帰ってきた猫ちゃん

転生新語

文字の大きさ
上 下
32 / 64
第五章『それから』

2 猫ちゃん、龍之介くんと無双する

しおりを挟む
 猫と幼児である我々は、再び腹這はらばいで次の遮蔽物を求めて動き出した。

 あの神様は『危険は無い』などと言っていたが、何の保証も無い。肉体的な被害は無くとも、心に傷を負わないとも限らない。隣に居るのは一才未満の子供なのだ。彼の安全には最大限の考慮こうりょが必要であった。

一番手いちばんていただきぃ!」

 恐れていた敵の攻撃である。軽量のよろいのような戦闘服に身をつつみ、日本刀のような武器でおそい掛かってきた。吾輩達は小さいから、銃でつのは難しいのかも知れない。

「目からビーム!」

 吾輩、両の目から青白い熱線を出して迎撃げいげきする。敵は吹き飛ばされて、夢の世界から退場していった。

「チートだろぉぉぉ……」

 ぎわに、そんな事を叫びながら敵は消えた。チートも何も、そもそも吾輩はゲームのルールを知らない。吾輩の夢の中でルールを押し付けられる筋合すじあいもあるまい。

「集団で行かせてもらうぜ!」

 新たな敵が来た。五人が周囲から同時に飛び掛かる。吾輩、前方からの三人をビームとねん動力どうりょくパンチで撃退げきたいするも、後方からの攻撃に対処たいしょわない。

「吾輩さん、危ない!」

 龍之介くんのこぶしうなる。まだ龍之介くんからは距離があった二人の敵は、拳からはなたれた衝撃波しょうげきはによって吹っ飛んでいった。

「龍之介くん……まさか、その技は百歩ひゃっぽしんけん!」

 百歩の距離から攻撃できるというまぼろしわざである。おそらくフィクションの中にしか存在しない。

「お父さんが買ってくれた、八十年代のマンガにってました。読んでて良かったです」

「そうか。何でも読んでおくものだね」

 龍之介くん、百歩神拳と百裂拳を組み合わせて、マシンガンのように周囲に遠距離攻撃をしていく。多数の敵が巻き込まれて消えて行き、残りはあわてて遮蔽物に隠れていった。

「戦場で死ぬ時は一緒ですよ、吾輩さん」

「龍之介くん……」

 何と、たくましく成長したのだろうと吾輩、感動していた。まだ一才以下なのに。

 吾輩、彼に守られてばかりでは、いけないと奮起ふんきする。空を見上げると龍が飛んでいたので、吾輩、遠近法で小さく見えている龍を前足でつかまえてくちに入れた。

 別に驚く事ではない。夢の中で空の星を動かしている吾輩には、この程度の事は造作ぞうさもない。

「パワーアップ! そして巨大化!」

 吾輩、自分の体を龍のように大きく変えていく。口からは炎をき出して、遮蔽物ごと敵をく。隣を見ると龍之介くんも、吾輩と同じサイズになっていた。

「ノリで、やってみたら巨大化できちゃいました! 僕も行きますよ!」

 そこから先は一方的な虐殺ぎゃくさつである。いや、夢の中だから殺してはいないと思うが。吾輩達は周囲を焼野原やけのはらへと変えていった。

「勝てるわけぇ……勝てる訳が無ぇよ……」

「何というものを俺たちは怒らせてしまったんだ……」

 夢の中であるからか、戦意を喪失した敵がつぶやく声まで吾輩には聞こえる。かよわい猫と幼児が正義の怒りに燃えた時、悪はほろびるのである。この敵が悪なのかは実際のところ知らないが、ここは吾輩の世界であり、わば吾輩の領土なのだ。侵略者は追い出させてもらおう。

「戦争のつもりは無かったんです。ただのゲーム、ただの軍事作戦オペレーションだと思ってたんです」

「帰りてぇ……家に帰りてぇ……」

「母ちゃん……怖いよ、母ちゃん……」

 降参した敵が口々くちぐちに言う。吾輩、大きく息を吸い込んでさけんだ。

「出ていけぇぇぇ!」

 声は大風となって、敵を残らず夢の世界から追放していった。吾輩と龍之介くん、巨大化をいて元のサイズへと戻る。

むなしい勝利でしたね、吾輩さん」

 マンガにありがちなセリフを龍之介くんが言う。言ってみたかったのだろう、きっと。

「うむ、いつだって戦争は虚しいものさ。まあ、それはそれとして」

 吾輩と龍之介くん、互いに顔を見合わせた。

「……ちょっとたのしかったね、龍之介くん」

「大勝利ですよ、吾輩さん!」

 いぇーい、と吾輩達、前足と手でハイタッチをわす。そんなこんなで目が覚めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

懐古百貨店 ~迷えるあなたの想い出の品、作ります~

菱沼あゆ
キャラ文芸
入社早々、場末の部署へ回されてしまった久嗣あげは。 ある日、廃墟と化した百貨店を見つけるが。 何故か喫茶室だけが営業しており、イケメンのウエイターが紅茶をサーブしてくれた。 だが―― 「これもなにかの縁だろう。  お代はいいから働いていけ」 紅茶一杯で、あげはは、その百貨店の手伝いをすることになるが、お客さまは生きていたり、いなかったりで……? まぼろしの百貨店で、あなたの思い出の品、そろえます――!

冥官小野君のお手伝い ~ 現代から鎌倉時代まで、皆が天国へ行けるようサポートします ~

夢見楽土
キャラ文芸
 大学生の小野君は、道路に飛び出した子どもを助けようとして命を落とし、あの世で閻魔様のお手伝いをすることに。  そのお手伝いとは、様々な時代を生きた人々が無事に天国へ行けるよう、生前の幸福度を高めるというもの。  果たして小野君は、無事に皆の生前幸福度を高めることが出来るのでしょうか。  拙いお話ではありますが、どうか、小野君の頑張りを優しい目で見守ってやってください。 「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

幽霊浄化喫茶【ハピネス】

双葉
キャラ文芸
 人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。

一人じゃないぼく達

あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。 ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。 大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。 父親の近くには誰も居ない。 参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。 父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。 ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。 ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。 ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。 ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。 ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。 ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。 その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。 ぼくはもう一人じゃない。 寂しがりやな父親にもぼくが居る。 ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。 アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

処理中です...