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猫のメリー【学】
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「***とか+++の服を着て、背が高くて優しいカレシと手をつないで散歩したい。
アイスクリームを歩きながら食べたり、ウインドーショッピングしたり」
と、あのノートには書いてあった。
***や+++というのは寡聞にして知らなかったが、姉によると「中高生にも人気のあるお洋服のブランドだけど、色の柔らかい、かわいい感じの服が好きみたいね」とのことだった。
背が高くて優しいカレシ、か。
原口は160センチくらいだから、多分15センチ程度差があるといいのだと思う。
彼女と同じクラスの岡田と矢崎を思い描いてみた。
岡田の性格のよさは折り紙付きだが、身長は160台半ばといったところだ。
矢崎は180以上があるが、つかみどころのない性格なので、女子と和気あいあいというのが想像できない。
やはりここは身長177で、多分最も彼女のことを知っている俺の出番ではないか?
手をつないで歩く――のは少々面はゆいが、まあ頑張ってみよう。
服は、姉が中学時代に着ていた服から、かわいいものを見繕うと言っていた。
若いのだからメイクは不要かとも思ったが、彼女が自分の目にコンプレックスを持っているようだという話をすると、「なら、目元がぱっちり明るくなるような感じで、少し頑張った方がいいかも。お洋服のバエも変わってくるし」という。
ただ、「私もそんなに上手ってわけでもないし、自分で実際にやって覚えた方がいいと思うな、今後のためにも」という意見を入れ、化粧品や道具を用意して、アシストしながら自分でやってもらうことにした。
しかし2人とも基礎知識が薄い。
一番基本になるところは、姉が簡単にメモ書きしてくれたので、それと買ってきたメイクの本をすり合わせつつ、「夏にぴったり!涼し気で甘すぎないけどキュートなモテ顔系」というのを目指すことにした。一体何を言っているのだろう。
原口はニキビはあまり出ない体質だというが、肌が乾燥気味――というか、化粧水の吸い込みが異常にいいようだ。
「汗はあんまりかかないのか?」
「スポーツもしないし、できるだけ冷房の効いたところに引っ込みがちだし」
「ふーむ…」
***
「あれ…ネコの鳴き声がする…?」
「ああ…いつだったかも話したろ?ペットのメリーだ」
部屋に入れろ、とばかりにカリカリひっかく音がするので、戸を開けた。
「わ、おっきい!それにすごい美人さんだね」
褒められてうれしかった?のか、メリーはツンとした顔をしつつも原口に近づき、ひざの上に乗った。
「あ…らら?スカートをクッションか何かと間違えた?」
戸惑いながらも、少しうれしそうに表情を崩す原口。
「こら、メリー。下りなさい」
グルーミングには気を使っているが、ペルシャなので、我が家のペットながら暑苦しい。抜け毛も心配だ。
しかしメリーは聞く耳を持たない。
「いいよ、手を動かす邪魔さえしなきゃ」
「そうか?悪いな」
鏡を正面に、スマホスタンドを利用して立てた本を左側に置いて、ちらちら確認しながら何やら塗ったりたたいたり、ペンのようなものを入れたりする手つきが、だんだんこなれてきたようだ。
「うーん、こんな感じかな」と、薄いピンクのリップクリームを最後に塗って、口をすぼませてから「パッ」と開いた後、なぜか微妙な顔をした。
「どうした?」
「何か――ママに似てるなって思って。
最後の「パッ」も、ママがお化粧しているときのマネみたいになったし…」
「俺は原口の母さんの顔を知らないが――随分美人なんだな?」
「え?」
「安心しろ。ちゃんとかわいく仕上がっている――あ、ちょっとじっとしてくれ」
「う、うん」
俺はちょっとした思い付きで綿棒を1本抜いて、目元の気になるラインを軽くぬぐってみた。
「思ったとおりだ。この方が大仰でなくいい感じだ」
空気を読んだのか、メリーが原口のひざから立ち上がったが、脱いで傍らに置いたスカートの上に上がってしまった。
制服のスカートのようなので、さすがに猫の毛がついたり傷ついたりしてもコトだ。俺はさすがに下りるように促した。
「あ、平気だよ。これもう使わない…」
「え?」
「何でもない」
アイスクリームを歩きながら食べたり、ウインドーショッピングしたり」
と、あのノートには書いてあった。
***や+++というのは寡聞にして知らなかったが、姉によると「中高生にも人気のあるお洋服のブランドだけど、色の柔らかい、かわいい感じの服が好きみたいね」とのことだった。
背が高くて優しいカレシ、か。
原口は160センチくらいだから、多分15センチ程度差があるといいのだと思う。
彼女と同じクラスの岡田と矢崎を思い描いてみた。
岡田の性格のよさは折り紙付きだが、身長は160台半ばといったところだ。
矢崎は180以上があるが、つかみどころのない性格なので、女子と和気あいあいというのが想像できない。
やはりここは身長177で、多分最も彼女のことを知っている俺の出番ではないか?
