイドを見せびらかしたいじゃない?」「女子力ってヤツか(笑)」みたいな声があることも知っている。
しかし、自分がそういう服装でいることで、誰かに迷惑をかけているわけでもないだろう。
面と向かって納得のいく理由を付けた上で「やめろ」とでも言われない限り、気にせず好きなものを作り、着ることにしているのだ。
アイが夫のカズオミと出会う前、あまりにも人に気を使い過ぎ、半ば病みかけたことがあったのだが、カズオミはアイのそんな面をすぐに見抜き、こうアドバイスした。
「君が空気読みの能力者であることは素晴らしいと思う。いっそその空気を無効化してみたらどうだい?」
要するに、「何を言われても気にするな」と言われただけなのだが、この言い回しが気に入って、アイはカズオミとの結婚を決めた。
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