Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ

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お宅訪問【友香視点】

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 女の子の友達(もうほぼいないけど)との約束だったら何も考えずにお気に入りの私服を着ていけたけど、十三沢との約束に一体何を着ていったらいいか分からない。
 男子相手だからというより、十三沢相手だからかな。

◇◇◇

 無難に制服かなあ。私服ダサいとか思われたら嫌だしなあ。
 十三沢の家の沿線ってほとんど行ったことないけど、オシャレそうなイメージだ。
 ダサいと思っても口に出す人ではないと思うけど、一緒に歩いて恥をかかせるのも不本意だし。
 あれこれ悩んで、制服の夏用のスカートと私服の半袖パーカーを組み合わせて、パーカーと同じ色のソックスを履いた。色も工夫したし、多分そんなにおかしくない――と思う。私服というより、制服の着崩し。靴は真っ白いスニーカー。

 ママには「そろそろ荷物まとめなさい」って言われたけど、「8月になってからやるから」って言ったら、あとは何も言わない。
 というよりも、あの“話し合い”以来、私に何か命令したり注意したりするときの声の調子がとっても弱目だから助かる。
 以前は「無関心だけどとりあえず」っぽさがにじんだ言い方だったけど、今は何となくおっかなびっくりなんだと思う。
 大体、私は自分のものをまとめればいいだけだし、家具も最低限でいいとおばあちゃんに言われている。

 とりあえず、十三沢が誘ってくれたのが7月中で助かった。
 8月になったら、きっといろいろ忙しいと思う。

◇◇◇

 十三沢は約束の場所に、紺色のポロシャツとチノパンという格好で待っていた。
 確かにジーンズのイメージはなかったけど、そう来たか。
 いつもより少し大人っぽく見える。何だか大学生みたい。

「来たな」
「うん、待たせてごめん」
「そんなことはない。まだ10時55分だよ」
「…」

 急に恥ずかしくなって、何を言ったらいいか分からなくなった。
 デートなんてしたことないけど、待ち合わせってこんな感じ?

「じゃ、行こうか?」
「どこに?」
「まずは俺の家で準備だ」
「え、どういうこと?」
「行けば分かる」

◇◇◇

 十三沢はおじいさんやおばあさんとも一緒に暮らしていると言っていたけれど、なるほど大きな家だ。

 それも昔から住んでいるんだろうなあという、ちょっと古そうだけど、立派な日本家屋。この住所あたりでこんな家に住めるなんて、ひょっとして超お金持ちだったりして。
 これ…制服をちゃんと着ていた方がまだよかったかも。

 お邪魔すると、上品で背の高い70代?くらいの女性が出迎えてくれた。おばあさんかな。

「いらっしゃいませ」
「…初めまして、原口です」

 私、声ちっちゃ!

「あらあら、随分おとなしいお嬢さんみたいだけど、挨拶は相手に聞こえるように言わないと意味がありませんよ。
 はい、やり直し」

 こんな注意されたの初めてだけど、嫌な気持ちではなかった。
 別に嫌みったらしくないし、しゃんと背筋の伸びたかっこいいおばあさんにぴったりの口調。

「初めまして、原口友香です。よろしくお願いします」
 私は全てに「!」が付きそうな勢いで声を張った。
 恐る恐る顔を見ると、にっこり笑って「素直でいいお嬢さんね」と、私の頭をなでた。

 私のおばあちゃんも、昔はよくこんなふうにしてくれたけど、今は私より10センチも小さいので、頭をなでるまではしない。
 照れくさいけど少し懐かしいような、うれしい気持ちになった。

◇◇◇

 十三沢の部屋は8畳の和室で、イメージどおりすごくきちっと整理されている。
 机、ベッド、クローゼット以外、目立つものはあまりないので、「見せない収納」派なんだろう。ぬいぐるみとかフィギュアとかもないし、ポスターすら貼っていない。
 オーディオっぽいものはないけど、音楽はPCで聴くのかなって思ったら、そもそもあんまり音楽というものを聴かないらしい。

