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次に会うときは他人ですから

キャンディボール

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40代、元スレンダー美女、現在BMI値25超の母が恋をした

***

 (父の話を真に受けると)母は昔、とてもはつらつとしていてキレイだった――らしい。
 いやいや今だって、年の割にはっちゃけているというか、無駄に元気なんだけど、体重はいちばん細かったときから20キロ増えたという。今40代だから、1年で1キロっていうか、10年で10キロ増えた計算になるのかな。

 父と20代半ばで結婚したとき、お式に備えてエステに通って磨き上げたとは言っていたけど、確かに写真を見る限り、とってもきれいだった。
 顔は面影があるから、別人とまでは思わないけれど、だからこそ物悲しいものがある。
 何というか…まだまだ自分はイケてると思っているオーラがあるというか。

 明るくて優しくて料理上手な「いいお母さん」なんだけど、そういうところには違和感を覚えるというか、はっきり言って好きじゃない。
 キツいことを言えば、「自重しろオバハン」なのだ。

◇◇◇

 突然話題は変わるが。
 私の中学校の事務室には、窓の外にカウンターが張り出していて、その上にピンク色の公衆電話が置いてある。
 学校への携帯・スマホの持ち込みは禁止されているから、忘れ物をしたとかで自宅に連絡しなければならないときは、そこから10円玉を使って電話するのだ(お財布を忘れたときは、事務室でコインか固定電話を貸してくれる)。

 「その日」忘れ物をしてしまった私は、家に電話をした。
 クラスメートで親友のマナが面白半分に一緒に来て、後ろで待っていた。
 彼女は今まで公衆電話を使ったことがないという。

 しかし、なぜかいるはずの母が出ない。
 留守電に切り替わってしまったので、「え?なんでなんでなんで?」と慌てているところに、なぜかやたら張りのある大声で名前を呼ばれた。

「あんたの忘れ物、たに先生に預けたわよ~!」

 そう言いながら小走りで、うれしそうに近づいてきたのは母だった。
 公衆電話で話していた私の姿は、事務室や職員室がある棟の入口からくっきり見える。

 私の忘れ物に気づいてすぐに家を出た母は、私が電話してくるのを予想して、まずは公衆電話の方を見にいこうとしたのだが、たまたま私たちの担任である谷先生に声をかけられたので、挨拶がてら事情を話したら、預ってくれたそうだ。

「そうなんだ~。何か悪かったね!」

 少し離れた場所からなので、私の声も少し大きくなっているのが自分でも分かった。
(文字に書き起こしたら、怒っているみたいな見えるかもな…)

「じゃ、そゆことで~!」

 母は軽く頭を縦に傾けて、手を振って去っていった。
 多分マナへの挨拶だったのだろう。

 娘の携行品もちものをしっかり把握していて、恩着せがましくなく、あくまでさりげなーく持ってきて、明るく挨拶をして帰っていく。
 彼女のどこにも落ち度はない。
 落ち度どころか、「いいお母さんだね」とうらやましがられてもおかしくないほどの対応だと思う。

 マナは去っていく母の姿を見て、多分悪気なくこう言った。

「あんたのママさんって、なんかキャンディボールみたいだね」
「キャンディボール?」
「元気にぴょんぴょん弾んで、明るい色の服着てて」

 100均にも売っている、小さい子が遊ぶあのカラフルなボールのことらしい。
 マナの口調はバカにしたものではなかったし、悪口でないことは分かるのだが、母の元気な様子をまん丸いものに例えられたのが気になった。

「そうだね、うちのお母さん太ってるからね」
「あ、そういう意味じゃないよ?太ってるっていうか――ちょっとふくよかだけど」
「いいいい、分かってるから」

 マナはその後、「不自然なほどに自然に」話題を変えた。
 「ねえ、それより英語の宿題やった?」だってさ。
 始業10分前に何言ってんのよって話。

 私はマナのお母さんを知っている。
 身長が170センチ近くあって、すらっとしている。「メイク落とすと顔がなくなる」と言われるほどのあっさり顔も、実は私の好みだ。
 マナは体型も顔もお母さん似だから、きっとあんな大人になるのだろう。
 そんなマナの口から出てきた「キャンディボール」という言葉は、そこそこ破壊力があった。

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