帰ってきた猫ちゃん

転生新語

文字の大きさ
上 下
14 / 64
第二章『坊っちゃん』

2 猫ちゃん、長い余命を告げられる

しおりを挟む
「吾輩、友達が少ないので。仲良くして頂けるなら、ありがたい次第ですよ」

「良かったー。ここ、猫ちゃんの夢の中だから、不法侵入で訴えられないかとドキドキで」

 自称神様は、思いのほか、腰が低い。というか本当に神様なのだろうか。

「神様というのは、もっとパワフルな方だと思ってましたが。海を空手チョップで割るような」

「モーゼが海を割った話ね。私も良く知らないけど、たぶん空手チョップで割った訳じゃないと思う。当時は空手とか無いだろうし」

 猫と自称神様では、どうにも上手く話がみ合わない。ひとまず吾輩、相手の素性すじょうを聞いてみる事にした。神様なら宗派があるのではないか。

「貴女は何ですか、信者の勧誘に来たんですか。お布施ふせが目当てですか。吾輩、無一文ですよ」

「そういうのじゃないから。上手く伝わってないかなー。私は、小説の神様なの」

「全く伝わってこないんで。もう少し、分かりやすい説明をお願いします」

「そうねー。ほら、猫ちゃんが前の章の最後でさ。思ってた事があったじゃない、地の文で」

「はぁ。前の章の地の文で」

 前の章の地の文とは何の事だろうと思いながら、吾輩はオウム返しをした。

「『吾輩たちは、神様に愛されて生まれてきたのだ。我々は、我々の人生の主人公なのである』……ね、こういう箇所。覚えてる?」

「ああ。確かに、そういう思考はしましたね」

「いい表現よね。それでね、こういう事が言えると思うの。猫ちゃんが主人公なら、その世界は猫ちゃんを中心とした小説であるって。その小説世界を扱ってるのが私なのよ」

 やはり彼女は、妄想狂の方であろうか。あまり刺激しないように対応して、お帰り頂きたいと吾輩は思った。

「信じてないみたいねー。まあいいわ。猫ちゃんに取って、この世界は現実だものね。私のじょういておいて、用件を伝えて帰ります。猫ちゃんの将来についてです」

 将来について、と来た。何だろうか、吾輩の不安をあおって生命保険に加入させるつもりか。

「猫ちゃんが面白い事を考えてるのは突っ込まないとして。前の章で猫ちゃん、龍之介くんと会話してて、思考してたじゃない。龍之介くんが成人する頃には、猫ちゃんは生きてないだろうっていう事をさ」

「ああ、そんな事も考えましたね。でもそれは、そういうものでしょう」

「その考えを、神様のはしくれである私は否定します。猫ちゃんは百二十歳まで生きるのです」

「そんなに!?」

 吾輩、びっくりして大声で反応してしまった。

「ちなみに猫ちゃんのガールフレンド、白ちゃんも同様ね。どう? 別に不都合は無いでしょ?」

「不都合があるかと言われましても……」

 吾輩、検討してみた。不都合、不都合……あれ、特に無いのか?

「今は人間の平均寿命もびてるんだから。猫の寿命が延びたって問題ないのよ」

「良いんですかね。周囲の人間から、吾輩がエイリアンみたいな扱いをされませんか」

「大丈夫よぉ、猫ちゃんの世界は優しいものなの。『あれ、あいつ長生きしてるな』でむから」

 気が付くと、小説の神様はキラキラと吾輩の前で輝きを増した。

「小説って色んな定義があるけど、つまりは自由なものなのよ。人それぞれの人生と同じでね」

 どこか薄暗かった吾輩の夢の中は、神様の光に照らされ、鮮やかな色で再構成されていく。

「猫ちゃんの猫生じんせいは、猫ちゃん次第で、どうなるかが決まります。どうしてくれても自由なんだけど、私は明るく楽しい展開を期待したいわね。だって猫ちゃんは愛されてるんだから」

「愛されているというのは、神様からですか」

「神様からだし、私からだし、ガールフレンドの白ちゃんからよ。モテモテじゃない、嬉しい?」

 光とした小説の神様からは、にっこりと笑う気配を感じた。全くまぶしくは無いのは夢だからか。光に照らされながら、これは希望というものが胸に満ちた状態かと吾輩は思う。

「この話が終わる頃に、また来るから。巻末で会いましょう、ラブアンドピースよ猫ちゃん」

 前世紀のミュージシャンみたいな事を言いながら、自称・神様は姿を消していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

理容師・田中の事件記録【シリーズ】

S.H.L
キャラ文芸
床屋の店主である田中が逮捕される物語

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

みちのく銀山温泉

沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました! 2019年7月11日、書籍化されました。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、 これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...