帰ってきた猫ちゃん

転生新語

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第一章『吾輩は猫である』

1 猫ちゃん、目が覚める

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 夢からめると、吾輩は畳の上で寝転がっていた。時刻は昼頃だろうか。無職の猫には早起きの必要など無い。ひげに湿度は感じられないから、本日は快晴であると分かる。時は令和三年、三月。今年は東京オリンピックが開催されるかどうかと世間で騒がれている。

 欠伸をしながら起き上がると、吾輩、部屋のすみにある薄い板状の機械に向かっていく。前足の先からニュッと爪を伸ばして、その爪でスイッチを押す。起動した機械は本を読むためのものだ。

 きんドル、とかいう名前らしい。金やドルが好きなアメリカ辺りが作った機械であろう。これは便利なもので、猫の吾輩でも電子書籍を読むことができる。前足の先で画面をさすれば操作が可能だ。常に部屋に置きっぱなしなのを勝手に使わせてもらっている。

 吾輩を飼っている主人は中年男で、小説家であるらしい。らしい、というのは吾輩、主人の小説を読んだことが無いので。本当に書いているのであろうか、あまり興味も無いので分からない。「好奇心は猫をも殺す」ということわざもあるし追及はするまい。

 小説家だからか、主人が所有している金ドルの中には様々な読み物が入っている。資料として使うのか、あるいは単に趣味であろうか。小説よりマンガが多いのはどうかと思う。

 お陰で吾輩、すっかり少年漫画に詳しくなってしまった。吾輩の日本語学習は大半がジャンプからのものだったかも知れない。「漫画ばかり読んでいると馬鹿になる」というが、ならば吾輩は馬鹿の典型であろう。だらだらと生きて五歳になった中年の猫である。

 言い訳をしておくと吾輩、小説も読んでいる。漱石先生の作品だって読んでいるのだ。まあ読み始めたのは最近の事だというのは認めておこう。『吾輩は猫である』は良かった。

 何と言っても猫が主人公というのが良い。あれが犬ではいけない。猫が読むのだから、そりゃあ猫が中心の話が好まれるに決まっているではないか。少女漫画を少女が読むのと同様だ。

 吾輩、性別はおすだから少年漫画の方が好きである。漫画の話はどうでもいい。漱石先生の小説の話をすると、やはり昔の話であるから、分かりにくい部分はある。トチメンボーがどうとか言われても、ちょっと良く分からない。また『吾輩は……』は、難しい漢語も多い。

 漱石先生の、いかにもインテリを鼻に掛けたような文章に多少は辟易へきえきとさせられたのも事実ではある。心が汚れた中年猫になってから漱石先生を読むと、そういう感想も浮かぶのだ。

 しかし、それでも『吾輩は……』は名作である。この作品によって漱石先生は現在の、小説の書き言葉を発明したようなもので、これが無ければ吾輩が楽しく読んでいるライトノベルも今の時代にあるまい。ラノベ原作の深夜アニメもあるまい。深夜アニメは吾輩、見ないから別にどうでも良いのだが。「水の呼吸!」とか言われても盛り上がれる世代ではないので。

 つまり言いたいのは、吾輩は漱石先生をリスペクトしているという事だ。一人称が吾輩という時点で明らかであろうが。同時に吾輩、令和を生きる猫であるので、あまり難しい漢語とかは使いたくない。リスペクトしつつも今という時代の言葉を生かすべきであろう。

 そう思いませんか、漱石先生。先生の作品とは形もテーマも違うのは当たり前であるので。吾輩は吾輩の言葉で日常を語りたいと思うのでありました。そんな所存です。

 金ドルで電子書籍の漫画を読んでいると、良く分からない事をつらつらと考えてしまった。

 このまま部屋の中で漫画を読んでいるだけでは話が進まないではないか。場面を転換しよう。
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