【R15】気まぐれデュランタ

あおみなみ

文字の大きさ
上 下
40 / 88
第15章 チャンス再来

部屋 ふたりきり

しおりを挟む


 俊也の部屋は、息苦しくない程度に清潔を保っていた。

 前日のドタキャンからのふて寝の際、少し酒を飲んではいたが、乱痴気騒ぎをしたわけではない。
 簡単に掃除をし換気をすれば、それだけで十分快適な環境になった。

 キッチンに置かれたあまり大きくない食器棚(カラーボックスにガラス戸をはめ込んだ程度のもの)には、食事どきに使う食器と、デザインが不統一なマグが数種入っていた。どれも高価なものではない。
 中には「KIY●SATO」「K●RUIZAWA」といったロゴ入りの、何となく野暮ったいものもあるが、人からのいただきものはありがたく使うという俊也の生真面目さを少しだけ映し出していた――と思いきや、これすらも実は「こういうの使っちゃうのってかわいい」とか、「こんなダサいでも使うなんて、優しっ」という女性たちの高評価が裏打ちされていたりもする。
 さよりは何か言うだろうか?

◇◇◇

「散らかってて悪いけど」
 俊也はそう言いながら、さよりを部屋に招き入れた。
「そんな――すごくよく整理整頓されているじゃないですか」
「そう言ってもらえてうれしいな」

 ベッドのシーツも新しいものに替えてある。
 たまたま実家からなぜか送られた荷物の中にあり、最初は使う気もなかったのだが、「いい機会」なのでおろすことにした。
 ベッドサイドに小物のおけるテーブルがあり、そこにティッシュも置いてあったが、あまりにも露骨過ぎるか?と、机の上に移動させた。

 さよりは机の上のボックスティッシュではなく、教科書らしき本や、オーデコロンの瓶に目が行った。

「俊也さんって法学部でしたっけ?」
「あ、うん。法学科じゃなくて政治学科だけどね」
「なるほど…」
 現代政治思想、日本憲政史といった字が、本の背表紙で躍っていた。

 コロンは多分、俊也が日常的につけているものなのだろう。国内大手化粧品メーカーの男性用のラインで、さわやかでスパイシーな香りが受け、女性にも愛用者がいるものだった。

「適当に座ってて。お茶を淹れよう」
「あ、私が…」
「いいから。ダージリンとアールグレイ、どっちがいい?」
「じゃ――アールグレイで」

「へえ。癖があるから苦手って人もいるけど」
「私も実は紅茶はよく分からないので、“わかりやすい”のが好きなんです」
「なるほどね。いいことを覚えた」

 俊也は白地に黒字でロゴの入った、中くらいの大きさのシンプルなマグを二つ取り出し、それぞれにティーバッグを入れた。
 ロゴは雑貨店の名前になっている。何代か前の彼女が置いていったものだが、来客用にちょうどいいと思い、気にせず使っていた。
 少なくとも、さよりと「付き合う」ようになってから、(男女問わず)ほかの誰かに出したことはない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...