帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第五章『それから』

4 猫ちゃん、二者に奪われ合う、か弱き者を憐(あわ)れむ

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「三千代さんをくれないか」と代助が言う。平岡も、妻が自分を愛していない事は理解しているのだ。しかし、だからと言って易々やすやす手放てばなせる訳が無い。妻が病気の間は自分が看護すると言って、平岡は代助に帰ってもらう。

 もう、物語は終わる。平岡から、代助の父に手紙が届くのだ。代助と三千代の関係に付いて書かれている。父親は代助を勘当かんどうし、代助の兄も「おれも、もうわんから」と直接、伝えて去っていく。

 父親からも兄からもえんを切られた代助は、もう経済的援助がられない。職業を探して、代助が外へ飛び出していく所で終了である。最後の主人公の心理描写が見事で、そこの文章を吾輩は繰り返し、何度も読みふけった。



 読書を終えて、吾輩は代助と、あわれな三千代の事を思った。言ってしまえば、最初から代助が三千代と結婚すれば良かったのだ。友人に女性を譲ったと言えば聞こえは良いが、結局、主人公は責任を取りたがらなかっただけであろう。そういう性格が書かれてある。

 吾輩は猫だから、人間よりも単純に物事を考える。好きな相手が居たら、その愛を手放してはいけないのである。犬が来ようが何が来ようが、吾輩はお白さんとの愛をつらぬいてみせる。

 吾輩、読書の前に見ていた夢の事、吾輩の夢の中に来た侵略者の事を思い出す。あれは他の人間が寝ている時に、その夢の中から吾輩の夢に参加してきたのだろうか。

 その辺りはどうでも良いとして、今も昔も戦争や紛争は行われている。現実世界の領土りょうど争いは、そこの住人の意思がからんでくる。二つの国が一つの領土を取り合って、その領土で人々が生活している場合、どちらの国に所属したいのかは住人の意見も分かれるのかも知れない。

 紛争は、ある者に取っては侵略なのかも知れず、別の者に取っては解放なのかも知れぬ。複雑なのだ。猫の吾輩には、複雑な事を語る能力が足りない。

 しかし『それから』のように、二人の男が一人の女を取り合っている状態ならば、これは吾輩にも分かる。優先されるべきは、当事者である女の意思なのだ。

『それから』の主人公達が、その後どうなったのかは書かれていないが、代助は漱石先生と同様の職業作家にでもなったのではないか。そして三千代と手を取り合い、厳しい世の中で生活していったのだと思いたい。漱石先生も、職業作家として家族を養っていくと決めた時には、きっと相当の覚悟を持っていた事だろう。

 愛する女が出来できた時、男に必要なのは愛を貫く覚悟である。吾輩はそう思うし、『それから』の代助が最後に手に入れたのは、そういう覚悟であった。

 愛のためには、多少のバトルはけて通れないのである。何も戦争を行う訳ではあるまい。戦争なんてものは夢の中やテレビゲームだけで楽しくおこなえば良いのだ。そんな事を吾輩は、『それから』を読んで考えた。
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