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【8】キャリコのケーキ【終】
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その後も私は、家族や友人から聞いたことのあるお店をあちこち回った。
お菓子、ラーメン、餃子、おにぎりetc.
何分大学生なので、気の利いた小料理屋というのは難しいから、一回当たり1,000円もかからないものばかりだったけれど。
もうすぐ片山を離れるんだという感傷がそうさせるにしても、どれもこれも、どこにでもあるけれど、片山にしかないと思える。
▽▽
荷物の取りまとめも大体済んで、引っ越しまであと3日という日、再びキャリコを訪れた。
できるだけ早い時間と思い、10時半頃訪れると、ホールケーキはまだ手付かずで、客も私1人だった。
無印店長が「いらっしゃい。また来てくれたんですね」と言った。
1カ月近く前に一度来たきりなのに、やっぱり接客業の人ってすごいな。
私がコンビニや居酒屋でバイトしていたときは、常連といっても、よほど美男美女とかでもないと覚えていなかったけれど。
「あの、ケーキセット(700円)ください。ブレンドで」
「はい、かしこまりましたー」
さて、橋本耕造パティシエの実力やいかに?
▽▽
「お待たせしましたー」
白いお皿の上に、春らしい黄緑と黄色が層になったケーキが置かれた。
何だか某テニス漫画に出てくる大阪の中学校のユニみたいな配色。
ちょっと不安定そうなので、軽く左手を添えつつ、ぱたっと倒し、できるだけ重層の部分がいっぺんに口に入るようにフォークで切り取った。
「あ…抹茶じゃない…」
てっきり抹茶かと思ったら、むしろ黄色い部分のさわやかな酸味の方が買った。
色こそ春らしいけれど、むしろ「夏っぽい」味のするケーキ。
「耕造さんが「うぐいす餅の材料使った」って言ってた気がします」
「え?」
「一応名前もあってね、「ライムグリーンの情熱」だったかな」
「はあ…」
無印店長の説明によると、構造さんは店長にとっては大分年上のお友達で、とある老舗菓子店の三番目の息子さんで、それとは無関係に、フランスやイタリアで修行してきて、今は「趣味でケーキ職人やってる」とうそぶいているような方らしい。
名前の意味は、スポンジの黄緑の部分を英語に、材料として使っているパッションフルーツを日本語にしただけだそうだ。
響きは悪くないんだけど、この店にはケーキが毎日1種類しかないらしいことに感謝したい。この名前を口にのぼせて注文するのは少し恥ずかしい。
「パッションフルーツ、食べたことありませんでしたけど、この上にトッピングされてるのって…」
「あー、桃缶とパイン缶だよね。風味付けで使っているらしいけど、勘違いする人もいるだろうね」
「ですね。でもすっごいおいしい。色もきれいだし、しっとりしてるし、こんなの初めて食べました」
「若い美人がケーキを褒めてたって、耕造さんに伝えておくよ」
「そんな…はは…」
▽▽
このコミュ障の私がちゃんと店長と会話して、お世辞に照れ笑いしてる。これって結構な快挙ではないか。
「私もうすぐ就職でI県に行くんです」
「あ、そうなんだ…」
「でも、帰省のときまたお邪魔したいです」
「そうだね、ぜひ来てよ。電話くれれば、ケーキの取り置きもしておくよ」
「いやいや、さすがにそれは…」
お役所だから、いわゆる盆休みを一斉に取ることはない。少しずらして9月なんて取り方は無理かな?
そしてまた、ちょっとぴり恥ずかしい名前がついているであろうケーキを注文しよう。
▽▽
「とりあえず食べおさめ キャリコのケーキ」
今回は店長がいろいろ協力してくれて、結構いい感じの写真も撮らせてもらった。
ビュー数なんてほとんど気にしたことないけれど、私には珍しく、いっぱい見てほしいなという欲が出てしまった。
◇◇◇◇◇◇
【元ネタ集】
〇キャリコのケーキ
場所として想定したのは、福島県合同庁舎の近くにある持ち込み可の小さなカフェですが、「キャリコ」という喫茶店や、作中出てきたパッションフルーツを使ったケーキは、実は別の県に実在したものです。
「キャリコ」が既に閉じていることと(マスターの容貌や人柄もその店のマスターを下敷きに書きました)、職人さんが、今はすっかり違う路線のケーキを作っていることなどから、詳細については割愛させていただきます。ちなみにケーキの名前は普通に「パッション」でした。
「大阪の中学校」は、「テニプリ」こと『テニスの王子様』シリーズファンにはおなじみの大阪四天宝寺中。私は逆に、あの黄色×黄緑のユニフォームを初めて見たとき、「あ、パッションだ」と思ったくらいです。
[完]
お菓子、ラーメン、餃子、おにぎりetc.
