両親のこと

あおみなみ

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サルビア【創作】

12年前の真相

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 1991年、たしか、そこそこ秋らしくなっていたある日。

 父の四十九日を済ませたくらいのタイミングで、母が「あの日の真相」を話してくれた。

 父はあの日、枕元に遺書を置いていた。
 しかし当時中3だった兄に、それを隠すか処分するかしろと頼んだという。
 兄はだまって手際よく母の指示に従った。
 
 しばらく入院することになったときも、病院に持っていくものの準備を手伝った。
 体が弱くて入院経験が豊富だったので、母が気付かないようなものまで行き届いた提案をしたらしい。

 なぜそんな話を、「あの子は頭がいいし、要領がよかったから」などと、うっすら笑みを浮かべながら私にするのか。
 どう返事をしていいか分からないし、第一兄にはあまり興味がない。
 あのときは父の容体が心配だったし、今は母の微笑が薄気味悪い、それだけだ。

 父は明確に自殺を意図して睡眠薬をウオッカで飲んだが、それを母が何とか隠蔽しようとしていた。
 なぜ私が、病院で事情を聞かれているときの母のぼやっとした説明を覚えているのかが思い出せないけれど、「その場にいた」としか思えない。どう考えても嫌な思い出だから、何とか本能的に忘れようとしていたのかもしれない。

「まだ14歳のあの子に、そんなことを頼んじゃって――本当に反省しているのよ。だから…」
「だから…?」
「あなたにも悪いことをしちゃったね」

 え?意味わかんない。何で「」でつないだ?

 というか、さ。
 14歳病弱男子が遺書隠蔽を頼まれるのと、12歳健康女子が生々しい話を聞かされるのって、多分そんなに変わらなくない?
 私は兄ほど頭はよくないが、「昔から変なところで記憶力がいい」と母自身が言っていた。

 つまり、「私があのときのことを、何も覚えていないとでも思っているのか」と言いたい。
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