雑貨店「サラダボウル」

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
1 / 7

千堂さんはいつもおしゃれ

しおりを挟む

 女の子というのはおしなべて、男の子より早熟だと言われる。

 小学校の高学年ともなると、友達同士で映画を見にいったり、雑貨店で小物を物色したり、軽食ファーストフードを食べたりするようになり、家族など全く顧みない。
 それはみんな学校では奨励されていない――場合によっては夏休みや冬休みの「してはいけないこと」一覧にも載っていることなのだが、どこ吹く風である。

 もしも出先で学校の教師や補導員のような人に会ったとしても、「お母さんと来ましたけど、今トイレ行ってて~」程度で逃げればいい、程度に考え、堂々としたものだ。
 親は親で、いちおう門限を課し、「面倒ごとは起こすな」とだけ注意をし、特にとがめることもない。
 正直なところ、言っても無駄だと諦めているし、陰でこっそり行かれるよりはマシだと思っている。

「猫なで声で寄り付いてくるのはお小遣いがほしいときだけだよね」

 グループの中心人物的な田原たわらさんが言い、周囲が「そうそう」「あるある」と同意した。

 「それは男の子も似たようなもんよ」と、松尾さんが反論ともいえない意見を言ったが、田原さんには小2の息子もいるので、男児と女児の決定的な違いを述べた。

「女の子は加えて口が達者だからさあ。親と行動を共にするなんてイケてない、とか言うのよね…」

「ああ、そういやうちのボウズどもは、せいぜい「うるせえババア」程度だわ。十分腹は立つけどね」

 そんな雑談をただ傍観していた千堂せんどうアイは、一人娘のユズのことを思い出していた。

 確かにお小遣いが欲しいときなどは、「お父様とーたま、お母様かーたま~ん」という甘ったるい声を出すし、友達と遊びにいくことも多いが、一方では家族でお出かけというのを楽しみにしており、友達からは「妖怪おうちべったり」とからかわれることさえあるそうだ。

「ユズちゃんはいい子だから、そんなことなさそうだね」

 双子の女の子の母で、家も近所の安田やすださんが話を振ってきた。

「あの子も結構生意気なのよ。ジャージを上着カーディガン替わりにしてると、『それ外に出るときは、絶対脱いでよ!』なんて言うし」
「千堂さんはいつもおしゃれだから、ユズちゃんもチェック厳しいんじゃない?」

 そこは市立高宮たかみや小学校中校舎2階西端にある、4年1組の教室だった。

 PTAの学年委員になった保護者が集まり、秋の親子授業の出し物を決めるためのミーティングだったのだが、ただの雑談で終わりそうである。

 形ばかり1時間程度話してから、いつも取りまとめをしている田原が、「じゃ、次のミーティングまでに、何か案を持ってきてください」と言ってお開きになった。

 +++

 ミーティングを終えたアイが廊下に出ると、ユズが立っていた。今まで図書室で本を読んでいたという。

「ママ、お話し合い終わったんでしょ?」
「あれ、ユズちゃん家鍵いえかぎ持ってなかったっけ?」
「持ってたけど、ママと帰りたかったから待ってたんだ」
「そうか…帰ろうか」

 ユズは素直で真面目で朗らかで、千堂家自慢の娘だった。
 周囲の子たちが好きなアイドルやファッションには、自分からはあまり興味を示さず、アイの手製のナチュラル系ブランド風のワンピースを着ることが多い。
 だからある意味、学校生活では浮きやすいところがあったが、マイペースながら人の話にはきちんと耳を傾けるタイプなので、友達は意外に多かった。

 アイは先刻安田に言われた「千堂さんはいつもおしゃれ」という言葉を思い出していた。
 アイもまた、いつも手製の服を着ている。今日はかぶらなかったが、ユズとおそろいになることも珍しくなかった。
 安田が言った一言と、周囲の「うんうん」という反応の真意をアイは知っている。
 あれは褒めたのでもお世辞を言ったのでもなく、「いじった」のだ。

