Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
19 / 25

サマーフルーツティー【学】

しおりを挟む

「で、ゲーセン?」
「ここならプリクラが撮れるだろう?」
「プリクラって…十三沢が?」
「撮ったことがないから分からないが、男だけでは入れないと聞いた。
 ということは、女のお前と同伴なら入れるよな?」
「うん、まあいいけど…」

 機械のガイダンスはフレンドリーかつ懇切丁寧で、素直に従えば、結構スムーズに事が運ぶ。
「十三沢、表情カタいよ」
 一応経験のある原口は、俺より慣れた様子だった。
「こ、こうか?」
 試みに笑ってはみる。別に「男は三年片頬」ってほどストイックな育て方をされた覚えはないし、面白い本やテレビに触れれば笑いもするが、そういう表情を作れと言われるのは得意ではない。

「まあ、十三沢にしては頑張ったかな?」

 しかし、仕上がった写真を見て、「何これー。十三沢、すっごい美人!ウケる!」と、涙を流さん勢いで笑われたのには参った。
 プリクラ特有の仕様で、俺までがメイクを施したかのような顔になっていた。
 原口の明るい笑い声が聞けたのは喜ばしいことだが、さすがにここまでは求めていない。

「ね、半分こしようよ」
「俺はいいよ…」
「こういうのって、撮った直後は恥ずかしくても、後で見返すのは意外と楽しいんだよ」
「不本意に撮れたやつでも、か?」
「そういうのほどお気に入りになったりするかもよ」
「そうか?じゃ、お言葉に甘えて」

***

 カフェでは姉オススメの「サマーフルーツティー」というのを注文した。
 甘味料シロップも多少は入っているのだろうが、フルーツの甘味を生かした優しい味だと思った。
 原口も「これおいしい!ネットで見てちょっと憧れてたんだよね」と喜んでいた。
 文字や写真の情報しか知らなかったものが、実際に口に入れるとちゃんとおいしかったというのは、素直にうれしいのだろう。

「色もきれいだな。写真は撮らなくていいのか?」
「そういうのは恥ずかしいからいいよ。SNSもやってないし」
「じゃ、俺は撮ろうかな」
「え、十三沢が?」
「おかしいか?」
「いや、いいけどさ…」

 俺も原口との「お出かけ」を、自覚はないが随分楽しんでしまっていたのだろう。
 普段はしないことをたくさんしたという意味では、結構無理をしたが、全く興味ないことをしたわけではない。写真もそんなつもりで撮った。

「ね、十三沢」
「何だ?」
「あの、フルーツティーの写真…やっぱりちょうだい」
 原口のいつになく甘えた表情と声に、多少うろたえたが、
「ああ、お安い御用だ」
 と答えた。
 彼女は忘れているかもしれないが、俺たちは連絡先を交換していない。
 写真をくれということは、何らかのアクセスが必要になるわけだから、それに応じてくれると期待したい。

***

 絵本専門店で原口が興味を示した本は、1冊2,000円もする輸入盤だったため、さすがに気前よく買うことはできなかったが、300円均一の店で、世界を旅する猫がモチーフになった小物入れを買ってプレゼントした。
「猫と犬で迷っていたようだが、猫の方が好きか?」
「犬も好きだけど、メリーちゃんかわいかったし、今日は猫の気分かなって」
「なるほど」

 原口とここ数カ月、一緒に昼飯を食べたり、話したりして分かったのだが、こいつは自分の好きなものや興味のあるものについて話すとき、本当にいい顔をする。きっと根が素直なのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

やくびょう神とおせっかい天使

倉希あさし
青春
一希児雄(はじめきじお)名義で執筆。疫病神と呼ばれた少女・神崎りこは、誰も不幸に見舞われないよう独り寂しく過ごしていた。ある日、同じクラスの少女・明星アイリがりこに話しかけてきた。アイリに不幸が訪れないよう避け続けるりこだったが…。

隣の優等生は、デブ活に命を捧げたいっ

椎名 富比路
青春
女子高生の尾村いすゞは、実家が大衆食堂をやっている。 クラスの隣の席の優等生細江《ほそえ》 桃亜《ももあ》が、「デブ活がしたい」と言ってきた。 桃亜は学生の身でありながら、アプリ制作会社で就職前提のバイトをしている。 だが、連日の学業と激務によって、常に腹を減らしていた。 料理の腕を磨くため、いすゞは桃亜に協力をする。

桜稜学園野球部記

神崎洸一
青春
曲者揃いの野球部、桜稜学園高校。 そんな野球部の物語。

青春の初期衝動

微熱の初期衝動
青春
青い春の初期症状について、書き起こしていきます。 少しでも貴方の心を動かせることを祈って。

繋がる想い

雪苺
青春
幼い頃に出会った。 私にしか見えなかった少女にまた会いたい。 表紙イラストはミカスケさんのをお借りしました。 他サイトでも掲載しています。

アラフォーOLとJDが出会う話。

悠生ゆう
恋愛
創作百合。  涼音はいきなり「おばさん」と呼び止められた。相手はコンビニでバイトをしてる女子大生。出会いの印象は最悪だったのだけれど、なぜだか突き放すことができなくて……。 ※若干性的なものをにおわせる感じの表現があります。 ※男性も登場します。苦手な方はご注意ください。

処理中です...