夏服に着がえて

あおみなみ

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第1話 父と母

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 私は中学3年生で15歳で、つまり来春高校受験だというのに、8月に入ってすぐ、父が突然会社をめた。

 それですぐ全く生活できなくなったわけでもないけれど、さすがに「あらそう?」で受け入れられるほど軽い問題ではない。

 父と母の深夜の言い争いから事情を拾ったところ、どうやら父は会社の不本意な人事に抵抗して辞めたらしい。

上司の誰それが自分を気に入らないから、俺をあんなところに赴任させようとしたに違いない▼本当なら今頃、あのポストは俺のもののはずだった▼俺は優秀なのに運がなくて、いつも割を食う▼俺が嫌われるのは優秀過ぎるせいかもしれない。

 この5年のあいだ、短いスパンでよその街に2回も単身赴任していたので、「疲れちゃった」が本音だったのだろうし、何なら「壊れちゃった」のかもしれない。

 話は少し変わるけど、父はこの土地の人間ではない。
 この街からは飛行機の距離の県出身で、なぜか縁あって、この街出身の母と結婚し、こっちでの生活の方が長くなったらしい。
 
 高校受験のとき、その出身県で一番の難関校を受験して不合格になり、とある仏教系の学校に入学した。
 その学校ってむしろ最近、野球が強かったり、進学率が高かったりして全国的に有名なんだけど、父の頃は「名前を書けば誰でも入れる」とかってバカにされていたんだって。
 地区一番の学校に不合格だったのは、「有力者の息子と成績が同じぐらいだったから、自分が落とされた」のだそうだけど、公立校でそんなことあっていいのかな?さすがに妄想としか思えない。

 実は私、この「高校進学の悲劇」を知って以来、父の言うことを話半分に聞くくせがついたので、会社を辞めた経緯いきさつや理由に関しても結構疑っている。
 それに関しては母も同じだったようで、「何か気に入らないことを言われたのを大げさにとらえただけだと思うんだよね。本当にこらえ性がないから」と、ぶつぶつ愚痴をこぼした。

◇◇◇

 しかし、実は私は母の味方というわけでもない。

 母と話していると、なぜか「お父さんが本当にえげつないとか受けていたらどうする気だろう?ひどいなあ」と同情してしまう。
 時々、動画サイトのお勧めで出てくる実話アニメとかでも、そういう話見ることあるもの。
 私の学校にも、表に現れにくいいじめとか少しあるけど、そういうのを見ていると、人間って大人になってもそんなに変わらないんだなって思う。
 
 母によくない感情を持ってしまう理由も、思い当たるものがある。

 仕事を辞めて暇になった父は、次の仕事を探すと言いながら、「少しのんびりしたい」とかって、朝から高校野球を見続けている。
 季節が悪いよ。8月だもん。外は暑いし、エアコン効いた部屋で麦茶飲んで、テレビ見ていたよね。

職安ハロワ行かないの?」
「今日は行かなくていい」
「それにしたって、情報収集ぐらいすれば?」
「うるせえな。今日は◎◎実業の初戦だから楽しみにしてたんだ。邪魔すんな」
「何その言い方?一日中ヤキュウ、ヤキュウって。もううんざり!」

 私はそもそもテレビをあんまり見ないからどうでもいいんだけど、母にしてみると、芸能ニュースとかチェックしている最中に、勝手にチャンネルをかえるというのが、もう「あり得ない!何のつもり?」なのだそうだ。

 私はそれを見て、「ああ、こういうオバサンになるのは嫌だなあ」と思ったんだ。
 別に芸能ニュースに興味しんしんなのは構わないけど、たかがチャンネルかえられたくらいで、あんなキーキー声出すなんて、やっぱり恥ずかしいよ。

 さきざきの心配事とかお金の苦労とか、いろいろあるにしても、何となく母に同情できないのは、あの「もーっ、安曇あずみよしののニュース見てたのにー」とかってうるさいからだ。私にとっては何の恨みも興味もない人気女優・安曇よしのまで嫌いになりそう。まさに風評だと思う。

 お似合いの夫婦って言葉は、いい場合にばかり使うわけではないようだ。
 うちの両親は本当、ナミダが出るほどお似合いだと思う。
 「なべにとじぶた」っていうんだっけ?こういうの。

 性格がよくて、容姿も美しくて、教養もあって、お互いを尊敬し合っているような夫婦って、この世にいるのかな?
 
 いやいや、自分が知らないからって存在を否定するのは視野が狭過ぎる。
 多分実在するのだろう。ただ、それが私の両親ではないというだけだ。
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