帰ってきた猫ちゃん

転生新語

文字の大きさ
上 下
31 / 64
第五章『それから』

1 猫ちゃん、戦場に行く

しおりを挟む
 眠りにくと、そこは戦場であった。こういう表現は普通、『目が覚めると、そこは戦場であった』となるのだろうが、吾輩の場合は夢の中での出来事なのだから仕方ない。

 では戦場というと、さぞ悲劇的な場面があったのだろうと思われるかも知れないが、そんな事は全く無かった。何と言うのか、のっぺりとした絵の中に居る感覚だ。テレビゲームの画面の中に居る、という表現が最も正しいのだろう。

 何故、ここが戦場と分かるのかと言えば、いかにも軍用機というようなヘリコプターなどが空を飛んでいるからだった。ついでに西洋の龍も飛んでいる。そういう設定なのだろうか。

「ここは何ですかね、吾輩さん」

 草原に居た吾輩は、隣の龍之介くんから声を掛けられる。吾輩、彼が居た事に今、気が付いた。彼も吾輩も、事態がみ込めずに呆然と立っている。この状況は不味まずいであろう。

「龍之介くん、まずはせるんだ。向こうに大きな岩があるから、そこまで匍匐ほふく前進!」

「はい、吾輩さん」

 ここが戦場であれば、何処どこから撃たれてもおかしくはない。まずは遮蔽物しゃへいぶつの側に行くのがセオリーであろう。吾輩と龍之介くん、腹這はらばいで移動する。猫と幼児は、こういう動きが得意だ。

 ずりずりと草の上を這って、岩の側に辿たどく。そこから辺りを見回すと、どうやら吾輩と龍之介くんは包囲されているらしい。眼だけではなく、猫の耳と鼻とテレパシーがそう告げる。

「囲まれてますねー、吾輩さん」

「龍之介くんも分かるかい。半径キロ圏内けんないに、我々の敵らしい人間が大勢おおぜい、居るね」

 何で夢の中で、こんな事になっているのか分からない。吾輩、夢見術で自分の夢はある程度、コントロールできるはずなのだ。自宅のパソコンがコンピューターウィルスにおかされたような状態であろうか。龍之介くんが巻き込まれてしまっている状況なのが、内心で吾輩をあせらせる。

 さらに奇妙な事に、吾輩達を囲んでいる連中には、あまり敵意というものが感じられなかった。その辺りは吾輩、テレパシーで分かる。むしろ吾輩達を使って、何かの遊戯ゆうぎを始めようとしているような雰囲気であった。上官の指令を待っているらしく、連中は現在、動かない。

 すると突然、天空から声がした。現実には有り得ない程、広範囲に響く声である。

『はーい、今から戦ってもらいまーす。標的は猫ちゃんと、その隣に居る赤ちゃんです』

 声は女性のものである。吾輩、この声に聞き覚えがあった。夢の中で会った、小説の神様だ。

「お知り合いの方ですか、吾輩さん」

 うめくような吾輩の反応を見て、不思議そうに龍之介くんが尋ねてくる。

「何だろうね……会ったのは一回だけなんだけれど」

『ここは夢の中なので、どんなにダメージを受けても危険は無いでーす。猫ちゃん達を倒した参加者の方には、ご褒美ほうびにエロエロ淫夢いんむを見せちゃいますので、頑張ってくださいね』

 うおぉー、と周囲からりのような雄叫おたけびが上がる。参加者とやらが喜んでいるらしい。

「エロエロ淫夢って何ですかね、吾輩さん」

「たぶん君は知らなくていい事だよ、龍之介くん」

 子供の前で、何を言っているのだろうかアレは。何してくれているのだ神様。

『公平をすために、猫ちゃん達にも武器は渡しますからね。では、ゲーム開始!』

 吾輩の近くに、木で出来た箱が出現した。この中に武器とやらが入っているのだろう。おそらくは銃などの、殺傷さっしょう道具が。それを龍之介くんの前で使えというのだろうか。

「……この箱はけない。大丈夫だよ、龍之介くんの事は吾輩が守る」

「吾輩さん……」

 何かを言おうとして、龍之介くんは言葉を止めた。

「移動しよう。このまま敵の攻撃を待っていたら、事態が悪くなるだけだ。いておいで」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

風紀委員はスカウト制

リョウ
キャラ文芸
男子高校生の立川アスカは、ある日いきなり風紀委員のメンバー(ドエスキャラの研坂、自由な性格の水橋、癒し系のフミヤ)に囲まれ、風紀委員になる事を強要される。 普通の風紀委員だと思って入ったのだが、実は風紀委員の仕事は、学校内の人ではないモノが起こす現象を解決したり、静観したりする事だった。 アスカはそこで初めて自分が他の人間とは違い、「人ではないモノ」を見る能力が強い事に気づかされる。 アスカには子供の頃のあやふやな記憶があった。それは誰かが川に落ちる記憶だった。けれど誰が落ちたのか、そのあとその人物がどうなったのかアスカは覚えていなかった。 人の周りを飛び回る美しい蝶や、校舎の中を飛行する鳥、巨大キノコの出現や、ツタの絡んだ恋人同士、薔薇の花を背負った少女、ヘビの恩返しに、吸血鬼事件、さまざまな事件を風紀委員メンバーと解決していくアスカ。 アスカは過去の記憶についても、人ではないモノが関係していたのではないかと考えだす。 アスカの思い出した過去とは……。 (ミステリー要素ありの基本ほのぼのギャグです)

元虐げられ料理人は、帝都の大学食堂で謎を解く

逢汲彼方
キャラ文芸
 両親がおらず貧乏暮らしを余儀なくされている少女ココ。しかも弟妹はまだ幼く、ココは家計を支えるため、町の料理店で朝から晩まで必死に働いていた。  そんなある日、ココは、偶然町に来ていた医者に能力を見出され、その医者の紹介で帝都にある大学食堂で働くことになる。  大学では、一癖も二癖もある学生たちの悩みを解決し、食堂の収益を上げ、大学の一大イベント、ハロウィーンパーティでは一躍注目を集めることに。  そして気づけば、大学を揺るがす大きな事件に巻き込まれていたのだった。

護堂先生と神様のごはん 幽霊屋台は薄暮を彷徨う

栗槙ひので
キャラ文芸
雪女騒動に巻き込まれてバタバタ過ごした年末から、年が明けようやく落ち着いてきた二月の初め。 またしても雑誌編集者の湊川君から、奇妙な依頼をされた夏也は、友人の宵山と神出鬼没の幽霊屋台を探しに出掛ける。そこには、やっぱり彼もついてきて……。 神様や妖怪たちと織りなす、ほっこり美味しい田舎暮らし奇譚。コメディ風味のショートストーリー。

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」 ※カクヨムにも投稿始めました!アルファポリスとカクヨムで別々のエンドにしようかなとも考え中です!  カクヨム登録されている方、読んで頂けたら嬉しいです!! 番外編は時々追加で投稿しようかなと思っています!

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

処理中です...