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 帰りは芽衣子の父が車で迎えにきてくれた。

 日曜・月曜に家を留守することについて、諏訪は家族に「東京の友達に会いに行く」と言ったそうだ。
「うちの親、僕には甘いから、小遣いまでもらっちゃった」
 と笑っていた。

 後々芽衣子は、彼のことを「笑ってはいけないタイミングで笑うバカ」として思い出すことになる。

 芽衣子は家では、父と母だけが事情を知っており、そのほかの家族には「学校の合宿」と説明されていた。
 週2しか部活に行かない英語部員の、しかも中途半端な時期の合宿というのも妙な話だが、祖父母はそもそもそんな事情を勘繰りもしないし、姉は既に家を出ていたし、弟は小学生だったから通用したにすぎない。

 まず諏訪を家まで送ったが、それまで2人とも無言だった。
「ありがとうございました。また後ほど…」

 彼はそのときも、曖昧に微笑んでいたはずだ。

「…ああ」
 芽衣子は父の心中をはかりかねたが、二度と顔も見たくないと思っていたかもしれない。
 父は芽衣子を連れて帰る途中、「これからは自分を大事にしろよ」とだけ言った。
 今回のことで特に何も言わなかった父だが、芽衣子はこの一言にはちょっとだけ救われた。
 母に言わせると、「全部私に丸投げして、無責任!」ということになるだろうが、そもそも関係者一同無責任だったから起きた悲劇だ。
 芽衣子はこの先、「英検」からの「役に立たない」の流れを執念深く覚えており、思い出しては嫌な気持ちになるだろう。

◇◇◇

 その後、芽衣子は適当な理由をつけ、体育の授業は1カ月の間見学し、友人たちとは何も言わずに普通に過ごした。彼女が4月末の連休前に「風邪で」休んだことを覚えている人などいない。

 術後、生理が始まるまで基礎体温をつけるように病院から言われた。

「朝決まった時間に起きて、頭も動かさない状態ではかって記録しておくように」
 だから都合2カ月頑張って、いい機会だからそのまま習慣づけようとも思ったのだが、次第に面倒くさくなってやめた。
 水銀の体温計で10分間。だから途中で寝てしまったこともある。
 書き込み用のグラフについてきた解説を読んでも、結局これで何が分かるのか、芽衣子には完全には理解できなかった。

 芽衣子と諏訪はその後また半年ほど付き合って、結局別れた。
 半年もったというよりも、半年間意地を張って別れなかったというのは否定できないだろう。

 「あんなことがあったんだから仕方ない」と言われるのも、「あんなことしておいて、みっともない」と言われるのも、少なくとも芽衣子は本意ではなかった。

 一方の諏訪はというと、芽衣子に対する思いはまだ多少熱いものがあったが、手術後に肉体の接触を拒み続ける芽衣子に、戸惑いや苛立ちがあったというのも否定できないだろう。
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