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40年間、心の中で飼い慣らしていた恨みのお話
300円で40年恨んでます
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人からの没収品を勝手に売る中学教師を燃やしたい!
ブログからの転載ですが、加除と、敬体→常体のリライトしました。
いつかはネタにしようと思っていたものの、小説に落とし込めなかったので、
普通のノンフィクションエッセイになりました。
***
私が中学生のとき、授業中にシャープペンを使うことを禁じていた教師が2人いた。
1人は1年生に美術、2年生に英語を教えていた女性教師だったが、禁止していたのは美術の授業だけだったと思われる。
シャープペン自体を否定していたわけではなく、水彩画の下絵やデッサンには鉛筆の方がいいという考えから禁止していたので、これは理にかなっていたし、生徒たちも納得して従っていた。
私はたまたま消しゴムを忘れ、シャープペンの消しゴムを使おうとして「シャープは駄目ですよ」と頭ごなしに言われたことがあったけれど、まあ消しゴムを忘れた自分が悪いので、当時一瞬だけ「むすっ」とした程度で、今はさすがに何とも思っていない。
そして2人目は、3年時の数学の男性教師だった。
片仮名書きだと外国人名と間違ってしまうような、少し変わった姓の持ち主だった。
「苗字由来net」で調べてみたら、人数は400人以下、順位は15,000位見当だから、かなり希少のようだ。東京・福島・新潟に多いらしい。以下「Y」と呼ぶ。
Yは単に典型的な昭和脳――というか、そもそも時代は昭和50年代なので、当然といえば当然か。年齢を考えると、私の父と同じ昭和ヒトケタというやつだろう。
実のところ平成、令和になってもわずかに残ってはいそうだが、いわゆる鉛筆信仰に基づいてシャープペンを禁止していたタイプだ。
しかし、学校全体の規則として禁止するほどの権力はなかったので、自分が担当する授業でだけ使用を禁止していた。
Yの困ったところは、前者の女性教師が口頭注意だけだったのに対し、使っている生徒から、がっつり没収までしていたところである。
私は基本的に真面目だったので、持ち物の没収自体経験がなかったが、何にせよ、学期末や卒業直前に返すことが前提の没収だと思っていた――実際に身をもって経験するまでは。
◇◇◇
お気に入りのシャープペンは、「ジンジャータウン」というキャラクターもので、ボディーカラーはくすんだブルーだった。
サンリオキャラクターにはあまりいないタイプの落ち着いた絵柄と色調で、犬、ウサギ、キツネなどが、お揃いのスモックを着て学校に通ったり、オーバーオール姿で作業をしたりというのがユーモラスでかわいい。思い切りシブめのシルバニアファミリーといった風情もあった。
「あまりほかの人が使っていないものが欲しい」と考える時期は、誰にでもあると思う。周囲の子が「かわいいね」と言いつつ使おうとしなかったのは、私には好都合だった。自分だけのお気に入りだと思い、お小遣いで少しずつ買い、大切に使った。
300円のシャープペンなど、今の感覚なら毎日でも買えないことはないけれど(かといって、買わないけれど)、当時は1カ月のお小遣いから300円を捻出するのは勇気の要ることだった。
そんなお気に入りをうっかり使ってしまい、授業開幕2分程度で取り上げられて落ち込んでいると、学校の文化祭の季節になった。
大した展示物もなく、訪れるのは近所の人たちくらいだったものの、体育館を丸々一つ使ったバザーは生徒にも近隣住民にも大好評だった。
私がクラスの当番で教室にいるとき、他のクラスの友人が慌ててやってきた。
「バザーであれ見つけたよ、あれ」
「あれ?」
「Yから取り上げられたっていってたシャープ!みなみちゃん、そう言って落ち込んでたよね」
「え?どういうこと?」
「文房具のコーナーで売ってたの」
「はいぃ?」
その友人は、そのシャープが一目見て私のものだと分かったという。
いや、正確には私のものという確証はなかったのだが、少なくとも全く同じ商品だとすぐ分かったらしい。
100円均一の文房具売り場と聞き、休憩時間に飛んでいったが、いくら探してもそこにはなかった。多分、売れてしまった後なのだろう。
「見つけた」と知らせてくれた友達は、「私があのとき買っておかなかったばっかりに…ごめん!」とわびてくれたが、もちろん彼女のせいではないし、彼女を恨んではいない。