 ゆったりしたシルエットのリネンのワンピース、共布のエプロン、付け襟、バブーシュカ、グラニーバッグ――しかも全部手製――といったいでたちでスーパーで買い物をしていると、「いつもかわいいの着てるね」「絵本に出てきそう」とパート中の知人や近所の買い物客に言われることもあるが、一方で、「何あれ?それ系のモデル気取り?」「ハンドメイドを見せびらかしたいじゃない?」「女子りょくってヤツか(笑)」みたいな声があることも知っている。

 しかし、自分がそういう服装でいることで、誰かに迷惑をかけているわけでもないだろう。
 面と向かって納得のいく理由を付けた上で「やめろ」とでも言われない限り、気にせず好きなものを作り、着ることにしているのだ。

 アイが夫のカズオミと出会う前、あまりにも人に気を使い過ぎ、半ば病みかけたことがあったのだが、カズオミはアイのそんな面をすぐに見抜き、こうアドバイスした。

「君が空気読みの能力者であることは素晴らしいと思う。いっそその空気を無効化してみたらどうだい?」

 要するに、「何を言われても気にするな」と言われただけなのだが、この言い回しが気に入って、アイはカズオミとの結婚を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍青学園GCSA

楓和
青春
学園都市の中にある学校の一つ、龍青学園。ここの中等部に、先生や生徒からの様々な依頼に対し、お金以外の報酬で請け負うお助け集団「GCSA」があった。 他学校とのスポーツ対決、謎の集団が絡む陰謀、大人の事情と子どもの事情…GCSAのリーダー「竜沢神侍」を中心に巻き起こる、ドタバタ青春ラブコメ爽快スポ根ストーリー。 ※龍青学園GCSA 各話のちょっとした話しを書いた短編集「龍青学園GCSA -ぷち-」も宜しくお願い致します。

ドレッドノート・カンガルー

鳴瀬きゅう
現代文学
ふたりの女の子が命に向き合うハートフルな物語です。

初恋ガチ勢

あおみなみ
キャラ文芸
「ながいながい初恋の物語」を、1~3話ずつ公開予定です。  

対極美

内海 裕心
現代文学
同じ、世界、地球の中でも、これほどまでに国によって、情勢、環境、文化は様々であり、平和で人々が日々幸せに生きている国もあれば、戦争して、人々が日々脅えている国もある。 同じ地球に生きていて、同じ人間でも、やはり環境が違えば、違う生き物なのだろうか。 このような疑問に対し、 対極な世界に生きる少女2人の話を、比べながら、その2人の共通点、類似点を紐解き、その答えを追求するストーリー。

龍青学園GCSA -ぷち-

楓和
青春
これは本編である『龍青学園GCSA』の、ちょっとした小話です。 ネタバレだらけ…というか、本編を見ないと意味不明になるので、本編を見ていない方は先にそちらを読み、その後でこちらを読んで頂けると幸いです。 龍青学園GCSAを気に入って下さった方には、感謝の気持ちで一杯です。 もし好きなキャラクターが居て、そのキャラクターの裏話など聞きたい…なんて素晴らしい方が居たら、ぜひご連絡下さい。

大学寮の偽夫婦~住居のために偽装結婚はじめました~

石田空
現代文学
かつては最年少大賞受賞、コミカライズ、アニメ化まで決めた人気作家「だった」黒林亮太は、デビュー作が終了してからというもの、次の企画が全く通らず、デビュー作の印税だけでカツカツの生活のままどうにか食いつないでいた。 さらに区画整理に巻き込まれて、このままだと職なし住所なしにまで転がっていってしまう危機のさなかで偶然見つけた、大学寮の管理人の仕事。三食住居付きの夢のような仕事だが、条件は「夫婦住み込み」の文字。 困り果てていたところで、面接に行きたい白羽素子もまた、リストラに住居なしの危機に陥って困り果てていた。 利害が一致したふたりは、結婚して大学寮の管理人としてリスタートをはじめるのだった。 しかし初めての男女同棲に、個性的な寮生たちに、舞い込んでくるトラブル。 この状況で亮太は新作を書くことができるのか。そして素子との偽装結婚の行方は。

処理中です...