両親のこと

あおみなみ

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サルビア【創作】

【終】母の十字架とやら

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 そうそう、話が大分それたけど、母が「だから」という言葉で無関係そうな話をつないだ理由。
 これを理由といってよければ、こういうことだった。

「私はあのこに罪悪感があって、やりたいということは全てやらせてあげたいと思ったのよ。そもそもあんな体に産んでしまったことも申し訳なくて…」

 と、幼いころ呼吸が苦しそうで寝付けない兄のそばで夜を明かし、「起きたとき、ちゃんと呼吸していたことがうれしくて…」てな話を始めた。

 何度も聞いているが、何度聞いても気持ちのいい話ではない。

って…世界中の喘息の人に謝れよ!)

 最初に聞いたとき、私の頭に浮かんだ言葉はこれだった。

「遺書を隠させたことは、本当に私の重い十字架だった。たった14歳のあの子に…」
「で、私に「だから悪いことした」って?何でそう思うの?」
「だって、大学だって行かせてあげられなかったし」
「どうせ勉強できなかったもん、それはいいよ」

 母がいったい何に酔っているのか知らないが、涙ながらに話すので、私としてもウソでごまかすしかない。

「お給料も随分入れてもらって。だから貯金もできず、結婚式も挙げられなかったでしょ?」
「カレも私も若くて貧乏だし、そういうの興味ないし」
「そうね、たしかに21で結婚は若過ぎたね」

 ほっとけ。私たちは住むアパートを探し、婚姻届を出しただけだ。
 「親に愛されないからって、あんなつまんない男になびかなくても」って陰で言ってたのも知ってるよ。
 というか、私を愛していない自覚があったことに驚いたけどね。

「でも、もっとお金持ちになってからでも、お式挙げればいいじゃない?」
「そうね、考えとくわ」

 母は私に金銭的負担をかけたことをわびたが、兄にまつわる「十字架」ほど重く捉えていないことは明白だ。
 ポジティブシンキングは人を元気づけるかもしれないが、能天気な発言は人をイラつかせることを、母は知らないのだろうか。
 西山さんちのおばさんを「世界が狭い」と言った同じ口で、こう堂々とカマされると、呆れるしかない。

 では、能天気には能天気をぶつけてみよう。

「お父さんのことはショックだと思うけど…とにかく頑張って生きようよ?お母さんはまだ若いじゃない。いっそカレシでも作ったら?」

 私は努めて明るく盛り上げようとしたが、母にいきなり平手打ちされた。

「なんてこと言うの?不謹慎にもほどがあるでしょ!」
「ごめんなさい…」

 さほど痛くはなかったが、突然なので驚いた。
 まあ不謹慎は不謹慎だろう。その点は一応反省しておく。

◇◇◇

 ねえ、お母さん。私が最近あなたと会うたび、いつも何を考えてるか分かる?

「さっさとくたばれ!」だよ。

 あなたは反面教師にしようにも、あまりにもツッコミどころが多過ぎる。

 ねっとりまとわりつくような「ごめんね」も「あなたは優しいから、つい甘えちゃって」も、もう聞きたくない。

 はっきり「愛していない」「要らない」って言って。
 もうあなたに何も期待したくない。

 愛想はいいけど性格の悪い短大卒の「お嫁むすめさん」と仲よくしてくださいな。
 
 存在は必要とされていないのに、金づるとしては必要だから、ご機嫌取ってるつもりでしょ?

 いっそ、あなたを足蹴にしても罪悪感がないほどの仕打ちをしてほしかった。

【『サルビア』 了】
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