 部屋の真ん中に、折り畳み式のテーブルがちょこっと置いてあったけど、明るい色でちょっと安っぽくて、部屋に全然合っていない気がした。
 十三沢が運んできた麦茶をその上に置いて飲んでいると、外から「ガク、手が塞がってるから開けて」と、女の人の声がした。
 ガク?ああ、「学」だからか。
「ちょっと待ってて」

 ドアを開けると、どこか十三沢に似た雰囲気の、これまた背の高い女の人がいた。
 多分20歳くらい?顔立ちは若いけど、雰囲気が大人っぽい。
 高校生とかではなさそう。お姉さんかな。
 肩から大きな袋をかけて、両手にバニティーケースと鏡を持っていた。

「初めまして、友香ちゃん。私、ガクの姉で十三沢まいといいます」
「は…じめまして、原口友香です」

 舞さんは私の顔をじっと見ると、「ガクの表現が意外と的確で助かったわ。友香ちゃんなら似合いそう」と満足そうに言い、「じゃ、何かあったら声かけてね」と言いつつ出ていった。
 似合いそう?何が?というか十三沢の表現って?

 十三沢はお姉さんの持ってきた鏡をテーブルの上に置き、私にその前に座るように言った。
 しかしその後、「あ、違うな。まずはこっちか…俺は廊下に出ているから、この服に着替えて、終わってから声をかけてくれ」と訂正した。

「着替える?」
「顔を作ってから着替えると服を汚すから、服が先だって姉貴が言っていた。俺もよく分からないが、言うとおりにしてくれ」
「あの…着替えるとか顔を作るとか、さっきから何言っているの?」
「今日はメイクして、おしゃれな服を着て、俺と手をつないで歩いてほしい」
「はあっ?」
「要するにデートだ」

 十三沢、暑さで頭がイカレちゃったの?

「どうしてそんなこと…」
「まあ、かっこいいカレシまでは調達できなかったので、俺が代役ということで」
「カレシって…あ…」

 そういえば、例のごみ箱ノートにそんなことを書いた覚えがある。
 目のコンプレックスのこと、デートの憧れのシチュエーション、ぼんやりした理想のカレシ…。

 この人は、情緒不安定な女子中学生の言うことを真に受けて、こんな場をセッティングしてくれたのだろう。
 そのお節介さが何だかちょっとおかしくなって、素直に言うことを聞こうと思った。
 もう十三沢には会えないかもしれないし、一つくらいこんな思い出があってもいいかもしれない。

「分かった。ちょっと待っててね」

◇◇◇

 十三沢のお姉さんが準備してくれた服は、薄紫のワンピースだった。
 白い小花を散らしたみたいなプリントで、生地が柔らかい。
 下品な派手さじゃなくて上品で華やかな感じで、きっと雑誌やカタログで見たら、ステキだなあ、着てみたいって思ったと思う。
 その現物が手元にあって、しかも私に着ていい――というか、「着ろ」と言われている。
 こんなの着こなせる自信、全然ないんだけど…。
 同じ袋にケープも入っていたから、これを付けてお化粧するのかな。

◇◇◇

「…着たよ」
 廊下の十三沢に声をかけたら、一瞬驚いたような顔をした後、「サイズもぴったりでよかった。似合っている」と言った。

「化粧品は姉のだが、ブラシとか肌に触れるものは新調したらしい。肌質も伝えたら、姉が『自分と似ていそうだから、そのまま使える』と言っていた」

 そして、「これを参考にするといい」と言って、1冊の本を渡してきた。

『ティーン はじめてのメイク モテカワ編』と表紙に書かれている。

 書店の袋から出したので、これは十三沢が買ったのかな?(どの面下げて!)

 この家に着いたときから驚かされ通しなので、今さら何を言われても驚かない、くらいのところで私のココロは落ち着いていた。

「姉の部屋ならドレッサー台があるから、いすに座ってできたな。部屋ごと借りた方がよかったかもしれないな…」
「そこまで面倒かけられないよ!」
「いや、計画を話したときからノリノリだったから、意外と貸してくれたかもしれない」
「…ここでいいよ」

「では始めるか。“原口友香美少女化プロジェクト”だ」

 十三沢が、何かとてつもなく恥ずかしい作戦名を真顔で言った。

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