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第7章 計算だけど計算じゃない

「こういうの好きでしょ」

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 「当選通知」は番号を渡してから4日後の夜8時に来た。

「もしもし」
『あの…安部さんのお宅ですか?』
「あれ?えーと…さよりちゃん?」
『あ、はい。俊也さんですよね?』
「もちろん。俺はひとり暮らしだからね」
『あ、ですよね』

「さよりちゃん、今どこ?」
『寮の近くの公衆電話です』
「そうか…そこからこの間のコンビニまでってどれぐらいかかる?」
『5分、くらいです』
「ね、じゃ、そこまで来られるかな?俺もカンタンに支度したらすぐ出るし」
『えっ』

「ご飯でもどう?」
『あ…食事はもう…』
「この時間だからそうだよね。じゃ、お酒は?」
『あんまり得意では…』
「君はソフトドリンクでいいからさ。俺のメシ兼飲みに付き合ってよ、ね」
『あ…はい。じゃあ…』

 俊也にとって電話というのは、会話をするというよりも、アポを取るための道具である。
 彼女から「会いませんか?」や「今からお部屋に行ってもいいですか?」的な積極的な提案があるとは想像しにくいので、まずはこうして強引に、しかし警戒させない形で誘って様子を見ようと思った。

 俊也の一連の行動は、計算だが計算ではない。
 ぐいぐい行った方がいい場合と控え目にした方がいい場合、強弱というか緩急というか、そういうものの付け方が、経験上身に付いているのだ。

***

 ソフトドリンクでもいい、とは言ったものの、状況次第では酒を勧めるつもりだった。
 しかし、寮の門限は11時だというし、最初のコンタクトでいきなり「お持ち帰り」も悪手かもしれない。
 それでも、差し向かいで飲食をともにすることで、だんだんとさよりの態度がほどけてくるのは分かった。
 意外と話題が豊富で、単純に会話が楽しく弾む。
 2年前に会ったときよりも少し大人びたようにも見えるし、周囲の男の何人かが、さよりをチラチラ見ているのも分かり、少し気分がよくなった。

(この子…じゃん)

 「いい」という漠然とした褒め言葉?には、いろいろなニュアンスが含まれていた。
 顔、細身の体つき、頭の回転も適度に速そう、化粧っけがなく、ファッションもやや野暮ったいが、そこがまた伸びしろでもある。
 さらに自分好みに磨き、「よきところ」でベッドをともにできたら、などと考える愉しみもある。

「今日は楽しかったよ。またこんなふうに会いたいんだけど…ダメ?」
「そんな。私でよければいつでも」

 さよりは平生、こんな軽はずみなことを言うではないが、好きな男の歓心を買いたいと考えた若い娘は、意外と考えなしになるものだ。

「あ、言ったね?よーし、じゃ、次の土曜なんかどう?」
「え…」
「もちろん、君の都合がよければ、だけど」
「はい、喜んで!」

 次の土曜日は、一緒に映画を見にいくことになった。
 俊也にはあまり映画鑑賞の趣味はなく、このジャンルが好きというのもなかったので、「さよりちゃんが見たいのを見よう」と言ったが、「俊也さんにお任せします」と返されてしまった。
 ちょうど雑誌の記事で見かけたばかりの、評判が高いらしい単館ミニシアター系のロマンティックコメディーを思い出し、それを提案すると、なかなかいい反応が来た。

「よかった。、そういうの好きそうだと思ったんだ」

 些細だが、「女の子は」こういうのがいいんでしょ?ではなく、「君が」好きそうと言うあたりも、俊也の「計算していない計算」だった。
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