帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第一章『吾輩は猫である』

8 お白さん、愛の大切さを訴える

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「まだ、地下水は戻ってこないのか?」
 不意に、リーンが訪ねてきて驚く。
「…ええ。何処かにヒビが入って、流れ出ているとしか、思えないわ」
 数年前から、魔女の森の地下水か減ってきている。
 雨が降っても一定以上に水位が上がらない。
 その為、生活用水が激減し、地下に貯水槽を作り、森の外で『水球』を作り出し、持ってきては水を補充している。
 とはいえ、限界があるのだ。
 リーンの『天水球』は水を圧縮させているので、大量の水が入っている為、これが有れば当分、魔女達の生活を守ることが出来る。
「…嫌な感じだな」
「そうなの」
 原因がハッキリとしないから、手の施しようがない。
「だったら、『天水球』をもう少し、置いていく『物質保管庫』」
 リーンが手をかざし、ドーナツ状の魔法陣が現れ、中心の引き出しから、『天水球』を二つ取りだし、手渡され、リーンは背を向けて王子の元に向かった。
 じっとこっちを見ていた王子は、リーンに気が有るのか、親しげに話す私を睨んで、不機嫌そうに、顔を歪めている。
 そんなつもりが無くても、これは面白い…。
 リーンは気付いているのか?
 もし、心を奪われそうになっている王子が、魔女に捕まったらリーンはどうする?
 ソフィアは楽しくなってきて、笑みを浮かべた。 
「どうした?用事は済んだから、帰ろう」
「ああ」
 リーンは王子を促して、ソフィアに背を向け、城の扉に向かった。
「リーン。気付けて帰りなさい。宴が始まるわよ」
 そして、魔女に捕まるのよ…。
「ありがとう。ソフィア」
 何も知らない二人は城の扉を出て行った。


 ソフィアは隣にたたずむ巨大な鏡に触れ、魔女の森を監視する『目』を動かし、映像を写し出した。
 『目』は森だけでなく、魔女の暮らす街全体を見ることが出来き、侵入者を見つけるためにも使われるモノだ。
 リーンと魔女との攻防が映し出され、二人は空中を移動して出入口に向かっている。
 彼女達三人なら、リーンを捕らえられるかもしれない。
 でも、この魔力は『海の魔法石』…?
 王子は封じられたものが解除されていないので、魔法が使えないはず…なのに、使えると言うことは…フールシアに会ったのか?
 だったら、彼女達だけでは、逃げられてしまうかも知れない…。
 ソフィアは立ち上がった。
 王子の足に下からつたが伸びてきて、捕まって、体制が崩れ、落ちそうな王子をリーンが捕まえて、つたを引き離そうとしている。
「もう少しなのに!」
 リーンが『空のやいば』、かまいたちで、つたを切り落とした。
 その瞬間、ソフィアは『瞬足移動』を使い、リーンの背後に移動し、ポンとリーンの背中を押した。
 それに気付いたリーンは振り返り、目を見張る。
 このままだと、逃げられてしまうの。
 逃げられてしまうと、私の楽しみが一つ減ってしまうのよ。
 ソフィアは微笑んだ。
 リーンと同じように、長い時間を生きるソフィアにとって、リーンの喜怒哀楽が、楽しみの一つになっている。
 まだ、誰も見たことの無い、リーンが見てみたい。
 これが、ソフィアが見た、リーンが変化するキッカケのスイッチだった。

 そのまま、バランスを崩した二人は、地上で待ち構える魔女の元に落ちていった。


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