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第25章 中学時代の同級生
面接
しおりを挟むさよりはその日、H台駅から電車に乗り込んでいた。
いつもは寮の近くから短大のすぐ近くに行けるバスに乗れるので、それで通学していたが、アルバイトを学校の近くで探そうとしたら、学校周辺というよりも、最寄り駅(学校まで徒歩9分)の周辺の方が件数や種類も多く、具合がよさそうだということに気づいたのだ。
求人雑誌で駅構内にある文具店の従業員の募集を見て、アポイントを取った。
もしも首尾よく採用されたら、後期は電車通学に切り替えるつもりだった。
そうすることで電車通学らしい俊也と登下校で偶然会う可能性もあったが、そのことはあまり考えないようにした。
いくら距離を置いている状態とはいえ、顔を見たら普通に挨拶をすればいいし、うまくいけば、少し話もできるかもしれない。
考えようによっては、交際前に戻ったつもりで接することで、何かを打破できるかもしれない。
男女交際に不慣れなさよりは、「男女の機微」的なところによくも悪くも鈍感だったので、「俊也に無視されるかも」といった心配はあまりしていなかった。
◇◇◇
約束の時間より大分早めに駅に着いたが、不慣れな駅だったので、スムーズに動線を確保できず、何となく動きがぎこちないというか、まごまごしてしまう。
案の定というべきか、通行人の1人とぶつかってしまった。
とても背が高く、細身だが頑丈そうな体、ふわっと清潔な香りのする白いシャツ――という情報が、感触とにおいから瞬時に分かった。
「あ、ごめんなさい…」
「いや、こちらこそ…って、水野さん?」
「え?」
「俺、四中で一緒だった佐竹だよ」
「佐竹君!?」
さよりの、空を仰ぐように見上げた顔の角度と、「!?」が感じられる声音から、「佐竹」と名乗った男は意図をすぐくみ取った。
「へへっ。今は188あるんだ」
「あ――うん。すごいね!」
「水野さんは相変わらずかわいい――いや、きれいになったかな」
◇◇◇
「佐竹」こと「佐竹徹志」は、中学校卒業の時点で165センチ程度だったろう。160センチのさよりとは大差ない背丈だったし、女子はそもそも自分より10センチ程度大きな男子を「自分と同じくらいの人」と認識する傾向にある。だからさよりの中の「佐竹君」は、「小柄な人」だったのだ。
2人は会話しながら、徐々に邪魔にならない場所に自然に移動していた。
佐竹もさより同様、「人の邪魔にならないように」が行動原則の中にあるタイプのようだ。
「水野さん、この辺に住んでるの?」
「あー、バイトの面接で――あと30分くらいしてからだけど」
「どこ?」
「駅の中のシマムラ文具っていうところ」
「へえ、俺のバイト先の近くだ。通路を挟んではす向かい――よりは少しずれているかなってところ、だね」
「この駅、こんなに大きなショッピングセンターがあると思わなかった」
「ね。おかげでバイト先には困らないよ」
「佐竹君はどこでバイトしてるの?」
「ドクトル[カフェチェーン]だよ」
「あー、なるほど」
「30分後っていったっけ?時間」
佐竹は自分の腕時計に目を落とした後、軽く空をにらむようなしぐさをして、
「あ、うん」
「俺もこれからバイトだけど、少し話さない?」
「うん…」
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