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第15章 チャンス再来
部屋 ふたりきり
しおりを挟む俊也の部屋は、息苦しくない程度に清潔を保っていた。
前日のドタキャンからのふて寝の際、少し酒を飲んではいたが、乱痴気騒ぎをしたわけではない。
簡単に掃除をし換気をすれば、それだけで十分快適な環境になった。
キッチンに置かれたあまり大きくない食器棚(カラーボックスにガラス戸をはめ込んだ程度のもの)には、食事どきに使う食器と、デザインが不統一なマグが数種入っていた。どれも高価なものではない。
中には「KIY●SATO」「K●RUIZAWA」といったロゴ入りの、何となく野暮ったいものもあるが、人からのいただきものはありがたく使うという俊也の生真面目さを少しだけ映し出していた――と思いきや、これすらも実は「こういうの使っちゃうのってかわいい」とか、「こんなダサいでも使うなんて、優しっ」という女性たちの高評価が裏打ちされていたりもする。
さよりは何か言うだろうか?
◇◇◇
「散らかってて悪いけど」
俊也はそう言いながら、さよりを部屋に招き入れた。
「そんな――すごくよく整理整頓されているじゃないですか」
「そう言ってもらえてうれしいな」
ベッドのシーツも新しいものに替えてある。
たまたま実家からなぜか送られた荷物の中にあり、最初は使う気もなかったのだが、「いい機会」なのでおろすことにした。
ベッドサイドに小物のおけるテーブルがあり、そこにティッシュも置いてあったが、あまりにも露骨過ぎるか?と、机の上に移動させた。
さよりは机の上のボックスティッシュではなく、教科書らしき本や、オーデコロンの瓶に目が行った。
「俊也さんって法学部でしたっけ?」
「あ、うん。法学科じゃなくて政治学科だけどね」
「なるほど…」
現代政治思想、日本憲政史といった字が、本の背表紙で躍っていた。
コロンは多分、俊也が日常的につけているものなのだろう。国内大手化粧品メーカーの男性用のラインで、さわやかでスパイシーな香りが受け、女性にも愛用者がいるものだった。
「適当に座ってて。お茶を淹れよう」
「あ、私が…」
「いいから。ダージリンとアールグレイ、どっちがいい?」
「じゃ――アールグレイで」
「へえ。癖があるから苦手って人もいるけど」
「私も実は紅茶はよく分からないので、“わかりやすい”のが好きなんです」
「なるほどね。いいことを覚えた」
俊也は白地に黒字でロゴの入った、中くらいの大きさのシンプルなマグを二つ取り出し、それぞれにティーバッグを入れた。
ロゴは雑貨店の名前になっている。何代か前の彼女が置いていったものだが、来客用にちょうどいいと思い、気にせず使っていた。
少なくとも、さよりと「付き合う」ようになってから、(男女問わず)ほかの誰かに出したことはない。
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