第一、本当に私からの没収品だったのかも確証がない。
ほかにも被害報告があれば分かりやすかったが、そういう声は聞かなかった。少なくとも私の耳には入らなかった。
ただ、一つだけ言えることは、Yは私に2学期末になっても卒業シーズンになっても、それを返してくれなかったことだ。
◇◇◇
今回これを書くにあたり、そういえば「没収」って言葉って結構カジュアルに使っちゃうけど、実際のところどうなのよ――という疑問が湧いて調べた。
没収とはすなわち、こういうことらしい。
ぼっしゅう…ボッシウ【没収】
〘名〙
(1) 財産や権利などを取り上げること。収没。もっしゅ。もっしゅう。〔新令字解(1868)〕
(2)刑罰の一つ。犯罪行為に使用したり、犯罪行為によって得たりなどした物の所有権を犯人から強制的に奪って国家の所有に移すこと。刑法上の付加刑で、懲役や禁固などの刑を科する場合に限り、これと合わせて科することができる。〔刑法(明治四〇年)(1907)〕
(3) =ぼっしゅ(没取)②〔未成年者飲酒禁止法(1922)〕
出典:精選版 日本国語大辞典
***
何だか物騒な言葉が多数出てきて、はっきり言ってビビッてしまった。決して「返すこと」が前提のときに使う言葉ではないようだ。
ということは、Yが取り上げたものを返さないのは百歩譲って間違っていなかったとして、果たして私が数学の授業でシャープペンをうっかり使ったものをペナルティーとして取り上げ、売却(あるいは紛失)してしまったことは、正しかったのだろうか――断じて否!である。
ウサちゃんやワンちゃんの絵がついたシャープで、一体いかなる犯罪行為が可能だというのだ?
この、一応優等生で通っていた私が、300円のシャープペン欲しさにチロンヌップ(当時郡山市にあった、女子小学生~高校生に人気ファンシーショップ)で万引き行為でも働いたというのか?
ざけんじゃねえぞ、Y(勢いで実名を挙げてしまうのを、何とか思いとどまった)。
くたばれ!と言いたいところだが、多分もう既に鬼籍に入っていることだろう。
◇◇◇
メルカリで調べてみたら、ジンジャータウングッズ自体は割と出品されているが、どれも今や市場に出回っていないため、どうしても高額である。
ついでにいえば、私があのとき取り上げられ、売り飛ばされたと仮定されるシャープペンは出ていなかった。
あゝ、悔しい。40年経っても悔しいものは悔しい。
【ブログ転載のため、少し違う話題の「おまけ」も引き続きどうぞ →】
ブログからの転載ですが、加除と、敬体→常体のリライトしました。
いつかはネタにしようと思っていたものの、小説に落とし込めなかったので、
普通のノンフィクションエッセイになりました。
***
私が中学生のとき、授業中にシャープペンを使うことを禁じていた教師が2人いた。
1人は1年生に美術、2年生に英語を教えていた女性教師だったが、禁止していたのは美術の授業だけだったと思われる。
シャープペン自体を否定していたわけではなく、水彩画の下絵やデッサンには鉛筆の方がいいという考えから禁止していたので、これは理にかなっていたし、生徒たちも納得して従っていた。
私はたまたま消しゴムを忘れ、シャープペンの消しゴムを使おうとして「シャープは駄目ですよ」と頭ごなしに言われたことがあったけれど、まあ消しゴムを忘れた自分が悪いので、当時一瞬だけ「むすっ」とした程度で、今はさすがに何とも思っていない。
そして2人目は、3年時の数学の男性教師だった。
片仮名書きだと外国人名と間違ってしまうような、少し変わった姓の持ち主だった。
「苗字由来net」で調べてみたら、人数は400人以下、順位は15,000位見当だから、かなり希少のようだ。東京・福島・新潟に多いらしい。以下「Y」と呼ぶ。
Yは単に典型的な昭和脳――というか、そもそも時代は昭和50年代なので、当然といえば当然か。年齢を考えると、私の父と同じ昭和ヒトケタというやつだろう。
実のところ平成、令和になってもわずかに残ってはいそうだが、いわゆる鉛筆信仰に基づいてシャープペンを禁止していたタイプだ。
しかし、学校全体の規則として禁止するほどの権力はなかったので、自分が担当する授業でだけ使用を禁止していた。
Yの困ったところは、前者の女性教師が口頭注意だけだったのに対し、使っている生徒から、がっつり没収までしていたところである。
私は基本的に真面目だったので、持ち物の没収自体経験がなかったが、何にせよ、学期末や卒業直前に返すことが前提の没収だと思っていた――実際に身をもって経験するまでは。
◇◇◇
