11 / 22
栗林の見える部屋 マミちゃんにとっての「銀の匙」は、緑と紫のペンでした。
訃報【終】
しおりを挟むさて、いろいろと言語化が難しかった6歳当時の記憶を、マミちゃんはちょっとしたきっかけで時々思い出していましたが、それから10年ほど経ったある日、たまたま地方紙で「旅館いけはた社長 池端幸三氏死去 享年72 葬儀は~」といった物故者の記事を見つけたのですが、「喪主は妻弓子氏」と書いてありました。
「これ、ゆみこさんだ!」
「え?どこのゆみこさん?」
たまたま居合わせた母親が怪訝そうに尋ねたので、自分が幼稚園年長の頃の記憶をざっと母に語って聞かせました。
「よく覚えていたね。そう、弓子さんは「いけはた」の女将さんで…おばあちゃんの幼馴染だよ」
「え、うそだ」
「何がうそなの?」
「だってすごく若かったよ?」
高校生くらいの人より上は全員「大人」だと思っている6歳児が、的確に年齢を「〇歳ぐらい」ということはできませんが、少なくとも当時のおばあちゃんよりも、大分若いということだけは分かりました。
「亡くなった社長さんもおばあちゃんと同い年だし、弓子さんだって70歳ぐらいじゃないかな」
「えー…」
そこでマミちゃんは、全てがつながった気がしました。
あのとき私が「よく分からない寄せ集め」で迎え入れられた背景には、弓子さんの「年齢」も実は関係していたのではないか?と。
「子供はお絵描きが好き」「子供はお菓子あてがっておけばいい」という発想に基づき、多分「描(書く)くものない?サインペンでいいか」「紙は――チラシで十分」「買い置きのお菓子を出せばいいか」的な感じで、あれらがマミちゃんの前に差し出されたのかもしれません。
「弓子さん」は若くてきれいで優しくて、かっこよく着物を着た女性でしたが、そんな舞台裏を想像すると、何だか親しみが湧いてきます。
「おばあちゃんはきっとお葬式に行くよね?」
「そうね、行くでしょうね」
「私も行ったらダメかな?」
「えー。私じゃ何ともだな。まあ相談してみなよ」
「うん」
私が高校の制服を身に着けて、神妙な顔で「ご愁傷様です」なんて言ったら、「弓子さん」はどう思うかな?思い出してくれるかな?などと、女子高生になっていたマミちゃんは、ちょっと不謹慎なことを考えておりました。
【『栗林の見える部屋 マミちゃんにとっての「銀の匙」は、緑と紫のペンでした。』了】
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる