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第10章 俊也と松崎

相思相愛

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 松崎は8月の中旬、お盆休みの名目で、4日だけ休暇をもらって帰省していた。
 誕生日のプレゼントを渡した後、どうもタイミングが合わず、さよりに電話をしても不在がちで、夏休みの予定を聞けないでいた。
 だが、もし彼女も帰省中なら、偶然会うこともあるかもしれないと、松崎は日中は片山駅前の繁華街をぶらぶらしていた。

 しかし、そうそう偶然に会うことはかなわない。
 住所は知っているから、よほど訪ねていこうかとも思ったが、さすがにそれははばかられた(ただ、かなり近いところまでは迫っていたのだが)。 

 そして翌日は東京に戻らなければならないという日、折しもというべきか、折あしくというべきか、俊也に肩を抱かれて映画館通りを通過するさよりの姿を見かけ、ホテルに入ろうとしたところを制止した。
 松崎はちょうどその直前まで映画を見ていたのだが、時間が1分でもずれていたら、せいぜいニアミスで終わっていたのだから、それはそれでなかなかの偶然といえば偶然だった。

「君こそ誰?さよりの知り合い?」
「さよりって――呼び捨てとか何様だよ!」
 松崎は当然、「彼氏」の俺ですらさん付けなのにというつもりでそう言った。

「松崎君、手を離してちょうだい。この人は…」
 さよりは少しためらったが、これからホテルに入ろうというのに、恥ずかしがっている場合ではない。
「私の好きな人よ。片思いだけど」

 その言葉に、2人の男が一斉に彼女を見た。
「片思いって…何だよそれ…俺は…」と松崎。

「さよりちゃん…片思いなんかじゃないよ」と俊也。

 当然さよりは、俊也にだけ反応する。

「え…?」
「好きでもない子とこんなところに入ろうとすると思う?
 俺も好きだよ、もちろん」
「俊也さん…」

「…んだよ。俺はこんなの認めない。絶対に認めないからな!」

 松崎はそう捨て台詞を残し、走り去っていった。
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