上 下
59 / 88
第20章 ガールズトーク

俊也の不機嫌

しおりを挟む


 一方、さよりは眠れそうもない。
 俊也に電話したい気持ちもあったが、晴海の家の電話を使うのはためらいがあったし、深夜なので、外の公衆電話を使うと言っても、伯母たちに止められるだろう。

 「そういえば、どうして私は「あの後」俊也さんに電話できていないのだろうか?」と、ふと考えた。

 あの後、俊也から手紙をもらったので返事を書いたが、電話はかけていない。なぜならば、電話すれば「会おう」という約束につながる可能性は高い。会えば当然、「そういう」ことになるだろう。

 自分は俊也さんに実は会いたくないのでは…と考えれば、答えは「ノー」と導き出される。

 会いたいけど、セックスはできればしたくない。
 初めてだったさよりには、あの行為は苦痛の方が大き過ぎた。

 かといって、「しにくい」日にわざわざ会うのもいかがなものか。
 さよりの生理は少し前に、俊也との関係を持つ前に始まり、きっかり1週間で終わった。
 さよりには、「しない」口実のために生理を偽装するという発想がなかったし、“期間中”でもお構いなしに迫ってくる男もいる――と、何かで読んだことがあった。

◇◇◇

 晴海との女同士の気楽な外出を楽しんだ後、寮に帰ると、「アベさんという男性から電話がありました」という伝言メモが部屋のドアに挟まっていた。日付は昨日だったようだ。

 さすがに無視するわけにはいかず、近くの公衆電話に走って電話をすると、
運よく俊也はいたものの、かなり機嫌が悪かった。

『お前、昨日外泊って、どこに行っていたんだ?』
「あの…晴海ちゃんちに。伯父さんの誕生日の食事会に招かれていて」
『なんだ、水野の家か。まあいいや。でも次からは、週末の予定ぐらい、ちゃんと俺にしてからにしろよな」

 さよりは俊也と週末に何の約束もしていないし、伯母からのお誘いの後、俊也から週末スケジュールの確認があったわけでもない。それでも責めるような口調で言われ、さよりはこう返すしかなかった。

「ごめんなさい、俊也さん」
『さよりは素直でかわいいな。分かってくれればいいよ』

 俊也の声は、顔や雰囲気から想像するよりも低音で野太い。声域でいえばバリトンという感じだ。
 その声で「君」「さよりちゃん」と呼ばれ、優しい口調で話されるのが、さよりは好きだった。
 切ったばかりの電話では、「お前」と言われ、呼び捨てにされ、口の利き方も少し乱暴な気がした。

 さよりは、俊也のことが好きだという気持ちに変わりなかったが、その変化にときめくことはなく、「怒らせちゃった…次からは気を付けなきゃ」という気持ちさえ芽生えてしまっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【再公開】何の役にも立ちません

あおみなみ
現代文学
「バカな成人男性と、無知な女子高生カップルの極めておろかな結末」 5歳年上の諏訪正和と交際中の女子高生の香取芽衣子。体の関係もしっかりある。 ある日、順調だった芽衣子の生理が突然止まり…。 1980年代後半、「ピル服用」のハードルが今よりもっと高かった時代のお話。「妊娠中絶」というワードはありますが、直接の行為の描写はありません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...