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第五章『それから』
2 猫ちゃん、龍之介くんと無双する
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猫と幼児である我々は、再び腹這いで次の遮蔽物を求めて動き出した。
あの神様は『危険は無い』などと言っていたが、何の保証も無い。肉体的な被害は無くとも、心に傷を負わないとも限らない。隣に居るのは一才未満の子供なのだ。彼の安全には最大限の考慮が必要であった。
「一番手、頂きぃ!」
恐れていた敵の攻撃である。軽量の鎧のような戦闘服に身を包み、日本刀のような武器で襲い掛かってきた。吾輩達は小さいから、銃で撃つのは難しいのかも知れない。
「目からビーム!」
吾輩、両の目から青白い熱線を出して迎撃する。敵は吹き飛ばされて、夢の世界から退場していった。
「チートだろぉぉぉ……」
散り際に、そんな事を叫びながら敵は消えた。チートも何も、そもそも吾輩はゲームのルールを知らない。吾輩の夢の中でルールを押し付けられる筋合いもあるまい。
「集団で行かせてもらうぜ!」
新たな敵が来た。五人が周囲から同時に飛び掛かる。吾輩、前方からの三人をビームと念動力パンチで撃退するも、後方からの攻撃に対処が間に合わない。
「吾輩さん、危ない!」
龍之介くんの拳が唸る。まだ龍之介くんからは距離があった二人の敵は、拳から放たれた衝撃波によって吹っ飛んでいった。
「龍之介くん……まさか、その技は百歩神拳!」
百歩の距離から攻撃できるという幻の技である。おそらくフィクションの中にしか存在しない。
「お父さんが買ってくれた、八十年代のマンガに載ってました。読んでて良かったです」
「そうか。何でも読んでおくものだね」
龍之介くん、百歩神拳と百裂拳を組み合わせて、マシンガンのように周囲に遠距離攻撃を繰り出していく。多数の敵が巻き込まれて消えて行き、残りは慌てて遮蔽物に隠れていった。
「戦場で死ぬ時は一緒ですよ、吾輩さん」
「龍之介くん……」
何と、たくましく成長したのだろうと吾輩、感動していた。まだ一才以下なのに。
吾輩、彼に守られてばかりでは、いけないと奮起する。空を見上げると龍が飛んでいたので、吾輩、遠近法で小さく見えている龍を前足で捕まえて口に入れた。
別に驚く事ではない。夢の中で空の星を動かしている吾輩には、この程度の事は造作もない。
「パワーアップ! そして巨大化!」
吾輩、自分の体を龍のように大きく変えていく。口からは炎を吐き出して、遮蔽物ごと敵を焼く。隣を見ると龍之介くんも、吾輩と同じサイズになっていた。
「ノリで、やってみたら巨大化できちゃいました! 僕も行きますよ!」
そこから先は一方的な虐殺である。いや、夢の中だから殺してはいないと思うが。吾輩達は周囲を焼野原へと変えていった。
「勝てる訳が無ぇ……勝てる訳が無ぇよ……」
「何という化け物を俺たちは怒らせてしまったんだ……」
夢の中であるからか、戦意を喪失した敵が呟く声まで吾輩には聞こえる。か弱い猫と幼児が正義の怒りに燃えた時、悪は滅びるのである。この敵が悪なのかは実際のところ知らないが、ここは吾輩の世界であり、言わば吾輩の領土なのだ。侵略者は追い出させてもらおう。
「戦争のつもりは無かったんです。ただのゲーム、ただの軍事作戦だと思ってたんです」
「帰りてぇ……家に帰りてぇ……」
「母ちゃん……怖いよ、母ちゃん……」
降参した敵が口々に言う。吾輩、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「出ていけぇぇぇ!」
声は大風となって、敵を残らず夢の世界から追放していった。吾輩と龍之介くん、巨大化を解いて元のサイズへと戻る。
「虚しい勝利でしたね、吾輩さん」
マンガにありがちなセリフを龍之介くんが言う。言ってみたかったのだろう、きっと。
「うむ、いつだって戦争は虚しいものさ。まあ、それはそれとして」
吾輩と龍之介くん、互いに顔を見合わせた。
「……ちょっと楽しかったね、龍之介くん」
