24 / 88
第8章 恋愛観的なもの
俊也
しおりを挟む安部俊也は女性に好かれやすく、また彼自身女性が好きだが、最初から遊び人だったわけではない。
高校生の頃は、親戚の年上の女性に恋していた。
5歳年上の「はとこ」だったが、母方のいとこ伯父に当たる人の再婚相手の連れ子だったので、そもそも血縁がなかったし、そうでなくても結婚も可能な間柄だった。
容姿も性格もいろいろな能力も、どちらかというと平凡を絵に描いたような女性だったが、17歳の俊也は、彼女の素朴な笑顔に惹かれた。
種明かしをしてしまえば、「初体験の相手がその女性だったから」というのは大きかったかもしれない。
しかし結局、彼女は23歳で10歳年上の男性との結婚を決めた。
俊也は「自分とのことは何だったのか」と、彼女を責め立てた。
「あなたとのことって…一度寝たぐらいで何言ってるの?」
このとき俊也は、素朴で安堵感を与える彼女が、実はかなり遊んでいたということを思い知らされた。
「まだ若いトシちゃんには分からないだろうけど、セックスは場数を踏んでこそなのよ」
「結婚前の経験できるうちに経験しておきたいって、悪いことかな?」
「あなた初めてって言っていたけど、それにしては筋がよかったし、結構楽しめたわよ」
そして「ふん」と鼻で嗤うように言った(と、俊也には見えた)彼女の姿にショックを受け、結婚式と披露宴には、適当な理由をつけて欠席した。
結婚相手は、特別稼いでるわけでも美形というわけでもない、かなり平凡な男だったようだが、周囲からは「何となくほほえましいカップル」だと言われていた。
***
もともと俊也は地元で進学するつもりでいた。
さらに彼女と関係を持ったことで、漠然と、しかしそれなりに真剣に将来を思い描いたが、当の彼女の行為と言葉にショックを受け、東京への進学に急遽希望を切り替えた。
思いつめた反動は、大学入学後、俊也に積極的にアプローチしてくる女性たちへと向いた。気づくと「遊び人」と目されるようになっていたのだ。
俊也が「女をとっかえひっかえしている」とそしられようと気にせず、しかし二股だけは決してかけないのは、この辺りが関係しているのかもしれない。要するに、根は誠実で純情な男だと言えなくもないのだ。
ただ、それなりの数の女性と付き合うことで、小賢しい手練手管が身に付いてしまったことが、俊也を必要以上に遊び人に見せるし、さよりのように交際慣れしていない娘は、傍目にはだまされているかのように見えてしまう。
少なくとも俊也は、2、3カ月で女性を使い捨てにしようなどとは全く考えていない。あっさり体の関係ができてしまうのも、そう望む女性との付き合いが続いたからに過ぎない。
さよりとのことが今後どう動くかは、彼の意思よりも、むしろ彼女次第かもしれない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【再公開】何の役にも立ちません
あおみなみ
現代文学
「バカな成人男性と、無知な女子高生カップルの極めておろかな結末」
5歳年上の諏訪正和と交際中の女子高生の香取芽衣子。体の関係もしっかりある。
ある日、順調だった芽衣子の生理が突然止まり…。
1980年代後半、「ピル服用」のハードルが今よりもっと高かった時代のお話。「妊娠中絶」というワードはありますが、直接の行為の描写はありません。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる