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第8章 恋愛観的なもの

俊也

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 安部俊也は女性に好かれやすく、また彼自身女性が好きだが、最初から遊び人だったわけではない。

 高校生の頃は、親戚の年上の女性に恋していた。
 5歳年上の「はとこ」だったが、母方のいとこ伯父に当たる人の再婚相手の連れ子だったので、そもそも血縁がなかったし、そうでなくても結婚も可能な間柄だった。

 容姿も性格もいろいろな能力も、どちらかというと平凡を絵に描いたような女性だったが、17歳の俊也は、彼女の素朴な笑顔に惹かれた。
 種明かしをしてしまえば、「初体験の相手がその女性だったから」というのは大きかったかもしれない。

 しかし結局、彼女は23歳で10歳年上の男性との結婚を決めた。
 俊也は「自分とのことは何だったのか」と、彼女を責め立てた。

「あなたとのことって…一度寝たぐらいで何言ってるの?」

 このとき俊也は、素朴で安堵感を与える彼女が、実はかなり遊んでいたということを思い知らされた。

「まだ若いトシちゃんには分からないだろうけど、セックスは場数を踏んでこそなのよ」
「結婚前の経験できるうちに経験しておきたいって、悪いことかな?」
「あなた初めてって言っていたけど、それにしては筋がよかったし、結構楽しめたわよ」

 そして「ふん」と鼻で嗤うように言った(と、俊也には見えた)彼女の姿にショックを受け、結婚式と披露宴には、適当な理由をつけて欠席した。
 結婚相手は、特別稼いでるわけでも美形というわけでもない、かなり平凡な男だったようだが、周囲からは「何となくほほえましいカップル」だと言われていた。

***

 もともと俊也は地元で進学するつもりでいた。
 さらに彼女と関係を持ったことで、漠然と、しかしそれなりに真剣に将来を思い描いたが、当の彼女の行為と言葉にショックを受け、東京への進学に急遽希望を切り替えた。

 思いつめた反動は、大学入学後、俊也に積極的にアプローチしてくる女性たちへと向いた。気づくと「遊び人」と目されるようになっていたのだ。
 俊也が「女をとっかえひっかえしている」とそしられようと気にせず、しかし二股だけは決してかけないのは、この辺りが関係しているのかもしれない。要するに、根は誠実で純情な男だと言えなくもないのだ。

 ただ、それなりの数の女性と付き合うことで、小賢しい手練手管が身に付いてしまったことが、俊也を必要以上に遊び人に見せるし、さよりのように交際慣れしていない娘は、傍目にはだまされているかのように見えてしまう。

 少なくとも俊也は、2、3カ月で女性を使い捨てにしようなどとは全く考えていない。あっさり体の関係ができてしまうのも、そう望む女性との付き合いが続いたからに過ぎない。
 さよりとのことが今後どう動くかは、としやの意思よりも、むしろ彼女さより次第かもしれない。
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