「大勝利ですよ、吾輩さん!」
いぇーい、と吾輩達、前足と手でハイタッチを交わす。そんなこんなで目が覚めた。
あの神様は『危険は無い』などと言っていたが、何の保証も無い。肉体的な被害は無くとも、心に傷を負わないとも限らない。隣に居るのは一才未満の子供なのだ。彼の安全には最大限の考慮が必要であった。
「一番手、頂きぃ!」
恐れていた敵の攻撃である。軽量の鎧のような戦闘服に身を包み、日本刀のような武器で襲い掛かってきた。吾輩達は小さいから、銃で撃つのは難しいのかも知れない。
「目からビーム!」
吾輩、両の目から青白い熱線を出して迎撃する。敵は吹き飛ばされて、夢の世界から退場していった。
「チートだろぉぉぉ……」
散り際に、そんな事を叫びながら敵は消えた。チートも何も、そもそも吾輩はゲームのルールを知らない。吾輩の夢の中でルールを押し付けられる筋合いもあるまい。
「集団で行かせてもらうぜ!」
新たな敵が来た。五人が周囲から同時に飛び掛かる。吾輩、前方からの三人をビームと念動力パンチで撃退するも、後方からの攻撃に対処が間に合わない。
「吾輩さん、危ない!」
龍之介くんの拳が唸る。まだ龍之介くんからは距離があった二人の敵は、拳から放たれた衝撃波によって吹っ飛んでいった。
「龍之介くん……まさか、その技は百歩神拳!」
百歩の距離から攻撃できるという幻の技である。おそらくフィクションの中にしか存在しない。
「お父さんが買ってくれた、八十年代のマンガに載ってました。読んでて良かったです」
「そうか。何でも読んでおくものだね」
龍之介くん、百歩神拳と百裂拳を組み合わせて、マシンガンのように周囲に遠距離攻撃を繰り出していく。多数の敵が巻き込まれて消えて行き、残りは慌てて遮蔽物に隠れていった。
「戦場で死ぬ時は一緒ですよ、吾輩さん」
「龍之介くん……」
何と、たくましく成長したのだろうと吾輩、感動していた。まだ一才以下なのに。
吾輩、彼に守られてばかりでは、いけないと奮起する。空を見上げると龍が飛んでいたので、吾輩、遠近法で小さく見えている龍を前足で捕まえて口に入れた。
別に驚く事ではない。夢の中で空の星を動かしている吾輩には、この程度の事は造作もない。
「パワーアップ! そして巨大化!」
吾輩、自分の体を龍のように大きく変えていく。口からは炎を吐き出して、遮蔽物ごと敵を焼く。隣を見ると龍之介くんも、吾輩と同じサイズになっていた。
「ノリで、やってみたら巨大化できちゃいました! 僕も行きますよ!」
そこから先は一方的な虐殺である。いや、夢の中だから殺してはいないと思うが。吾輩達は周囲を焼野原へと変えていった。
「勝てる訳が無ぇ……勝てる訳が無ぇよ……」
「何という化け物を俺たちは怒らせてしまったんだ……」
夢の中であるからか、戦意を喪失した敵が呟く声まで吾輩には聞こえる。か弱い猫と幼児が正義の怒りに燃えた時、悪は滅びるのである。この敵が悪なのかは実際のところ知らないが、ここは吾輩の世界であり、言わば吾輩の領土なのだ。侵略者は追い出させてもらおう。
「戦争のつもりは無かったんです。ただのゲーム、ただの軍事作戦だと思ってたんです」
「帰りてぇ……家に帰りてぇ……」
「母ちゃん……怖いよ、母ちゃん……」
降参した敵が口々に言う。吾輩、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「出ていけぇぇぇ!」
声は大風となって、敵を残らず夢の世界から追放していった。吾輩と龍之介くん、巨大化を解いて元のサイズへと戻る。
「虚しい勝利でしたね、吾輩さん」
マンガにありがちなセリフを龍之介くんが言う。言ってみたかったのだろう、きっと。
「うむ、いつだって戦争は虚しいものさ。まあ、それはそれとして」
吾輩と龍之介くん、互いに顔を見合わせた。
「……ちょっと楽しかったね、龍之介くん」
「大勝利ですよ、吾輩さん!」
いぇーい、と吾輩達、前足と手でハイタッチを交わす。そんなこんなで目が覚めた。
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