帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第六章『門』

2 猫ちゃん、ストーリーを整理する(前編)

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 目が覚めると吾輩、一階の部屋に独りで居た。家の中には他に誰も居ない。龍之介くんはベビーカーに乗せられて、お外を主人と散歩中のようである。

 吾輩、夢の中に出てきた和尚さんは良い人だったなぁと思い起こす。ああいう人こそ神様に近いのでは、なかろうか。何処どこかのインチキ神様と違って、エロエロ淫夢いんむとか言い出す事も無さそうである。宗派的にはほとけ様かも知れない。

 吾輩、感謝のしるしおがんでおいた。ナムアミダブツ、ナムアミダブツ。ああ有難ありがたい、有難ありがたい。

 ああいう夢を見たのは、タブレットで漱石先生の『もん』を読了どくりょうしたからであろう。漱石作品の前期三部作で、『三四郎』と『それから』に続く、最後の作品である。

 で、話の内容だが、はっきりとは書かれない物事が多い。物語の外側で、過去に何かが起きたのは分かるのだが、それが何なのかは具体的に示されない。そういう作品である。

 読み終わっても、どうにもスッキリしなかった。吾輩、話の内容を整理してみる。

 主人公はそうすけで、たぶん年齢は、『それから』の主人公であるだいすけより少し上というくらいだ。前期三部作の主人公は、『三四郎』の学生時代から、『それから』の独身時代、そして『門』の既婚きこん時代というように年齢を重ねて、成長していっている。

 宗助は役所に勤めていて、およねという妻がいる。ちなみに主人公の名前が助と、宗教しゅうきょうの「宗」の字から取られているのは、おそらく小説のテーマと関係しているのだろう。

 宗助は元々、東京にあった金持ちの家の長男で、父親とも仲が良かった。しかし宗助は、お米と「徳義上とくぎじょうの罪」というのをおかしたらしく、この二人は東京を離れて駆け落ちをする。宗助が東京を離れている間に父親は亡くなり、遺産は宗助の叔父にだまし取られる。

 ちなみに、この宗助の叔父は脊髄せきずい脳膜炎のうまくえんという病気で急死する。便所に行った帰りに倒れて亡くなったそうで、いかにも天罰のように見える。厄介やっかいな事に、この「天罰」は、主人公夫婦にもりかかる。



 しばらく東京を離れて地方を転々としていた宗助とお米は、東京へと戻って借家に住む。崖下にあるボロ家で、もし崖が崩れたら埋まりそうなあやうさがある。こういう色々な「あやうさ」が、小説の最後まで、主人公夫婦には付きまとうのだ。

 東京で宗助は役所の仕事にく事が出来たが、お米との間には子供ができない。占い師からは、お米に「罪がたたっているから、子供は決して育たない」と言われてしまう。

 宗助には小六ころくという弟が居て、この弟は父親の死後、叔父の家に住んでいた。その叔父も死んで、小六は主人公夫婦のボロ家に転がり込む事になる。金が無いので小六は大学に行けず、兄である宗助に付いて「頼りにならない」という不満を持っている。

 小説の初めの方で、宗助と小六とお米は「総理大臣の伊藤いとう博文ひろぶみが外国で、ピストルでたれて殺された」という新聞記事に付いて会話をする。外国は物騒ぶっそうだという描写びょうしゃであり、その物騒ぶっそうな存在が、小説の後半では主人公の近くまで来る事となる……
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