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脳内お花畑

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「ねえ、10万円用意して。あと書類にサインして」
「は?」
「デキちゃったんだよね」
「そうか。学校あるし、産めないしな」
「そういうこと」
「付き添いとかした方がいいのか?」
「バイト休んだら、ただでさえ少ないお給料減るでしょ?(笑)」
「それもそうだな(爆)」
「あ、手術のあとはしばらくセックスできないって」
「そうなんだ。じゃ、ほかで何とかするわ」
「せめて“自家発電”程度に止めておいてよ(怒)」

 などという外道会話でコトが済むほど単純ではない。

 現実は次のとおりだ。

◇◇◇

 芽衣子は約束の店に先に来ていた。
 諏訪が約束の場所に2分遅れで来て、正面の席に座るとびくっとした。

「どうした?」
「あ…の…」

 もちろん芽衣子は、話さなければいけない芯の部分は分かっているが、どこから話したらいいのか分からない。

「ここ――出たい」
「うん?まあ、いいけど…」

◇◇◇

「生理が遅れてるの…」
「え――って、割とそういうことあるんじゃないの?」
「私は今まであまり遅れたことってないんだ。来なかったこともない」
「そか…」

「赤ちゃん…できたかも…でも産めない…でも中絶なんかしたら…生きていけないよ!人殺しになっちゃうよ」
「何言ってるの?優生保護法(※当時の法律名。現・母体保護法)があるから、ちゃんと処置すれば殺人にはならないよ」
「でも…」
「それに、中絶したくないっていうなら、産めばいいじゃない」
「産めるわけないじゃん!学校もあるし、大学だって行きたいし…」

 諏訪の異常な軽さが、芽衣子の癇に障り、大きな声が出てしまった。

「僕、今年の試験は絶対合格するからさ。バイトした人間は絶対翌年受かるってジンクスもあるんだよ」
「本当?」
「ああ。それにになるとなったら、それも励みになるしね」
「そうか…」

 しかし、情緒不安定な女子高生――というより「芽衣子は」、諏訪の根拠のない希望的観測を聞いているうちに、ほんの数十秒前に自分が声をあららげたこともすっかり忘れてしまった。

「それに、そうやって来ない来ないって悩んでいるから追い詰められるんじゃない?精神的な理由で遅れることもあるって聞くよ?」
「そう…なのかなあ…」
「そうだよ。妊娠なんてそう簡単にしないって」

 バカな成人男性と、何も知らない女子高生のお花畑会話もいいところだった。
 こんなことしている暇があったら、さっさとしかるべきところに相談なり何なり行くべきだったのだ。

 しかし、これは典型的な傍目八目おかめはちもくというやつで、渦中にいる者ほど問題の本質を理解できていないし、身動きも取れないものだ。
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