お気に入りのシャープペンは、「ジンジャータウン」というキャラクターもので、ボディーカラーはくすんだブルーだった。
サンリオキャラクターにはあまりいないタイプの落ち着いた絵柄と色調で、犬、ウサギ、キツネなどが、お揃いのスモックを着て学校に通ったり、オーバーオール姿で作業をしたりというのがユーモラスでかわいい。思い切りシブめのシルバニアファミリーといった風情もあった。
「あまりほかの人が使っていないものが欲しい」と考える時期は、誰にでもあると思う。周囲の子が「かわいいね」と言いつつ使おうとしなかったのは、私には好都合だった。自分だけのお気に入りだと思い、お小遣いで少しずつ買い、大切に使った。
300円のシャープペンなど、今の感覚なら毎日でも買えないことはないけれど(かといって、買わないけれど)、当時は1カ月のお小遣いから300円を捻出するのは勇気の要ることだった。
そんなお気に入りをうっかり使ってしまい、授業開幕2分程度で取り上げられて落ち込んでいると、学校の文化祭の季節になった。
大した展示物もなく、訪れるのは近所の人たちくらいだったものの、体育館を丸々一つ使ったバザーは生徒にも近隣住民にも大好評だった。
私がクラスの当番で教室にいるとき、他のクラスの友人が慌ててやってきた。
「バザーであれ見つけたよ、あれ」
「あれ?」
「Yから取り上げられたっていってたシャープ!みなみちゃん、そう言って落ち込んでたよね」
「え?どういうこと?」
「文房具のコーナーで売ってたの」
「はいぃ?」
その友人は、そのシャープが一目見て私のものだと分かったという。
いや、正確には私のものという確証はなかったのだが、少なくとも全く同じ商品だとすぐ分かったらしい。
100円均一の文房具売り場と聞き、休憩時間に飛んでいったが、いくら探してもそこにはなかった。多分、売れてしまった後なのだろう。
「見つけた」と知らせてくれた友達は、「私があのとき買っておかなかったばっかりに…ごめん!」とわびてくれたが、もちろん彼女のせいではないし、彼女を恨んではいない。
第一、本当に私からの没収品だったのかも確証がない。
ほかにも被害報告があれば分かりやすかったが、そういう声は聞かなかった。少なくとも私の耳には入らなかった。
ただ、一つだけ言えることは、Yは私に2学期末になっても卒業シーズンになっても、それを返してくれなかったことだ。
◇◇◇
今回これを書くにあたり、そういえば「没収」って言葉って結構カジュアルに使っちゃうけど、実際のところどうなのよ――という疑問が湧いて調べた。
没収とはすなわち、こういうことらしい。
ぼっしゅう…ボッシウ【没収】
〘名〙
(1) 財産や権利などを取り上げること。収没。もっしゅ。もっしゅう。〔新令字解(1868)〕
(2)刑罰の一つ。犯罪行為に使用したり、犯罪行為によって得たりなどした物の所有権を犯人から強制的に奪って国家の所有に移すこと。刑法上の付加刑で、懲役や禁固などの刑を科する場合に限り、これと合わせて科することができる。〔刑法(明治四〇年)(1907)〕
(3) =ぼっしゅ(没取)②〔未成年者飲酒禁止法(1922)〕
出典:精選版 日本国語大辞典
***
何だか物騒な言葉が多数出てきて、はっきり言ってビビッてしまった。決して「返すこと」が前提のときに使う言葉ではないようだ。
ということは、Yが取り上げたものを返さないのは百歩譲って間違っていなかったとして、果たして私が数学の授業でシャープペンをうっかり使ったものをペナルティーとして取り上げ、売却(あるいは紛失)してしまったことは、正しかったのだろうか――断じて否!である。
ウサちゃんやワンちゃんの絵がついたシャープで、一体いかなる犯罪行為が可能だというのだ?
この、一応優等生で通っていた私が、300円のシャープペン欲しさにチロンヌップ(当時郡山市にあった、女子小学生~高校生に人気ファンシーショップ)で万引き行為でも働いたというのか?
ざけんじゃねえぞ、Y(勢いで実名を挙げてしまうのを、何とか思いとどまった)。
くたばれ!と言いたいところだが、多分もう既に鬼籍に入っていることだろう。
◇◇◇
メルカリで調べてみたら、ジンジャータウングッズ自体は割と出品されているが、どれも今や市場に出回っていないため、どうしても高額である。
ついでにいえば、私があのとき取り上げられ、売り飛ばされたと仮定されるシャープペンは出ていなかった。
あゝ、悔しい。40年経っても悔しいものは悔しい。
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