手をつないで歩く――のは少々面はゆいが、まあ頑張ってみよう。
服は、姉が中学時代に着ていた服から、かわいいものを見繕うと言っていた。
若いのだからメイクは不要かとも思ったが、彼女が自分の目にコンプレックスを持っているようだという話をすると、「なら、目元がぱっちり明るくなるような感じで、少し頑張った方がいいかも。お洋服のバエも変わってくるし」という。
ただ、「私もそんなに上手ってわけでもないし、自分で実際にやって覚えた方がいいと思うな、今後のためにも」という意見を入れ、化粧品や道具を用意して、アシストしながら自分でやってもらうことにした。
しかし2人とも基礎知識が薄い。
一番基本になるところは、姉が簡単にメモ書きしてくれたので、それと買ってきたメイクの本をすり合わせつつ、「夏にぴったり!涼し気で甘すぎないけどキュートなモテ顔系」というのを目指すことにした。一体何を言っているのだろう。
原口はニキビはあまり出ない体質だというが、肌が乾燥気味――というか、化粧水の吸い込みが異常にいいようだ。
「汗はあんまりかかないのか?」
「スポーツもしないし、できるだけ冷房の効いたところに引っ込みがちだし」
「ふーむ…」
***
「あれ…ネコの鳴き声がする…?」
「ああ…いつだったかも話したろ?ペットのメリーだ」
部屋に入れろ、とばかりにカリカリひっかく音がするので、戸を開けた。
「わ、おっきい!それにすごい美人さんだね」
褒められてうれしかった?のか、メリーはツンとした顔をしつつも原口に近づき、ひざの上に乗った。
「あ…らら?スカートをクッションか何かと間違えた?」
戸惑いながらも、少しうれしそうに表情を崩す原口。
「こら、メリー。下りなさい」
グルーミングには気を使っているが、ペルシャなので、我が家のペットながら暑苦しい。抜け毛も心配だ。
しかしメリーは聞く耳を持たない。
「いいよ、手を動かす邪魔さえしなきゃ」
「そうか?悪いな」
鏡を正面に、スマホスタンドを利用して立てた本を左側に置いて、ちらちら確認しながら何やら塗ったりたたいたり、ペンのようなものを入れたりする手つきが、だんだんこなれてきたようだ。
「うーん、こんな感じかな」と、薄いピンクのリップクリームを最後に塗って、口をすぼませてから「パッ」と開いた後、なぜか微妙な顔をした。
「どうした?」
「何か――ママに似てるなって思って。
最後の「パッ」も、ママがお化粧しているときのマネみたいになったし…」
「俺は原口の母さんの顔を知らないが――随分美人なんだな?」
「え?」
「安心しろ。ちゃんとかわいく仕上がっている――あ、ちょっとじっとしてくれ」
「う、うん」
俺はちょっとした思い付きで綿棒を1本抜いて、目元の気になるラインを軽くぬぐってみた。
「思ったとおりだ。この方が大仰でなくいい感じだ」
空気を読んだのか、メリーが原口のひざから立ち上がったが、脱いで傍らに置いたスカートの上に上がってしまった。
制服のスカートのようなので、さすがに猫の毛がついたり傷ついたりしてもコトだ。俺はさすがに下りるように促した。
「あ、平気だよ。これもう使わない…」
「え?」
「何でもない」
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