21 / 25
一番言うべきだったこと【学】
しおりを挟む原口は6時までに帰らなければいけないと言い、俺たちは駅で5時半頃別れることになった。実は家はそう遠くないかもしれない。
いつか連絡先や最寄り駅ぐらい教えてもらえるだろうから、焦らずいこう。
今日は俺も結構楽しかった。
改札に向かう前に原口が、「ね、十三沢。耳貸して」と言ったので、彼女の方に少し体を傾けたら、
「あんた本当にいいやつだね、大好きだよ、ガク」
そう言いながら、満面の笑みで手を振り、改札の向こうに消えていった。
まいったな――あいつ、あんなにかわいかったっけ?
***
2学期になると、「C組の原口が突然転校した」というニュースが耳に飛び込んできた。
いろいろ考えあわせると、俺たちが「デート」をしたあの日には、何もかも決まってはいたのだろう。
わずかに思い出されるのは、ひざにメリーが乗っかったとき、「制服のスカートはもう使わないかも」と言いかけたことくらいか。
学校は午前中で終わるが、図書室が15時まで開いていることは確認していたので、俺はいつものように弁当持参だった。
当然、原口の分も含めた1.6人前である。
部活をやっていない今の俺に、この量は正直きつい。
そんなことよりも、俺に何も言わずに原口が転校してしまったという現実を、うまく自分の中に取り込めない。
実はあいつは俺にそこまでの思い入れがなかったのか?
「デート」が楽しかったのは俺だけだったのか?
あいつの笑顔はすべて虚構だったのか?
子供の頃読んだ漫画で、「恋というのはお気に入りの石に印をつけることだ」というたとえ話が出てきた。
石を地面に置き、その周りを〇で囲む。これが自分の思い人である。
それ以外のものは、自分の恋には何も関係ない、そんな説明だった。
俺はどうやら原口の周りに線を引きかけていたようだ。
駅で聞いた、「大好きだよ、ガク」という原口の少しハスキーな声がよみがえる。
今になってやっと言えそうだ。「俺もお前のことが好きだ、トモカ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
無敵のイエスマン
春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。
やくびょう神とおせっかい天使
倉希あさし
青春
一希児雄(はじめきじお)名義で執筆。疫病神と呼ばれた少女・神崎りこは、誰も不幸に見舞われないよう独り寂しく過ごしていた。ある日、同じクラスの少女・明星アイリがりこに話しかけてきた。アイリに不幸が訪れないよう避け続けるりこだったが…。

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ
椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。
クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。
桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。
だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。
料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
アラフォーOLとJDが出会う話。
悠生ゆう
恋愛
創作百合。
涼音はいきなり「おばさん」と呼び止められた。相手はコンビニでバイトをしてる女子大生。出会いの印象は最悪だったのだけれど、なぜだか突き放すことができなくて……。
※若干性的なものをにおわせる感じの表現があります。
※男性も登場します。苦手な方はご注意ください。
暴走♡アイドル ~ヨアケノテンシ~
雪ノ瀬瞬
青春
アイドルになりたい高校1年生。暁愛羽が地元神奈川の小田原で友達と暴走族を結成。
神奈川は横浜、相模原、湘南、小田原の4大暴走族が敵対し合い、そんな中たった数人でチームを旗揚げする。
しかし4大暴走族がにらみ合う中、関東最大の超大型チーム、東京連合の魔の手が神奈川に忍びより、愛羽たちは狩りのターゲットにされてしまう。
そして仲間は1人、また1人と潰されていく。
総員1000人の東京連合に対し愛羽たちはどう戦うのか。
どうすれば大切な仲間を守れるのか。
暴走族とは何か。大切なものは何か。
少女たちが悩み、葛藤した答えは何なのか。
それは読んだ人にしか分からない。
前髪パッツンのポニーテールのチビが強い!
そして飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ!
暴走アイドルは出てくるキャラがみんなカッコいいので、きっとアイドルたちがあなたの背中も押してくれると思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる