Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ

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友香の変化

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 昨日は1日頭痛が取れず、家で寝ていた。

 ママはコンビニのおにぎりやパンと薬だけ置いて、さっさと習い事に行ってしまった。
 本当なら「母親のくせに!」と文句の一つも言いたいところだけれど、1日べったり張り付かれるよりは気楽だからどうでもいい。

◇◇◇

 お昼過ぎにはすっかりよくなっていたので、気分転換にリビングでテレビを見ていた。
 そのままソファで居眠りして、目が覚めたら4時だったけど、ママはまだ帰ってこない。
 テレビは点けっぱなしで、何かのドラマの再放送をやっていた。

 気になってスマホで調べたら、本屋さんでバイト中のさえない(美人の女優さんが眼鏡かけてるだけ。なめてんの?この設定)女の子が、お金持ちのイケメン御曹司に見初められるって話みたいだ。バカにしながら見たけど、結構面白い。
 そういえば、おばあちゃんが「演技見て感心した」って言ってたイケメン俳優さんはこの人だと思う。
 続きも見たいけど、学校のある日は急いで帰ってきても4時半ぐらいだからなあ…。DVD借りてみようかな。

◇◇◇

 翌日学校に行ったら、中森なかもりさんって女子が「大丈夫?」って声かけてきた。
 優等生タイプで背が高い。あんまり話したことないから、いい人かどうかは分かんない。

「う、うん。頭痛かったけど、寝たら治った」
「よかった。昨日、F組の十三沢君が心配して様子見にきたみたいだから」
「あ…」

 そういえば私は十三沢の連絡先を知らない。
 いつも階段の踊り場で一緒にご飯を食べているだけだし。

 それにしても、どうして中森さんが、ろくに口利いたこともない私に声かけてきたのかなって思ったら、
「あのね――原口さんって、十三沢君と付き合っているの?」
 
 なるほど、これが聞きたかったのか。

「違うよ。お昼一緒に食べてるだけ。階段の踊り場で」
「どうして?」

 さあ、どうしてだろう?あ、「友達になって」って言われたから、か?
 でも中森さんは、多分十三沢のことが好きとか気になってるとかだろうから…。

「ええと…流れで?」
 その答えに、中森さんがちょっとイラッとした様子で再び尋ねてきた。
「付き合っては、いないのね?」
「うん。十三沢が私のこと相手にするわけないでしょ」
「だよねー」

「ひどいなあ。私だって十三沢なんか目じゃないよ」
「あ、ごめん、そういう意味じゃ…でも、“十三沢なんか”ってひどくない?」
「中森さんこそ」

 何だかおかしい。まるで友達同士みたいな会話だ。

 中森さんは、それこそ“流れ”で、十三沢のお弁当の中身とか、私たちが話していることについて、興味津々の様子でいろいろ尋ねてきた。
 すると周囲にも自然に人が集まっている。「何の話?」って感じで。
 赤坂さんとの一件で、「原口さんとは絶対口利かない」って息巻いてた人もいるし、何なら赤坂さんもいる。
 女子のこういうヌルいところ、実はちょっと怖いなと思うんだけど、こういうときは助かる。
 豚みたい、なんて言ったこと、謝った方がいいのかな。それとも蒸し返さない方がいいのかな。

◇◇◇

 その日もいつもの場所におにぎりを持っていったら、十三沢が先に来ていた。
「具合は大丈夫なのか?」って。
 すごいな、ママにも聞かれなかったことを、学校で2回も聞かれた。

「うん。昨日はひどい頭痛がしてたけど、もう大丈夫」
「ならよかったが、頭痛はなめない方がいいぞ」
「分かってるよ」

 今日は話したいことがいっぱいある。
 おばあちゃんが好きらしいドラマをたまたま再放送で見て面白かったこと。
 そして、クラスの女子と結構普通に話せたこと。
 正直、どっちもオチのない、どうでもいい話なんだよね。
 こういうのをきちんと聞いて、「それはよかったな」とか、「どんな話をしたんだ?」とか、優しく反応してくれる。
 こんな人がカレシだったら、確かに幸せだろうな。

 思い切って、「こんな話、退屈じゃない?」って聞いたら、「お前が自分から楽しそうに話題を出してくれると安心するんだ」だって。
 私はどんだけ不幸な少女だと思われているんだろう。

 十三沢が私と一緒にご飯を食べて、話し相手になって、たまには一緒に帰ったりしてくれるのは、「同情」からだって分かってる。
 そして今の私は、その同情をうまいこと利用しているだけだ。
 よく「かわいそう」って同情されると腹を立てる人がいるけど(正直、創作物の登場人物でしか見たことないけど)何が問題なの?
 私は、十三沢とずっと一緒にいられるなら、幾らでもかわいそうがられたい。

◇◇◇

 十三沢が、「もうすぐ予鈴が鳴るな」と言いながら時計を見た。
 そして、「そうだ、忘れるところだった。これ、使うか?」って袋を渡してきた。

「これ――ノート?」
「ああ、万年筆のインクが裏抜けしないらしい」
「わ、何これ。すっごくかわいい。ありがとぉ!」

 表紙には小さなラベンダーの絵がいっぱい描き散らされているし、筆記体の文字もおしゃれでかわいい。この花の優しい紫色、本当に好きなんだ。

「よかった。君はそういうのが好きそうだと思ったんだ」

 十三沢ってやっぱりすごいなあ。
 同情で私の好みを見極めて、同情でこんなものくれるんだから。
 私、さすがにそろそろ勘違いするよ。

「あのさ、十三沢の誕生日っていつ?」
「ん?6月だが…」
「あー、過ぎちゃったか…」
「どうした?」
「私ばっかりもらいっ放しも悪いかなって思って」

「そういうのは気にするな。好きでやっているだけだ」
「ひょっとして、十三沢って物好きっていうか――お節介?」
「そうか…俺はお節介か?」
「――あんたのお節介、嫌いじゃないよ」

◇◇◇

 帰りの電車の中で、ラベンダーの花言葉を調べた。
 いろいろあったけど、そのうちの1つで「献身的な愛(devotion)」って言葉があった。
 愛は横に置いとくとして(恥ずかしいから)、「献身」って確かにそうだなあ。

 私もせめて何か十三沢が喜ぶようなこと、してあげられないかな。
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