何分大学生なので、気の利いた小料理屋というのは難しいから、一回当たり1,000円もかからないものばかりだったけれど。
もうすぐ片山を離れるんだという感傷がそうさせるにしても、どれもこれも、どこにでもあるけれど、片山にしかないと思える。
▽▽
荷物の取りまとめも大体済んで、引っ越しまであと3日という日、再びキャリコを訪れた。
できるだけ早い時間と思い、10時半頃訪れると、ホールケーキはまだ手付かずで、客も私1人だった。
無印店長が「いらっしゃい。また来てくれたんですね」と言った。
1カ月近く前に一度来たきりなのに、やっぱり接客業の人ってすごいな。
私がコンビニや居酒屋でバイトしていたときは、常連といっても、よほど美男美女とかでもないと覚えていなかったけれど。
「あの、ケーキセット(700円)ください。ブレンドで」
「はい、かしこまりましたー」
さて、橋本耕造パティシエの実力やいかに?
▽▽
「お待たせしましたー」
白いお皿の上に、春らしい黄緑と黄色が層になったケーキが置かれた。
何だか某テニス漫画に出てくる大阪の中学校のユニみたいな配色。
ちょっと不安定そうなので、軽く左手を添えつつ、ぱたっと倒し、できるだけ重層の部分がいっぺんに口に入るようにフォークで切り取った。
「あ…抹茶じゃない…」
てっきり抹茶かと思ったら、むしろ黄色い部分のさわやかな酸味の方が買った。
色こそ春らしいけれど、むしろ「夏っぽい」味のするケーキ。
「耕造さんが「うぐいす餅の材料使った」って言ってた気がします」
「え?」
「一応名前もあってね、「ライムグリーンの情熱」だったかな」
「はあ…」
無印店長の説明によると、構造さんは店長にとっては大分年上のお友達で、とある老舗菓子店の三番目の息子さんで、それとは無関係に、フランスやイタリアで修行してきて、今は「趣味でケーキ職人やってる」とうそぶいているような方らしい。
名前の意味は、スポンジの黄緑の部分を英語に、材料として使っているパッションフルーツを日本語にしただけだそうだ。
響きは悪くないんだけど、この店にはケーキが毎日1種類しかないらしいことに感謝したい。この名前を口にのぼせて注文するのは少し恥ずかしい。
「パッションフルーツ、食べたことありませんでしたけど、この上にトッピングされてるのって…」
「あー、桃缶とパイン缶だよね。風味付けで使っているらしいけど、勘違いする人もいるだろうね」
「ですね。でもすっごいおいしい。色もきれいだし、しっとりしてるし、こんなの初めて食べました」
「若い美人がケーキを褒めてたって、耕造さんに伝えておくよ」
「そんな…はは…」
▽▽
このコミュ障の私がちゃんと店長と会話して、お世辞に照れ笑いしてる。これって結構な快挙ではないか。
「私もうすぐ就職でI県に行くんです」
「あ、そうなんだ…」
「でも、帰省のときまたお邪魔したいです」
「そうだね、ぜひ来てよ。電話くれれば、ケーキの取り置きもしておくよ」
「いやいや、さすがにそれは…」
お役所だから、いわゆる盆休みを一斉に取ることはない。少しずらして9月なんて取り方は無理かな?
そしてまた、ちょっとぴり恥ずかしい名前がついているであろうケーキを注文しよう。
▽▽
「とりあえず食べおさめ キャリコのケーキ」
今回は店長がいろいろ協力してくれて、結構いい感じの写真も撮らせてもらった。
ビュー数なんてほとんど気にしたことないけれど、私には珍しく、いっぱい見てほしいなという欲が出てしまった。
◇◇◇◇◇◇
【元ネタ集】
〇キャリコのケーキ
場所として想定したのは、福島県合同庁舎の近くにある持ち込み可の小さなカフェですが、「キャリコ」という喫茶店や、作中出てきたパッションフルーツを使ったケーキは、実は別の県に実在したものです。
「キャリコ」が既に閉じていることと(マスターの容貌や人柄もその店のマスターを下敷きに書きました)、職人さんが、今はすっかり違う路線のケーキを作っていることなどから、詳細については割愛させていただきます。ちなみにケーキの名前は普通に「パッション」でした。
「大阪の中学校」は、「テニプリ」こと『テニスの王子様』シリーズファンにはおなじみの大阪四天宝寺中。私は逆に、あの黄色×黄緑のユニフォームを初めて見たとき、「あ、パッションだ」と思ったくらいです。
[完]
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