短編集「つばなれまえ」

あおみなみ

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ひよこのおかあさん

ひよこ草【終】

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 私の献身ぶりに感心した家族は、その後、何か飼おうか?ハムスターもいいぞ?などと、さりげなくいろいろと提案したが、私はピイスケの世話で燃え尽きてしまったのか、ほかの生き物を買う気にはなれなかった。

 実際問題、オスの成鳥を、いくら地方とはいえ住宅街で買うのは難しいだろう。
 大人になってから、ひよこ飼育経験者に聞くと、「すぐ死んだ」と「ある日突然いなくなった(田舎などに引き取られた」)の二派に分かれた。
 祖父の話をすると、「いいおじいちゃんだね」と好意的な人と、「お前、それ信じたの?バカじゃねーの(笑)」という、ある意味まっとうな反応に分かれた。

◇◇◇

 私もいい年齢になり、ごく平凡に結婚し、女の子を産んだ。
 平日はフルタイムで働いているが、休みの日は娘や夫とともに近所を散歩するのが楽しみである。

 小さな子供は目線が低いので、下にあるものに目が行きやすい。
 祖母なら「雑草」の一言で引っこ抜いていたであろうヒメオドリコソウやルリカラクサ(オオイヌノフグリ)などに興味津々で、「あれはなんていうの?」と尋ねてくることがある。

 白い小花を指さす娘に、私は答えた。
「あれはひよこ草だよ」
 そこで夫が言う。
「ん?ハコベって名前じゃなかったっけ?」
 娘は少し混乱して、「どっちなの?」と、生意気な調子で言った。

「どっちも正しいの。好きな方で呼びなさい」
 と言ったら、
「短い方がいいから、ハコベ!」
 と返された。

 こういうトホホな現実も、それはそれで愛おしい。

[『ひよこのおかあさん』了]
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